結婚とは……
「ただいま」
自宅マンションに帰ると、
「おかえり」
奥村はまだ起きていた。
「これから入浴しようと思ってたの。一緒に入ろうか」
「コミュニケーションの時間だな」
レギュラー番組が一本増えて擦違いが多くなるだろうなとは思っていたが、彼女が言うように何とかなるものである。
「何か表情が硬いけど、何かあったの?」
「入浴中に話す」
準備をして浴室へ。
相方に背中を含め全身を洗って貰いながら、
「秋久っていう弟がいるんだけど、結婚して9月には子供が産まれるんだってさ」
「へえ、おめでたい事じゃない。なのに複雑そうな表情なのはどうしてなの?」
問題はそこだ。今度はオレが相方の身体を洗う番。
「きっかけはお袋の妹、叔母が結婚した時からかなあ」
「寂しかったとか?」
「何で解るんだよ?」
「だってそのくらいしか思い付かないんだもん」
鋭い。看破されたか……。
「当時はまだ3歳だったかなあ。あんまり記憶はないけど、朝早くに起こされていつもとは違う服に着替えさせられて、訳も解らずにマイクロバスに乗せられて、府中市(東京都)のホテルまで行ったんだよ。そしたらいつもとは服装、メイクも含めて雰囲気が違う叔母がいた。隣には知らない男性もね」
「旦那さんだね」
「そう。何も分からないまま結婚式、披露宴が終わって、叔母は羽村の実家暮らしだったんだけど、叔母は実家からいなくなって府中に移った。多分寂しいと感じたのはその時だったんだろうなあ」
相方の背中や腕を洗いながら当時を回想する。
小枝子曰く、暫くは「姉ちゃんがいない。姉ちゃんがいない」と泣いていたのだとか。
でも小枝子からは「姉ちゃんは結婚して、もう爺ちゃんのおうちには帰って来ないの」という説明もされなかった。それは叔母も同じ。
「だから友達が結婚するって聞くと、口では「おめでとう」とは言うしお祝いの品を贈ったりもするけど、何か自分から離れて行くようで未だに寂しい。幼児期の気持ちのまま、気付けばアラサー。仕方ないのか、オレがまだまだ成長してないのかもね」
相方に今まで誰にも言わなかった心情を吐露し、少しすっきりしたような気もする。
「仕方ないんじゃない」
「あんたも確言するね」
シャワーで相方の身体を流す。
「幼児体験は仕方ないよ。それもひっくるめて自分を受入れな。幼少期に感じた想いもひっくるめて今の中山裕介がいるんだから」
「自分を受入れる、かっ……」
「ねえ、弟さんが結婚したんだから、私達もそろそろ入籍の事考えない?」
「弟と同じ年に結婚。何も兄弟揃って同年に結婚しなくても。来年でも良くね? まだ2人の関係が続いていれば」
「続いていればって何?」
奥村はふざけてムッとした顔付。
「じゃあさ、来年の2人の誕生日、どちらかに決めて籍入れようよ」
私もアラサー。友達や後輩、同級生もどんどん結婚してもう子供がいる子もいるし。そろそろユースケにも真剣に考えて貰わなくっちゃね。
「解った。念頭に入れとく」
「失念しないでよ」
相方を信用してない訳じゃないんだけど、鋭い目で念は押しておく。
「失念なんかしないよ。大事な事じゃねえか。2人にとっては」
なら宜しい。




