いざ駿府城へ
1時間ちょっとで静岡駅に到着した。まずは相方こと中山裕介が楽しみにしていた駿府城公園へ。
坂を上がって行くとやがて復元されたという櫓が見えて来て、
「やっぱ天下人の城とあって櫓も大きいなあ」
私が言う訳ではなく、ユースケの第一声。その声はまだ城跡の中に入ってもいないのに嬉々としている。
「前に来た事あるんでしょ」
「改めて、だよ。何回見ても圧巻」
私は歴史は嫌いではないけれど、櫓を見ただけでは感動しない。
復元された東御門高麗門と東御門櫓門から城内へ。と言っても建造物はない。同じく復元された巽櫓や坤櫓にはまだ入らず、相方は本丸の方へと歩いて行った。私も黙って後へ続く。
「見てみろよ。昔時は家康に謁見する為に大名にとっては「緊張の空間」だった場所も、今じゃ市民にとって「憩いの空間」だよ」
相方は薀蓄を口にするでもなく、素直な気持ちを言ったのだろう。
「そうだね」
園内には子供連れの母親や男女のお年寄りが集っている。お正月前だけど、父親と一緒に凧揚げを楽しんでいる男の子もいた。
天守跡の方へ行ってみると現在発掘調査中。
「この城の天守台は江戸城を上回る日本一の大きさだったんだ。復元するには60から百億円が掛かるらしい。
豊臣方の大名が城主となった後に、家康が増改築した。秀吉は城主となった家臣に天守を造らせたそうだけど、家康は秀吉の死後にもっと巨大な天守を天下普請で造らせた。
専門家は豊臣方と徳川方の天守台の遺構が同じ場所に現存するのは駿府城だけだって言ってる」
はい、良く勉強されて。
「そうなんだ」
覚悟はしていたけど、これも後のお楽しみまで我慢我慢。「何で天守台はなくなったの」なんて訊こうものならまた話が長くなるのは必至。だから相槌だけにしとく。
ユースケはスマートフォンで写真を撮って行く。その後は巽櫓と坤櫓の中へ。内部は忠実に復元されていて、巽櫓の中には天守の復元模型が展示されているんだけど、ユースケはまたスマートフォンで『パシャ』。
「いけないんだあ。資料館の展示物を撮っちゃ」
「2、3枚は良いだろう」
「枚数の問題じゃないよ」
今のこの男には何を言っても無駄だ。
坤櫓は二の丸の南西にある。
「この櫓は外観は二層だけど、内部は三階構造で、縦横約14メートルととても大規模な櫓なんだよ」
また始まった……。見れば大きいのは解るよ。家康のお城なんでしょ? またツッコんでやろうかと思ったけど、気分を害されるのも悪いので、
「へえー、そんなに大きいんだ」
調子を合わせてあげる。私もお人好しだけど。
中へ入ると木の馨しさが鼻腔をつく。相方はまた櫓の中から外の景色を『パシャパシャ』と……。
「写真ばっかり撮ってるけど、せっかく来たのにちゃんと見てるの?」
「見てるよ。確り見た上で撮ってんだからさ」
どうだか。私は放っておいて中をゆっくり見学する事にした。
櫓から出てユースケはリュックから携帯灰皿とタバコを取り出し一服。さぞや美味しい事でしょうね。
心底安心した様子で吸う彼を見ている内に、私の心中で「タバコへの興味」が沸立って来た。
「私にも一本ちょうだいよ」
「吸うの?」
彼の意想外そうな表情が何ともいじらしい。
「急に吸いたくなっちゃった。何かタバコって、吸口の所に穴を開ければミリ数が軽くなるって、聞いた事あるの」
「ふーん。オレは聞いた事ないけど。でもこれ1ミリだから」
ユースケがタバコの箱を私に差出し、1本抜取りバッグの中からボールペンを取出して、吸い口にペンの先を押付けて穴を開けた。
彼は、冬用の厚手のジージャンのポケットからライターを取出すと、手をかざして火を点けてくれる。
タバコを吸うのは、東大生の当時にやっぱり興味本位で友達数人と一緒に吸って以来だ。思いっ切り吸い込んでみる。
「ゲホッゲホッゲホッ! やっぱ美味しくはない」
「いきなりオーバーに吸い込むから噎せるんだよ。只吹すんじゃなくて、煙を肺に入れるのはご存知の様だけど」
相方は「フンッ」と鼻で嗤ってニヤリ。
「タバコの吸い方くらい知ってんだよ! こんな不味くて舌に脂が付いて苦味を感じる様なの、良く毎日何本も吸ってるね」
「鼻から煙出しちゃって。考え事とかしてると、頭が覚醒して良いんだよ。価格は上がる一方だけど」
「一箱千円になってもヘビースモーカーでいるつもり?」
「吸ってる場合じゃないだろうな。一箱千円なら。富裕層の嗜好品と化しちゃうだろうよ」
相方は最後の紫煙を空に向け吐出すと、タバコを地面に擦付けて火を消す。
「得意満面で解説したかと思えば、急に苦笑い浮かべちゃってさ。残酷だよね、現実って」
私も火を消し、ユースケが差出した携帯灰皿に入れた。
「苦笑い浮かべさせたのは誰だよ。さっ、一通り見終わったし最後に外から巽櫓や門と坤櫓の外観の写真を撮りたい」
表情も口振りも満足そうでライト。けど、
「どうぞお好きに」
好きなのは解るけど流石に呆れる。ていうかもっと前に呆れてるんだけど。
「私お腹空いちゃったんだけど、相方は空いてないの?」
気色ばんで言ってみる。
「解ってるって。オレも空いてるからちょっと待ってろ」
ユースケ、何故あんたも気色ばむ? なら期待するけど、まさか静岡にまで来てファストフード店だったらほんとにビンタするかもよ。
私達は城外に出て、私はベンチに座って休憩し、相方は好きなようにさせてあげた。
「よし! 遅くなったけど昼飯にしよう」
満足した笑顔の相方に対し、
「遅過ぎるんですけど」
態とムッとした顔。
「悪かったな。店は決めてあるから」
自分の趣味に付合わせた事に「悪い」というのは自覚してるんだ、この男。




