48 皇帝ウェダスの最後
俺はドス黒い球体の回りを走りながら、何度も何度も斬りつけた。
『お前達は余の為に存在すれば良いのだ!エルタナ様のように余は崇高な存在なのだ!ギャーッ!』
斬り刻む毎に、白い炎に巻かれて魂の残骸が燃えて逝く。
どうやらこの白い炎は、創造神様の滅殺の力のようだ。
「お前に安らかな眠りなんて与えてやるか!エルタナのように永遠の苦しみを知るがいい!」
俺の心からの叫びを聞いた創造神様が〈うん、それ名案!そうしよっと〉と俺の頭の中で朗らかに言った。
半分ぐらいの大きさになったドス黒い球体が、突然切り口から真っ黒な油のような物を流し始めた。
床に垂れるとジューッと音がして煙を上げる。
〈あっ。ウェダスのヤツ、本当に往生際が悪いな。ユリウス君、その垂れてくる黒い油に触れないように。触れるとユリウス君が燃えちゃうよ?〉
「了解!」俺は素早く逃げ回り、細剣を振った。
皇帝の寝室だった部屋は、メチャクチャになったが構うもんか。
天井に穴まで空いた。
その時、ベッドボードの上の壁に一本の剣が飾ってあるのが見えた。
朱色の鞘に収まった見事なロングソードだ。
俺はその剣を手に取り、スズメのいる方へ放り投げた。
スズメは片手で掴み、剣を掲げた。「コレです!この剣です!」
ヨシッ!もう気にする必要は無いな。暴れまくってやる!
細剣を振る毎に小さくなるドス黒い球体。
『何をする!余の言う事は絶対だ!余は間違っていない!ギャーッ!』
俺の苦しみを思い知れ!
『余が欲したらお前達は何も考えずに持って来れば良いのだ!余の言う事をただ聞いておれば良いのだ!お前達の命すらも余に捧げるのだ!この世の全ては余のものだ!ハーッハッハッハッハ………』
多分、今まで国民の前で吐いた言葉を言っているのだろう。
何て中身の無い人間だったんだ。
ドス黒い油を回避し続け、とうとう手で包める程の大きさになった。
床からは油の燃えカスのように、ススがユラユラ空中を飛ぶ。
〈ユリウス君、ウェダスに剣を突き刺すんだ!〉創造神様の声に、俺はすぐさま反応した。
細剣を突き刺し『ギャーッ!』と皇帝の悲鳴が耳元で叫ぶ。
「ガリウレスの恨みだ!受け取れっ!」
そして白い炎が上がり轟々と燃える黒い魂。
『余は神よりも偉大な存在なのだ!敬意を払え!崇め讃えよ!畏れ慄くが良い!おのれっ!よくも……』
俺は白い炎を見つめ(少しは皆の無念を晴らせたかな…)と考えていた。
ドス黒い魂が燃え尽き、ススが空中を舞う。
結界が消え俺は終わったと安堵し、深く息を吸った。
その時、口の中にススが入り思わず飲み込んでしまった。
「ゲホッゲホッ、オェッ」俺のむせ返る咳を聞き〈あー!ユリウス君!大変だ、エレナちゃん!〉と頭の中で創造神様の焦り声が聞こえた。
『ハハハ!今度の体は良いではないか!これでまだまだ余は生きるのだ!ハーッハッハッ…』と頭の中でウェダスの声が聞こえる。
俺は息が苦しくなり、胸を押さえながら倒れ込んだ。
「ユリウスさん!」スズメが飛んで来て、俺の体を寝室から引きずり出した。
「ユリウスさん、しっかりして下さい!」スズメが俺の体を揺らす。
俺は喉と胸の違和感が拭えず「ゴホッゲホッゴホッ」とずっと咳をしていて話せなくなってしまう。
(創造神様、ウェダスが俺の中に…)
〈ユリウス君、体を乗っ取られる前に…〉
(自分を刺すしか無いですね)
〈必ず助ける!〉
(エレナを頼みます)
ごめんなエレナ。お前が大人になるまで、守ってやりたかったよ。
俺はローブを脱ぎ、細剣を掴み自分の心臓に突き刺した。
さすが創造神様が造った細剣。さして力も要らずに俺の体に入って行く。
『ギャーッ!まだ余の邪魔をするのか!やめろォ〜……』
お前は俺と一緒に死ぬんだよ。お前は終わりだ!
ズブズブと自分の心臓に細剣が入って行く。
不思議な光景だなぁ〜。痛みもそんなに感じない。
「何をやっているんですか?ユリウスさん!」スズメの声が、もう遠くから聞こえるようだ。
エレナが眠ってて良かった。こんな姿見せたくない。
エレナ、幸せになるんだよ。多分、アレン先生辺りが面倒を見てくれるだろう。
俺の命の終わりと共に、俺の中にいた皇帝ウェダスの魂の残骸も消えた。
◆◇◆◇◆◇
《エレナ視点》
私は黒木を倒し、王子二人を助けた後眠ってしまい、夢を見ていた。
退院してから今日までの事を。
退院のお祝いにちょっと良い宿に泊まろうと言う話になり、お父さんの知り合いに会って宿を紹介してもらった。
元帝国軍の兵士がお父さんに理不尽な言い掛かりを付け、襲って来たところを返り討ちにした。私も手伝った。一人偉そうにしてたヤツを火球で吹っ飛ばしてやったわ。
お米としょう油と味噌を見つけてくれた人の店で、試食を作って食べた。久しぶりの和食はとても美味しかった。
宿のお風呂はとても広くて、一人で入るのは無理だとお父さんに言われて一緒に入った。すっごく恥ずかしかったけど、お湯に浸かれて気持ち良かったな。
お父さんの体の傷が痛々しくて、悲しくなってしまった。だから思いつく限りの治し方を試したの。イメージが大事。細胞が一つずつキレイに治っていくイメージ。お父さんが光に包まれ傷一つ無い体を見た時、お父さんが泣き出した。痛かったのかとちょっと焦ったわ。お父さんにギュッと抱きしめられて「ありがとう」と言われた時は本当に嬉しかった。
宿の夕飯はお肉が美味しくてびっくりした。だって、昔何度か食べた黒毛和牛と同じくらい美味しかったんだもの!この世界にもちゃんと美味しい物がある。これも分かって嬉しかった。
そうそう、バルタムさん。ドワーフを初めて見て感動した。フフ、本当にモジャモジャなんだもの。それに手先が器用で、アイデアも凄いの。精米機が欲しかったから、どうにかして作れないかと考えていたんだけど、バルタムさんのおかげで基本的な物が造れたのよ。持ち運べるサイズの精米機。これがあれば、いつでもどこでもお米が食べられる!
あと、あの人は可哀想だった。帝国の兵士だった人。餓死寸前ってどうなってんのよ?皇帝のイカれっぷりも良く分かった。色々帝国の中の事が分かってありがたかった。お父さんがお金を渡して送り出したけど、新しい所でがんばってほしい。
それからあのギルド長!お父さんを追い掛けて来た時は本気で消してやろうかと思ったわ。いつも熱い眼差しでお父さんを見つめているのよ!別に男が男を好きでも構わないのよ?恋愛は自由だもの。ただ、あのねっちょりした視線が…。
お父さんは私のものよ。誰にも渡さないわ。




