第22章・第六部 「潜む亀裂 ― 目覚めの鼓動」
アーク・ネメシス第7区画。
エネルギー炉がゆっくりと脈動を始めていた。
黒い光が柱のように立ち昇り、艦全体が低い唸り声を上げる。
「――出力、上昇中。臨界まであと70時間。」
研究員たちの声が飛び交う中、神崎ゲイルはその光景を静かに見つめていた。
彼の表情は満足げでありながら、どこか焦燥にも似た陰を落としている。
一方その頃、医療区画では。
レイの母・神崎ユキのカプセルの中で、微かに指が動いた。
ピッ……ピッ……
心拍を示すモニターの音が、一定のリズムから少しだけ高まる。
それを発見した医療班の一人が慌てて報告端末を取った。
「報告! 神崎ユキ様の脳波、反応あり! 覚醒兆候が見られます!」
その報告が父リョウとアヤ、そしてレイのもとへ届いた。
⸻
レイはすぐに医療区画へ走った。
ドアが開くと、光に包まれたカプセルの中で、母のまぶたがゆっくりと動いていた。
「……母さん……!」
ミカも駆けつけ、震える声で呼びかける。
ユキの目が薄く開かれ、視界の焦点が定まるまでに数秒かかった。
「……レイ……? アヤ……? ここは……?」
その声はかすれていたが、確かに意識を取り戻していた。
しかし次の瞬間、カプセルの制御盤に異常警告が走る。
医療スタッフが慌てて操作するも、内部のエネルギー波が暴走を始めていた。
「バイタルが不安定です! 何かに反応している!」
ユキの身体から淡い光が漏れ出し、まるで“闇”と“光”がせめぎ合うような波動が医療室全体を包み込む。
レイは思わず手を伸ばした。
「母さん! 落ち着いて!」
その瞬間、ユキの瞳が一瞬だけ金色に光り、レイの胸の奥に激しい痛みが走る。
それは、以前覚醒しかけた“闇の力”と同じ反応だった。
「くっ……! な、なんだこれ……!」
ミカがレイを支える。
しかし彼の体内でもう一つの力が共鳴を始めていた。
カプセルのガラスにひびが入り、白光が医療室を満たした。
――その瞬間、艦全体に警報が鳴り響く。
「警告! エネルギーコアと医療区画から同一波形の共鳴反応! 出力が上昇中!」
リョウは即座に通信を開いた。
「……ユキ。まさか、君が……!」
ユキの覚醒と同時に、《イグニッション》の動作に予期せぬ異常が発生した。
それは、闇と光――二つのエネルギーが同調を始めたことを意味していた。
⸻
翌朝。
医療室の光が収まり、ユキは再び静かに眠りについた。
しかし彼女の脈は安定しており、確かに“生き返った”と確認された。
その様子を見つめながら、アヤが小さくつぶやいた。
「……母さんが、あのシステムに干渉したの?」
「わからない。でも……母さんは何かを止めようとしてる気がする。」
レイは拳を握りしめた。
胸の奥で、あの金色の光がまだ微かに脈打っている。
「父さんの計画――イグニッション。
あれはきっと……このまま進めちゃいけない。」
その瞳には、再び“決意”の光が宿っていた。




