償いの東奔西走
翌日の午前中、オレはUSBを持参して『週刊現文』の編集部を訪ねた。応対したのは女性編集者。
「突然失礼します」
「貴方は?」
「放送作家の中山と申します」
名刺を差し出す。
「ああ、私は編集部の酒井と申します」
一応名刺交換。
「それで、今日はどういったご用件で?」
「TTHの女性アナウンサー兼報道記者が財務省の佐藤財務官からセクハラを受けています。証拠は、これです」
USBメモリーをバッグから取出す。
「ご覧になりますか?」
というより観て貰いに時間を作って訪れたのだ。
「確かに事実ならスクープですけど、まずは動画を観せて頂かない事には。こちらへどうぞ」
編集部隣の会議室に案内される。オレは自分のノートパソコンにUSBを繋ぎ、動画を再生させた。
酒井記者の感想は、
「これは、酷過ぎますね……」
あまりの映像に言葉が出ないようだ。顔も真っ青になり眉間に皺を寄せている。
「これは彼女が自分で録画した物です。声や動き、顔まで入っています。明らかに佐藤財務官で間違いないでしょう。しかも、最後の下着の中に手を入れる行為は、言わずもがな犯罪」
「これだけの証拠があれば記事には出来ますけど、警察の方には?」
「警察沙汰にする前に、まずは現文さんの方で公にして貰いたいんです。事件が事件ですから、遅かれ早かれ警察も動くとは思いますが」
「TTHの方は対応していないんですか?」
「報道すれば彼女が特定されて二次被害が出ると懸念して、全く動く気配もないそうです」
「そうですか。それで、幾らで売って貰えるんですか」
「高額を吹っ掛けるつもりはありません。でも条件があります。被害者は「TTHの女性記者」と匿名にしてください。それと、記事によって財務省、TTHがアクションを起こすような内容になるようお願いします。この二つの条件を呑んで頂ければ、僕は幾らでも構いません。もし出来ないのであれば、他の週刊誌を当たってみますが」
若干揺さぶりを掛けてみた。
「いや、同じ女性として佐藤財務官の行為は許されるものではありません。私に書かせてください」
酒井記者は真顔で、目には怒りの熱が籠る。
「そうですか。じゃあ宜しくお願いします」
「解りました。任せてください。それで、中山さんと被害者の女性記者との関係は?」
「「懇意にしている友人」、又は「放送作家N」でも、僕は構いません。只、この件を公にしたいだけですので」
「了解ました。じゃあ「懇意にしている放送作家N氏」で行きましょう。中山さんが出された条件で記事にしてみせます」
酒井記者は頼もしく決然とした表情を浮かべてはいるが、さあ、どのような内容になるのか。奥村が望んでいるようになるのか、確信もなければ確言も出来ない。だが……。
「ぜひ宜しくお願いします」
もう後には引けないのだ。
オレは酒井記者のパソコンに動画を移し、託した。これで今オレが出来る事はやったつもりではいるが、さて、財務省とTTH、警察がどのような反応を見せるのやら……。
翌週の水曜日、週刊現文は『財務省のスキャンダル! TTH女性記者にセクハラ言動』と題してトップ記事にしてくれた。奥村は「TTHの女性記者O」、オレは「記者が懇意にしている放送作家某氏」と少し変えて記載されていたが、事件が公になれば良い事。
この報道を受け酒井記者から『音声だけは公開しても良いか?』と連絡が入り、奥村に了解を得た上で承諾した。
音声が公開された事で、一般紙、スポーツ各紙、報道、情報番組でも大々的に報じられた。TTH以外では。所が……。
記事が出た7日後、TTHは報道局次長を代表として急遽会見を開き、
「社員の人権を徹底的に守って行くと共に、財務省に対し正式に抗議する」
と述べた。




