第22章・第八部 「父と子 ― 最後の対話」
アーク・ネメシス中央区、イグニッション・コアを見下ろす高台。
赤と黒の光が入り混じり、まるで空間そのものが脈動しているようだった。
その中央に、神崎リョウと神崎レイが向かい合って立っていた。
艦の揺れ、警報音、そして遠くで響く戦闘の音――
それらがすべて遠のいていく。
レイには、父の姿だけが見えていた。
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「……父さん。どうしてこんなことをしたの?」
リョウはしばらく沈黙していた。
その瞳には、かつてホワイトホースの一員だった頃の優しさが、かすかに残っていた。
「……お前が小さかった頃、私はまだ夢を信じていた。
鬼も人も、共に生きられる世界を作れると。」
「でも、それを壊したのもあなたたちだ。ブラックタイガーを作って――」
リョウは静かに首を振る。
「違う。壊したのは“人間の恐怖”だ。
鬼が力を持てば恐れられ、迫害され、排除される。
それを止めるには、力で均衡を取るしかなかった。」
レイは拳を握りしめる。
「それで、母さんまで巻き込んだのか。」
リョウの瞳がわずかに揺れた。
その目には、深い後悔と、断ち切れない執念が宿っていた。
「……ユキは、最初から私を止めようとしていた。
だが彼女の研究がなければ、今のイグニッションも存在しない。
皮肉だな。人を救おうとした技術が、破壊の象徴になった。」
沈黙が流れた。
艦の低い唸りが、ふたりの呼吸の間に入り込む。
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「父さん。」
「なんだ。」
「俺は……鬼でも人間でもない。
でも、どちらも守りたいと思ってる。」
「……理想だ。現実はそんなに甘くない。」
「理想でもいい。母さんが信じたものを、俺も信じたい。」
リョウの表情がわずかに緩んだ。
その瞬間、彼は一歩だけレイに近づき、静かに右手を伸ばした。
「……お前は、ユキに似ている。」
その手がレイの肩に触れた瞬間、リョウの掌から黒い光が流れ込み、レイの胸に一瞬熱が走る。
しかしそれは、攻撃ではなかった。
「……父さん?」
「これは、“継承”だ。
お前の中の闇を、完全に制御できるようにする。
……その力で、私の夢を超えてみせろ。」
リョウは微かに笑い、視線を空に向けた。
「ユキ……あいつを、頼んだぞ。」
その言葉とともに、ゲイルの身体がゆっくりと光に包まれていく。
まるで闇が光に溶けていくように。
レイは叫んだ。
「父さん――!」
だが、その声は届かない。
光が弾け、静寂が訪れる。
レイの掌には、父の残した黒い結晶がひとつ。
それは、彼の“意志”のかけらだった。
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艦の振動が止み、イグニッションの光も収束した。
静けさの中で、レイはゆっくりと息を吐いた。
「……ありがとう、父さん。
今度は俺が、この世界の境界を超えてみせる。」




