47 ドス黒い球体
スズメは兵舎の脇で待っていた。
「終わりましたか?」こんな時でも冷静だな。
「ああ、残りは皇帝だけだ」俺の本命はこれからだ。
「エレナ、大丈夫か?」俺が声を掛けると「ヒック…おとーしゃん、グスッ…おにゃかしゅいた…」と泣きながらエレナが言う。
「少し休もうか」エレナは魔法を使いっ放しだもんな。
俺達は城の誰もいない部屋に入り、三人でオニギリを食べた。
スズメが「これ美味しいです」と喜んでいる。もう一つオニギリを渡し、俺は水を飲んだ。
「みちょスープ飲みたいな」とエレナに言うと、黙ってコクコク頷く。
気持ちの整理は付いたのだろうか。オニギリを口に運べるなら大丈夫かな?
エレナに果実水を渡し、しばし休む。
「お前達の方はどうなった?フォルダスは見つけたのか?」俺が聞いても答えないだろうが。
「はい、無事発見しアレン先生が治療しています。かなり危ない状況です」スズメが淡々と答えた。
「もうこの国は終わりだな」俺の言葉にエレナが「エルタナの血を根絶やしにするって」と答えた。
「どうやって?」「わかんにゃい」そう答えたエレナが眠そうだ。
◆◇◆◇◆◇
スズメが「それと、ガリウレスの王族も一人見つかりました。第一王子です」と俯いて言う。
「生きているのか?」「厳しいかと…」
そうか、遅かったか…。
エレナが懐中時計を出し、また見ている。
「おとーしゃん、アレン先生の所へ行こう」と立ち上がり言った。
「え?皇帝の所へ…」「大丈夫。まず王子達を助けろって」エレナが両手を上げ俺を待つ。
俺もスズメも、慌ててエレナを抱き上げ走り出した。
「アレン先生はドコだ?」スズメに向かって聞くと「三階のフォルダスの自室に。二人共いるようです」耳に手を当てそう答えた。
あー、なるほど。スズメは音で周囲を探っているのか。
俺達はとにかく走った。心の中で(間に合ってくれ)と願わずにはいられなかった。
フォルダスの部屋に飛び込むと、ベッドに青白い顔をした男と、痩せ細った男の子が寝かされていた。
二人共点滴を打っている。
アレン先生が振り返り「どうした!」と怒鳴った。
エレナはその声を無視して、俺に二人の側に行くように言う。
床に降ろすと二人に向かって両手を伸ばし、ゆっくり魔力を練り上げ「リカバリー」と唱えた。
二人の体が淡く輝き包まれて行く。時間を戻すかのように、段々二人の顔色が良くなっていく。
そして二人共目を開けた。
「おお〜」アレン先生が感動している。「エレナちゃん凄いじゃないか!」
エレナは返事もしないで、何度も魔法を使った事で相当疲れたらしく、座り込んでしまった。
「お疲れさん」俺はエレナの頭を撫でる。
いつもならもう寝ている時間だ。できれば一緒に皇帝の所に行きたいが…。
「お前はここで休め。眠いだろ?」俺の問い掛けにエレナは「ダメ、いっちょにいにゃいと…」半分眠ってるな。
俺はアレン先生に全員分のオニギリを渡す。
「これは?」「エレナが作ったオニギリです。旨いですよ」一応王子達の分も出しておいた。
「スズメ、悪いけどエレナを連れて来てくれるか?眠っていても構わないから」スズメは黙ってエレナを抱き上げる。
「連れて行くのか?」アレン先生が俺に問う。
「勇者は倒しました。次は皇帝を倒す。これは俺とエレナが一緒にせねばならない事。俺達二人の目標です」それだけ告げて部屋を出た。
「スズメ、何があってもエレナを守ってくれ。頼んだぞ」スズメの目を見て、俺はエレナを託した。
「命に代えても必ず」スズメの肩を叩き、俺達は五階に向かった。
◆◇◆◇◆◇
五階は全て皇帝の為だけに在るようだった。
この階だけ明かりがある。
異様な眺めだ。至る所に調度品が所狭しと並んでいる。ただの花瓶でさえも宝石がいくつも付いており、趣味が悪いとしか言いようが無い。
「胸糞悪い光景だな」周囲を見て俺は言葉を吐いた。
「ええ、本当に。宝石で腹が膨れる理由でも無いのに」スズメの意見の通りだな。
静かに廊下を歩き、一番奥の部屋を目指す。
「そこが皇帝の寝室です。ずっと結界が張っており、この部屋だけ入れませんでした」スズメは悔しそうに扉を睨む。
ドス黒く濃密な魔力を感じる。
俺は細剣を出しスズメに言った。
「部屋の中には入るな。何が起こるか分からない。扉の陰に隠れていてくれ」
眠っているエレナの頬を撫で、扉に手を掛けた。
開かない。
ガチャガチャと取手を回すが動かない。
ならばと細剣で✕を描くように振る。
ズンッと音がして、分厚い扉が砕け散った。
◆◇◆◇◆◇
そこには、薄暗い光の中で空中いっぱいに浮いているドス黒い球体がいる。
所々に濁った緑色が見えた。
グルグル回りながら空中であちこちぶつかり跳ね返っている。
その光景を見たスズメは、目が丸くなっていた。お前でも驚くんだな。
自分で結界を張った理由じゃないのか?何で跳ね返ってんだ?
俺が切り掛かろうとした時、頭の中で声がした。
〈やあ、ユリウス君こんばんは。ついにソイツの所まで来れたね?この結界は僕が張ったんだ。肉体が壊れて魂だけになっても逃げようとしていたからね。ユリウス君が間に合って良かったよ〉
「創造神様…」つい口に出してしまった。
側にいたスズメに「ユリウスさん?」と言われて我に返った。
〈ユリウス君だけ結界に入れるからね。その肥え太った皇帝の魂を切り刻んで。小さくなるまでがんばるんだよ?〉
「はい、分かりました」俺が独り言を言っていると思っているスズメが、目を見開いている。
「ユリウスさん?大丈夫ですか?」俺はスズメに頷き、寝室に突入した。
俺が入って行った事でスズメも後に続こうとしたが、結界に弾かれた。
「エレナもいるんだからお前は来るな!」俺の声が届いたのか、スズメは頷く。
ドス黒い球体は、グルグル回るだけで何もして来ない。
俺は細剣を右に左にと振ってみた。
途端に耳の側から、しわがれた男の叫び声が大音量で聞こえた。
『ギャーッ!何をする!余は皇帝だぞ!余に逆らうとは何事だ!』
言ってる意味が分からん。
『余に金を貢ぐのだ!』
何度も細剣を振り、その度に叫び声が煩くて頭が痛くなって来た。
『余に体を捧げるのだ!これはお前達にとって名誉な事であろう!お前達は何も考えなくて良いのだ!』
うるせーんだよ!
「今までお前に殺されて来た人達の恨みだ!思い知れっ!」




