白々しさ
「うなぎパイ美味しい!」
陣内社長は笑みを浮かべて頬張る。
翌日の午後、レギュラー番組の会議が終わった後にお土産を持参して事務所に立寄った。
「ほんとですね。流石は静岡名物!」
隣のナギジュンも至福の表情。
「喜んで頂けたのならオレも満足です」
「ユースケ君、今度はいつ旅行に行くの?」
「そんなにしょっちゅう旅行なんか行ける職業じゃないだろ。ロケハンで地方に行く事はあるけどな。その内解るよ、休み少なき放送作家の実情が」
現に30日の月曜にも『ーーSTREET』の会議はあるし。
「世間が年末だお正月だって言ってる時でも、会議や打合せの仕事が入るのがこの業界の常なの」
社長はうなぎパイを食べ終えコーヒーを一口。
「冬休みとかもないんですか?」
「世間が休んでる時に休みがないのもこの業界の常」
「そうなんだ……」
「露骨にがっかりした顔すんな!」
「ナギジュンにもそのくらいの覚悟はして貰わないとね」
陣内社長と2人でけしかけるように諭す。までは良いのだが……。
「社長、<プラン9>から仕事のオファーが来てるんじゃないんですか」
オレの方から口火を切った。お土産を配るのは序で。本来の目的はこれから。
「珍しいねえ、中山君から仕事の話を持ち出すなんて」
「目を丸くしなくても良いじゃないですか。昨日下平から電話があって大方聞きましたけどね」
白々しいリアクションだった。
「そうよ、レギュラー7本目おめでとう。今度はワイドショーらしいけど、TOKYOーMSの長谷川編成局長の肝煎りの企画らしいよ。うちからは中山君とナギジュンを構成に参加させるから」
「えっ! 私もなんですか?」
ナギジュンも目を丸くする。彼女は初耳だからな。
「バラエティの要素が入ったワイドショー番組になるとは聞いたけど、中山君、またナギジュンの教育係をお願いね」
「はい。解ってます」
「ナギジュンもバラエティとはいえニュースを扱った番組だから、色々勉強して来るんだよ」
「はい社長! 頑張ります! ユースケ君また宜しくね!!」
ナギジュンはガッツポーズまで見せる。言動にはかなり気合が入っているけれども、心中のやる気はどれ程のボルテージなのかいな?
「振り向けばTOKYOーMSって揶揄されるくらいだから、初回から二桁は難しいだろうけど、6%台に行けば及第点だろうね。私が言うのも何だけど」
陣内社長は「フフンッ」と鼻で笑う。
「まあそうでしょうね」
制作費も数字も他のキー局より正直劣るTOKYOーMS。数字までは誰も予測が着かない。でもベンチャーなコンテンツも多く、一部の若者にはウケているのもまた事実。今回の新番は若者ウケするのやら……。
30日の『ーーSTREET』の会議。お土産のうなぎパイを振る舞い大石さんは、
「聞いたよユースケ君、また希ちゃんとバディを組むんだってね」
にっこりして一言。
「もう話が広がってますか」
噂は直ぐに拡散するものだ。
「大石さん、オレもその番組のスタッフに入ってるんですけど」
「私もです」
大場とナギジュンは控えめに手を挙げる。
「この4人が揃えば絶対に面白いコンテンツになるって信じてる。頑張ってね」
破顔する大石さんだが、今の言葉は本音? 他局の番組は知らん! という気持ちか? 大石さんの性格上無責任な事は言わないとは思うが、こればっかりはどっちかどうか解らぬ。
「あたしも、またプロデューサーですから。こんなに早く第二弾が来るとは思わなかったなあ」
下平の嬉しそうな顔。見ているこっちが何か不安になるのは何故か……バラエティ班が制作する数字だろうな。
「希ちゃんは『ーーSTREET』も当てて今ノリにノッてるから大丈夫よ。でも4人共、この番組も疎かにしないでね」
大石さんは笑顔で念を押し目もマジ。これは本音だろう。
「別に手を抜くつもりはありませんよ」
「解ってますよ! 大石さん!」
下平は声も弾み快活。
TOKYOーMSの20年ぶりのワイドショー番組。しかも編成局長も気合が入っているとは後で窺知した。
大石、下平、大場、奈木野の笑顔を見ている内に衷心が浮かんで来るのであった。しかしバラエティ班が制作するワイドショー番組。下平希プロデュース第二弾、始まる前から疑義を持ってはいけないが、数字の面でも本当に当たるのや否や……。
何れにせよ、やってみなけりゃ解らない、である。




