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保身

 これだけの証拠がありながら、奥村が勤務するTTHはこの映像を観ても、何の対処もしないのだ。 酷い……酷過ぎる。殺生にも程がありはしないか。

 オレの中でも怒りと悔しさが益々込上げて来る。気付けばオレは立上り、相方を抱きしめていた。


「悪かったな。相方の事を、何にも見てなかった」

 改めて謝罪する言葉しか出ない。相方は何も言わず、一旦止まった筈だが、オレの左肩で再度泣き続けている。黒いジレと白いYシャツに涙が染みて冷たいが、それは言わないのが当り前。

 奥村真子の悔しさは計知れないし、女性なら悔しく怒りの感情を抱いて当然だ。

 

 それと、オレも佐藤政行財務官と一緒で尻フェチなのだが、今は触ってはならぬ……。これも、無論当たり前だ。

「相方、この動画貸してくれ」

 相方はやっと顔を上げ、

「放送作家に何が出来るの」

 やや不安げな口振り。

「やるだけの事はやってみる」

 確信はないが動画をUSBメモリーに移した。オレにとっても屈辱的な動画。

 

 まずは動画を「誰かに」観て貰わねば。真っ先に顔が浮かんだのは大石さんだった。明日は会議の日ではないが、来週まで待つ程悠長な問題ではない。

「明日ちょっと時間を貰えないでしょうか?」

 直ぐに大石さんにメールを送信。約10分後に『どうかした?』と返信されて来た。

 「観て貰いたい動画があるんです」送信。『解った。何の動画かは知らないけど、夜なら良いよ』と返信が来た。


 翌日。他局で打合せやら会議に出席している時も夜が待ち遠しくうずうずしていた。

 19時ちょっと過ぎ、TTHの『高ネオ STREET』のスタッフルームに大石さんを訪ねる。

「時間を作って貰ってありがとうございます」

「良いんだよ、別に。それより「観て貰いたい動画」って、何か面白いものでも撮れたの?」

 大石さんは事情が解っていない為、今は破顔している。


「面白いっていうより陰惨を極めます」

「陰惨? てどんな動画?」

 オレが真顔な事もあって、大石さんも笑顔を消す。

 オレはノートパソコンを起動させ、持って来たヘッドフォンとUSBを取り付けた。

「音が漏れちゃヤバいの?」

「ええ。ここだけにしておいた方が良いと思います」

 早速動画を再生する。

 数分動画を観て、大石さんは眉間に皺を寄せ顔をしかめた。

「えっ!? 何これ? AVの隠し撮り企画とかじゃないよね?」


「被害に遭ったのはこの局、TTHのアナウンサー兼報道記者の、奥村真子です。そして加害者は財務省の佐藤政行財務官だそうです」

「これほんとにヤバいやつじゃない。どうして私に観せてくれたの」

「TTHはこの件を報道すれば二次被害が出る恐れがあると言って、報道するのを渋ったそうです。だからこの動画をTTH独占スクープとして報道して貰いたいんです」


「うーん……。気持ちは解るけど、うちでは難しいんじゃないかなあ。他の局間で軋轢を生む可能性もあるから」

「TTHはやっぱり保身に走るんですね」

 腕組をして頭を捻ってくれている人に対して無礼な言葉が出てしまう。だがオレも切羽詰っている。

「これはTTHの問題だからさ、どうしたら局が動くか、それを考えよう」

「局を動かす……」

 今度はオレが腕組をしてしまう。


「TTHの報道局次長かアナウンス室長はこの動画を観てますから、僕が玄関から入っても無駄足でしょうし、テレビ局が駄目というのなら……週刊誌くらいでしょうか」

「そうだよユースケ君! 週刊誌に持って行くべきだよ。この動画を観たら黙ってはいないと私も思う」

 大石さんは確信を持った目で言うが、人間は困惑、面倒な案件を持出された時、他へ目を向かせようとする。大石さんもその類だ。こっちから依頼しといて無礼だが。人間の恐く狡猾な所。だが……。


「解りました。明日にでもこの動画を週刊誌に持って行きます。時間を取らせて、ありがとうございました」

 人間の目線の外し方と豹変ぶりを改めて痛切し、若干の悔しい感情を抱いても、慇懃に頭を下げる。でもヒントはくれた訳だから。

「うん。そうしな。ごめんね、このくらいの事しかアドバイス出来なくて。でも奥村の動画を持ってるなんて、ユースケ君彼女と友達なの?」

 案件を他へ向けさせたら今度は素朴な疑問、っか。


「まあ友達というか、交際してるんです。実は」

 愚直に答えてしまう。

「そうだったんだ。奇麗な人よだよね、奥村アナって」

「普通の女性ですよ」

 勝気なくせに極度の上り症ではありますが。

「彼女を守ろうと動くなんて、存外男気があるんだね、ユースケ君も」

 にやついた目で言われ小っ恥ずかしくなり、

「別に。黙って見ていられなかっただけですから」

「そこが男気なんだよ。その気持が大事」

「それじゃあ失礼します」

 再度頭を下げて足早にスタッフルームを後にした。


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