癒しの旅行計画
12月中旬の夜。
「この前小銭も入ったし、何処か小旅行にでも行くかなあ」
何となく相方に言ってみた。
「良いねえ。でもお休み取れるの?」
「半日くらいだったら泊りでも何とかなると思う。そっちは?」
「私も繁忙期ではあるけど、今年は有給使ってないから何とかなるとは思う。それで何処に行く?」
「近場だと新幹線で静岡とかどうだろう」
「良いねえ。浜松は鰻が美味しいし、海鮮丼も名物だから」
笑う奥村。スレンダーな大食い。食欲も戻り安心はしたのだが。
「その前に駿府城に行ってみたい」
「そんなお城あるの」
「静岡市にね。家康の隠居城。あそこは2014年の4月に二の丸坤櫓が復元されてて、オレまだ写真でしか見た事ないんだよ。巽櫓は見たし中に入った事もあるけど」
「目を輝かせて言うね。流石はThe Castle Geek(城オタク)」
呆れて嗤われ、
「悪かったな、それぐらいしか趣味がなくて」
ついムキになってしまうアラサー男。我ながら心が小さい奴。
「別に悪いというニュアンスで言ったつもりはないよ」
目が嗤ってんだよ。だが構わず。
「最近じゃ天守台の石垣や金箔瓦が発掘されてて、天守台を復元するって方針も静岡市は打ち出してる」
薀蓄を吐き出してしまうのだった。好きな分野だから……。
「忙しい仕事に就いてるのに、良くそんなに勉強する時間があるね」
「やっぱ呆れてるだろ。好きな事は時間を見付けてネットで調べるよ。日本史をおちょくるなよ!」
自分でも呆れるがムッと来る。
「別におちょくってないって。早く日日決めよう。私も会社に伝えなきゃいけないし」
相方は明らかにからかいの嗤いだが、確かに行くとなれば早く日日を決めなくては。
翌日の午前中。会議前に事務所に出向いた。
「半日だけ休みが欲しいって、どうするつもり?」
陣内社長には正直に言うしかない。
「駿府城公園……」
「駿府城公園?」
だが口が中々回らない。
「に、行きたいんです。静岡市にあるんですけど、家康が隠居する為に増改築させたんです。オレ、日本史と城巡りが好きなんで。今は門と櫓が数棟復元されてるだけなんですけどね」
何の事はない。陣内社長にも薀蓄を吐き出した。
「そう。それは解ったけど、ほんとにそれだけが目的なの?」
相変わらず鋭い目……。仕方ない。
「独りで行くんじゃないんです。交際してる彼女と」
「奥村さんね」
「はい……奥村真子を、少しでも癒してあげたいんです」
これでは自分から「放送作家某氏は自分です」と自白しているのと、同じ……。
「やっぱり「あの件」、中山君だったんだ」
「いや、それは違いますけど」
頑なに嘘を付いたがもう遅い訳で……。
「ふーん。何処かの正義の味方の作家だったんだ。でもデートが城跡なんて、フフフンッ! あり得ない! 奥村さんを癒すんじゃなくて自分が楽しんでるんじゃん」
「静岡は海産物が旨いんで、食事に関しては楽しみにしてるみたいですけどね」
「なら良いけど、ちょっとの間だけゆっくりして来な」
「ありがとうございます」
陣内社長の目は呆れというか物珍しい者を見るというか。幾ら爆笑されようが、オレはそういう事しか出来ない、性質な人間、でございましてね。
「話は変わるけど、ちょっとこの写真見てよ」
社長は苦笑いを浮かべながらA4の写真を数枚封筒から出した。
「脱がなくて良いってあれ程言ったのに、ナギジュン本当に脱ぎやがったの」
「セミヌードのグラビア、ですか」
見るとバスタオル一枚で胸を隠し半ケツのナギジュンがドヤ顔で笑っていたり、「細工」されたであろう胸を隠して歯を磨いているナギジュン。仕舞には全裸で正座し、胸とあそこを隠し微笑んでいるナギジュンが写っていた。
「これはもう臼杵さんとの対抗心っていうより、自分はこれだけ身体に自信があるっていう見せびらかしですね」
と、しか感想は出て来ない。女性の裸体だが、興奮というより呆れ、笑う気すらしない。
「私も彼女から明日グラビアの撮影ですって連絡来た時、やらかすだろうなとは予想してたんだけどね」
陣内社長も然り。序に溜息と頭を抱えてしまう。
「まっ、悪事を働いた訳ではないんですから、今回は大目に見てあげましょうよ」
「そうするしかないね。意識し合うライバルがいるっていうのは良い事だけさっ……」
「仕事で張合えって言いたいんですね」
「まあね」
「でも女性だけとはいえ、放送作家がグラビアを飾るようになって、何か作家も芸能人化して来ましたね」
「中山君もアナウンサーと交際してるし、その内スポーツ選手とかITの社長とかと交際する作家が出て来るかもね」
2人の心は呆れから諦め、未来予測へとシフトして行く。
「良いなあナギジュン。私も水着で良いんでグラビアに出てみたい」
ぼやくのは……。
「重留さんか」
いつの間に、ていうかここにもいたか、「見せたがりな奴」が。




