第22章・第九部 「崩壊する楽園 ― イグニッション停止」
轟音とともに、アーク・ネメシス全体が大きく傾いた。
イグニッション・コアの光が完全に消え、艦の動力は停止している。
だが、その反動で艦内部は次々と崩壊を始めていた。
焦げた鉄の匂いと、低い警告音。
中央区のゲートがゆっくりと閉じていく中、レイは父の残した黒い結晶を握りしめて立っていた。
「……父さん……終わったよ。」
背後から聞こえる声。
そこには、母・ユキと姉・アヤの姿があった。
ユキはまだ身体が完全には回復していなかったが、意識ははっきりしている。
「レイ、ここを出ましょう。艦が沈む前に……」
「ああ、行こう。」
3人は互いに肩を支え合いながら、崩れかけた通路を進む。
火花が散り、天井のパイプから蒸気が吹き出す中、レイは前方の非常扉をこじ開けた。
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艦外デッキに出ると、そこにはすでにナツキとシュンの姿があった。
ホワイトホースの機動隊が展開し、支援艇が浮かんでいる。
ナツキがレイを見つけると、すぐに駆け寄った。
「レイっ!」
「ナツキ……来てくれたのか。」
「当然でしょ。あなたを置いて帰れるわけない。」
レイが微笑む。
その背後でシュンが肩をすくめた。
「まったく、お前ってやつはいつもギリギリだな。」
「……悪い、心配かけた。」
短いやり取りの後、ナツキがユキの腕を支えた。
「この人が……レイのお母さん?」
「ええ……ナツキちゃんね。久しぶり。」
ナツキが驚いたように目を見開く。
記憶の奥底――幼い頃に見た温かい笑顔が、ほんの一瞬よみがえった。
「……まさか、あの時の……」
だが感慨に浸る間もなく、背後で艦の爆音が響く。
アーク・ネメシスの船体がゆっくりと崩壊しながら、硫黄島の海上へと沈み始めていた。
「全員退避! 支援艇に乗れ!」
ホワイトホース隊員の声が響き、レイたちは支援艇へと飛び乗った。
空へと上昇していくその瞬間、巨大な艦が光とともに海へ沈んでいく。
⸻
数時間後。
ホワイトホース本部・医療棟。
ユキは再び治療室に運ばれ、医療班が集中ケアを行っていた。
レイはガラス越しにその様子を見つめ、静かに呟いた。
「母さんは、まだ戦ってるんだな。」
ナツキが隣で微笑む。
「でも、ちゃんと戻ってきたじゃない。
あなたも、お母さんも。」
レイは小さくうなずく。
その横でミカが医師と話しながら報告する。
「母の容態は安定しています。……奇跡的だと。」
レイは息を吐き、胸のポケットから父の残した黒い結晶を取り出した。
微かに脈動するそれを見つめながら、静かに言った。
「父さんの夢も、母さんの願いも……どちらも無駄にはしない。
この世界の“境界”を、俺たちが変えてみせる。」
ナツキがその言葉に微笑み、
ミカとシュンも静かにうなずいた。
窓の外では、夜明けの光がゆっくりと差し込み始めていた。
新しい時代の幕開けを告げるように。




