ファビュラス
全ての予定を終え、やっとホテルで寛ぐ。オレはテレビを観ながら一服。奥村も自分のベッドにゆったりと座っている。
「タバコも近い内に全面禁煙になるからね」
「ニュースや新聞で見ておりますよ」
一々煩えなあ……とは思うんだけど、世の中の動きは彼女の言う通りだからなあ。
20時近くなってオレのスマートフォンがバイブし始めた。画面には下平希。
「プロデューサーから電話だ。ちょっとトイレで話して来るわ」
「うん」
トイレに入って通話ボタンを押すと、
『旅行は楽しんだ? ファビュラスなプロデューサーですよ』
テレビ電話かい……。しかも居酒屋か何処かの店かららしく酔ってるな。
『ファビュラスなディレクターもいるよー』
枦山さんも顔を出した。どうやら自撮り棒を使っているみたいだ。そこまでして……。
それにしても2人共にこやかな顔な事。良い酒だ。
「何だよテレビ電話まで掛けて来て。今から緊急ミーティングでもするのか?」
『いや、ユースケが彼女と今頃ラブラブしてんのかなあって、夕貴と話してたの』
「まだしてねえよ。特に用がないんだったら切るぞ」
『ちょっと待って! あたしから報告があるんだよ』
「報告? 旦那と最近仲良くしてるとかか」
『その通り! 良く分かったね。ユースケ勘良いじゃん』
「ありがとよ。でも仲直りするのに随分時間を要したな」
『ほんとは夏頃に帰って来てくれたんだけど、何かぎくしゃくしててさ。離婚する! っていうような喧嘩だったから』
「そう。でも今は上手く行ってるようで何よりじゃん」
『ありがと。ユースケもせっかく休み取れたんだからラブラブしちゃいなよ。あたしも帰ってラブラブしちゃおっかなあ』
「フーー……」
鼻から溜息が出てしまう。休みが取れたって、明日の午前中の新幹線で帰京するんだけど。
『死ねよマジで! 死ねほんとに!』
オレの代わりに枦山さんがツッコんだ。
『じゃあそういう事だから』
『お土産楽しみにしてるよ! まさかないんじゃないよね』
枦山さんの鋭い目。
「買ったよ。うなぎパイ。今度の『ーーSTREET』の会議で持って行くから」
『そう。じゃあ楽しみにしてるね。ファビュラスなディレクターと』
『プロデューサーでしたー』
画面が元へ戻る。ファビュラスというのか、2人共頭の中はワンダフルというのか……。
電話が終わったらしく、ユースケが出て来た。
「仕事の話だったの?」
「いいや。去年結婚した下平っていうプロデューサー覚えてる?」
「ああ、女友達でもあるっていう人ね」
「そっ。何か旦那と喧嘩してたみたいだけど仲直りしたんだってさ」
説明するのもバカらしい。
「そうなんだ。良かったじゃない」
「ハーー……」
相方は力が抜けたようにベッドに座った。
「ねえ、明日は何時の新幹線なんだっけ?」
「今日と同じ10時台」
「まだ寝るのは早いけど、久しぶりに一緒にお風呂入ろっか」
「誘われるとは思ってたけどね」
ユースケは子細ありそうな表情。
「何? 私とはご不満なの?」
「いえ、とんでもない」
「じゃあ入ろう!」
テレビを消した。
私の精神状態も元へと戻った。今日、佐藤政行に向けて笑顔で手を振った事によって、吹っ切れたのかも。改めて、ありがとう、ユースケ。
「コミュニケーションの時間、復活! だね」
「風呂は禊ぎの場か」
私は破顔して、相方は微笑を浮かべてベッドから立上った。




