第22章・第五部 「イグニッション ― 眠れる母と兄妹の誓い」
ブラックタイガー本部――
“アーク・ネメシス”の中心制御棟。
その冷たい金属の壁に囲まれた会議室で、レイとミカは父・神崎リョウの前に立っていた。
ゲイルの目の奥には、戦いとは別の“何か”が燃えていた。
机上の立体ホログラムに、巨大な黒い艦と地球の軌道図が浮かぶ。
「――これが次段階計画、《イグニッション》だ。」
ゲイルは静かに口を開く。
それは、地球の上空に新たなエネルギー炉を展開し、
そこから“闇の力”を安定供給するための壮大な計画だった。
「人類を二分して争う時代は終わる。
真に支配する者が、ひとつにまとめる時が来た。」
アヤは目を細め、どこか不安げに父を見る。
レイは黙ったまま、ホログラムを見つめていた。
その時、リョウはレイの方へ歩み寄り、黒を基調とした特殊な服を差し出した。
「これはブラックタイガーの正式な隊員服だ。
お前は今日から、“特別監視要員”として我々の行動を共にする。」
レイは受け取るが、その瞳は迷いに揺れていた。
父の背後にある巨大な目的を理解しながらも――
心のどこかで、ナツキやシュン、そしてホワイトホースの仲間たちの顔が浮かんでいた。
⸻
夜。
照明を落とした医療区画の一室。
レイは眠り続ける母の入った透明なカプセルの前に立っていた。
薄いガラスの向こうで、母の顔は穏やかに微笑んでいるようにも見える。
「……母さん。俺、どうすればいいんだろう。」
答えのない問いが静寂に消える。
その背後から、静かな足音が聞こえた。
振り返ると、そこにはアヤがいた。
「やっぱり、ここにいたのね。」
「……母さん、まだ眠ってる。」
「父さんの計画、どう思う?」
レイは少し間を置き、
カプセルの光に照らされた瞳で答えた。
「あれは……人のためじゃない。支配のためだ。
俺は……まだ迷ってる。でも、母さんが何を願ったのか、それを知りたい。」
アヤは小さくうなずき、レイの隣に立った。
「……私も。父の理想の影で、何かが歪んでる気がするの。」
二人の間に、ほんの一瞬、兄妹としての静かな絆が戻る。
だがその背後では――本部の奥深くで、“イグニッション”のシステムが静かに起動を始めていた。
――カウントダウン、Tマイナス72時間。
闇の胎動が、再び世界を包もうとしていた。




