52 帝国の報告会
「そんなにここが嫌だったのか?ここはお風呂もあるし、食事も美味しいだろ?何かあったのか?」と俺は聞いてみた。
「アレンしぇんしぇいは息子に会わそうとしちゅこいし、マックチュはいちゅもおとーしゃんのこちょ見ちゅめているち!あたちの人生はあたちのものにゃんだから!おとーしゃんは誰にもあげにゃいんだからっ!」と、右手の拳を高々と上げて宣言されてしまった。
「そーだよなぁ〜。俺はエレナのもので、エレナは俺のものだよなぁ〜」と、つい顔がニヤけてしまう。
「俺達はずっと一緒だぞ?いいな?」とエレナに聞くと「じぇったいよ!」と、ちっちゃな小指を出して来た。
「ん?何だソレ?」俺も真似して小指を出すと、エレナが小指を絡めて来て「約束のマジナイよ。約束破ったら針千本飲んでもらうからね?」と言い「指切った!」と、いつの間にか怖ろしい呪いを掛けられてしまった。
破らないようガンバリマス…。
◆◇◆◇◆◇
その後、アレン先生とマックスの都合を聞いて『帝国での報告会』が開かれる。
出席者にスズメとマルタリカ国王もいて驚いた。
まだ何かあるのか???
ウチの第一王子はまだ起きられない、と言うより、心の傷がね……。
目の前で両親が殺される所を見ていたらしい。イヤ、見せられたんだろう。
それに、帝国でかなり酷い扱いを受けていて、見かねたフォルダスが助けたらしいんだけど、それでも気は休まらなかっただろう。
もう少し早く助けられていればな…
フォルダスも身体が辛そうだが、自国が仕出かした事だからと出席を希望したそうだ。
会議室に入り、執事が全員分の紅茶とケーキを配った。
エレナは俺の膝の上だ。サッサとケーキに手を付けている。コリャ、エレナの為に用意されたな?
◆◇◆◇◆◇
「まずはユリウス殿、我が国の宝のマルタカの剣を取り戻してくれて礼を言う。本当にありがとう」と、国王陛下が頭を下げた。
「お止め下さい!たまたま見つけられただけですよ」勘弁してくれ〜、国王が頭を下げるなんて…。
「ふむ。ならば、我が国で働かないか?屋敷でも金でも女でも、望む物は全て用意するぞ!どうだ?」
(ハハ〜ン、こっちが本当の狙いか)
満面の笑みで俺を口説きに掛かった国王に向かって、紅茶とケーキを食べていたエレナが片手を向けた。
イヤイヤイヤ、マズいですよ、エレナさん。
「俺はもう、国に関わる仕事をするつもりはありません。娘もいますし、穏やかに過ごしたいんですよ」
これは俺の本音だ。
何故かマックスが国王を睨み付け「兄上…」とボソッと呟いて唇を噛んでいる。
仲が悪いのかな?
エレナはマックスを見て、小指をウニウニ動かしてニヤけている。マジナイしたからね。破りませんとも。
俺はエレナの頭を撫でながら、そんな事を思っていた。
◆◇◆◇◆◇
「じゃあ次に魔法陣について」と、アレン先生は国王が何かを言う前に話を進めた。
ふぅ~、助かった。
「本当に存在したと報告があった。それを粉々に砕いたと。ユリウス殿、もう使えない事は間違い無いのか?」
国王に聞かれたので「はい、もう使えなくなりました。もし、また使用する事があれば創造神様がお怒りになって、その国がどうなるか分かりませんよ?」ニッコリ笑って、一応脅し文句を吐いておく。
「う、うむ。良く分かった。召喚の魔法陣は存在し使用不能になり、もし使用すると創造神様の怒りを買うと、そこまで明記しよう。良いな?」と、国王の側にいる文官らしき人に言っている。
◆◇◆◇◆◇
「では次に勇者について」アレン先生が進行役か。
「フォルダス殿。貴殿は勇者の存在を知っていたのか?」国王が眼光鋭く、フォルダスに問い詰める。
「いいえ、知りませんでした。ただ…、妙な人物が突然現れたのは、間違い無いです。いつも父と行動を共にしていて、気づいた時には人が消えていきました…。特に父に意見を言う者が居なくなる事が多く、時には子供まで、誰にも気づかれずに消えてしまいました……。私は何も出来ずに……ウッウッ」そこまで話して、フォルダスは泣き出してしまった。
後は俺から話そうか。
「皇帝も勇者も、人を殺すのが大好きだったようです。人知れず消えた人達は残念ながら皆、勇者に殺されてしまったと考えていいでしょう。ですが、ヤツは間違いなく殺しました。もうこの世界には存在しません」
フォルダスに視線を移すと、マックスが肩を叩いている。
フォルダスは泣きながら、スイマセンスイマセンと言っている。
エレナもやるせないだろうな。
「そうか…。それは善き報せだな」と国王が頷き、アレン先生に目をやる。
「ん゙ん゙。では次に皇帝の話を…」と言いつつフォルダスを見る。
一応父親だ。殺した話など聞きたく無いだろう。
マックスがフォルダスに退室を促したが、本人が拒否してしまった。
俺はもの凄く言い辛いのだが。はぁ〜。
「フォルダス殿、本当に聞きますか?かなり辛い話になりますよ?」俺が言えば考え直すかと思ったのだが。
◆◇◆◇◆◇
「大丈夫です。……父は不気味な存在でした。体中に飾る物が大好きで、どれだけ貢がれても満足する事がありませんでした。……女性達は皆、どこかで拐われて来たらしく、私の母もそうでした」フォルダスは一つ溜息を吐いた。
「一人に執着する事は無く、母が私を身ごもると、城の部屋に監禁されたそうです。私が母と暮らせたのは幸運でした。母が勉強を教えてくれて、行儀や礼儀作法も習う事が出来た。父は私には目もくれず、常にどこか上の空で、国の運営は大臣達に任せっぱなし。さすがに最近は老いに勝てなくなり、寝室に籠り出て来る事が無くなって…」そして俯き、話せなくなってしまった。
まるでエルタナと同じ生き方じゃないか。
フォルダスの独白は続きそうだが、俺の話をさせてもらおう。
「部屋から出て来なかったのは、肉体が崩れて魂だけになっていたからです。ドス黒く肥えた巨大な球体になっていました」
場にいた全員が、俺に疑いの目で見る。
一人を除いて。
「本当です。私も見ました」そう答えたのはスズメだ。
俺はスズメを見て頷く。
「皇帝は召喚の魔法陣に“魂替え”の術式を組み込み、作動させると体を乗っ取っていた。どのくらい生きていたのか分かりませんが、少なくともニ〜三百年生きていたかと思います」
俺にもハッキリとは分からんが、多分そのぐらいじゃないか?
「ハァ?肉体を乗り替えてたと言うのか?そんな事どうして出来るんだ!」アレン先生の言う事はもっともだ。
「エルタナが教えたそうです。その見返りが金銀財宝だった。あなたの国はエルタナを崇めてましたよね?」
フォルダスに話を振ると「そうです。エルタナ様は死後、女神に昇格されたと言い伝えられていて…」
クソがっ!




