46 勇者討伐
「キャーーーッ!」エレナの悲鳴が聞こえ、俺はすぐさまエレナを抱えて足から着地した。
3mぐらい落ちたか?そこは別の部屋になっていた。
目の前に巨大な魔石が鎮座している。
「何だコレは…」俺は巨大魔石を見上げながら呟いた。マックスよりデカいぞ。
「はぁー、やっぱりあった。創造神様が言ってたの。多分大きな魔石があるはずだって。あ、待って」エレナはそう言ってポーチから懐中時計を取り出した。
ふいに上から「ユリウスさん!」とスズメの声がする。お前にもバレてんのかよっ!
「おー!大丈夫だ。上はどうなってる?」スズメは「今にも崩れそうです。そこから出られますか?」辺りは魔石のおかげで仄かに明るい。
自分の後ろに扉が見えた。
「扉があるぞ。お前は危ないから先に行け」「えっ?でも…」スズメが戸惑う。俺の監視役だもんな。
「敵が来るかも知れん。先に行って片付けておいてくれ。祭壇の所で待て」俺はエレナを抱いたまま、周りの警戒をする。
「分かりました。では向こうでお待ちしています」と、スズメは戻って行った。
エレナが「おとーしゃん、コリェ持っちぇ帰りゅ」といきなり言った。
「へ?この巨大魔石持って帰るの?」「うん。わたちのしゅーのーに入れちぇほちいって」ふ〜ん?創造神様が何かに使うのか?
二人で近づき、エレナが魔石を触りながら「しゅーのー」と言うと、魔石が消えた。
「よっち!」と右手を上げ、エレナは満足そうだ。
「これで魔法陣は壊れたのか?」俺が聞くと懐中時計を見ながら「よくやったって」とエレナが笑う。
まずは一つ目が終わった。
◆◇◆◇◆◇
「エレナ、分かってるな?次はクロキだぞ?」エレナはキリッとした顔をする。
「創造神様が急げって。牢屋の一番奥にいるのが黒木だって」「よし、走るぞ!」
俺はエレナを腕に抱き、扉を開けるとすぐ通路だった。上り坂になっている。
エレナが「ライト」と言い明かりを出す。
上に走るとすぐ扉がある。そっと開けると魔法陣の脇だった。隠し扉になっていたのか。
一度穴の中を覗き、床が粉々に砕けているのを確認した。
俺はひたすら走って祭壇まで戻って来た。
スズメの周りには、着飾って肥えた男や女が転がっている。
「大丈夫か?」俺が声を掛けると「王族の人間達でした。どうやら魔法陣の様子を見に来たようです。気にする必要はありませんよ」
スズメは冷静だ。でなきゃ暗部は務まらないか。
「次は牢屋だ」俺の言葉に、スズメは頷き黙って付いて来る。
「少し急ぐぞ」俺はエレナを抱っこしたまま外の兵舎を目指した。
◆◇◆◇◆◇
スズメが「こちらです」と進路を変えた。俺は地図を頭に叩き込んだハズだったが。
「どこへ行くんだ?」俺はスズメに問い掛ける。
「こちらの方が早いです」スズメが先に行き、部屋を通り抜けたり窓を飛び越えたり、道なき道を進んで行った。
その途中でも何人もの死体を見た。皆、やせ細って死んでいる。
エレナが唇を噛んでいた。
「ここです」スズメが止まり、周辺を見ると兵舎の脇のようだった。
「さすがだな」一応褒めておいた。
エレナの緊張が高まるのが分かる。
「中に人は?」「一人だけ生きています」「悪いがここで待っていてもらえるか?お前を巻き込む理由には行かないんだよ」
スズメは少し悩んで「では、ここでお待ちします」と言った。
俺達は牢屋へと足を踏み込んだ。
◆◇◆◇◆◇
エレナが俺の服を掴んで震えている。無理も無いか。俺は背中をポンポン叩いて落ち着かせる。
階段の一番下に着いた時、エレナを降ろした。不安気なエレナが俺を見上げる。
中は真っ暗だ。明かりすら無くなっている国ってどうなってんだ?
エレナが「ライト」と言って歩き出した。
他の牢屋には誰もいない。一番奥まで行くと、確かに一人だけ男が生きていた。
壁にもたれ掛け、息も絶え絶えだ。
ーーーーーーーーーーコイツが勇者か。
そうか。このまま死ぬと転生してしまうのか。だから急げと…。
エレナは静かに男を見ている。
「武利」エレナが口に出すと、男がビクッと肩を揺らした。
「お前……誰だ……」男は弱々しく話し、こちらを見た。
ガリガリに痩せ細った体。銀髪に緑の目。これじゃあ見分けは付かないな。
コイツのせいで俺の国は……っ!
「私よ、エレナよ。あなたに殺された神崎恵麗奈よ」
男は立ち上がろうとするが、足に力が入らないようだ。ズルズルとまた床に沈んだ。
俺は細剣を出し、牢の扉の鍵を壊した。
「逃がして…くれるのか…?」と男は言うが、エレナは首を振りウエストポーチからサバイバルナイフを取り出した。
「あー、思い出した。俺が殺した女か。大勢いたから名前まで覚えてなかったよっ!」男はいきなり立ち上がり、扉を蹴って牢から出て来た。
今までのは演技だったのか!
俺はエレナを庇い、抱きかかえて後ろに飛んですぐに降ろした。
「お前はクロキだな?勇者召喚でこっちの世界に来たんだろ?ずい分好き勝手してくれたじゃねーかっ!」俺は細剣を振り、クロキの両足首を切り飛ばした。
「ギャーーーッ!!」クロキは叫んだ。
「何すんだよ!!俺はクロキじゃねーよ!!」そう叫びながら蹲り、両足首の傷口を手で押さえた。
痛い痛いと騒いでいるが、血が止まる事は無い。何だコイツ?勇者のスキルが使えないのか?
俺は馬乗りになり、クロキの体を押さえつけた。
「ガリウレスの恨みを晴らさせてもらう!エレナっ!」
エレナはナイフを持ったまま固まっている。やっぱり無理か…。早くしないと!
エレナが静かに両手を伸ばし、軽い治癒を掛けクロキの足の血を止めた。
俺はクロキの体を押さえたまま驚いていた。「お前…何やって…?」
すると、エレナの目から光が消えた。
「ふっざけんじゃねーよっ!このクソ野郎!」そう言ってクロキにビンタを喰らわせた。
「私を散々殴りやがって!どれだけ痛かったと思ってんだよ!」またビンタを喰らわせた。
小さな手で振り抜かれたって、対して痛くは無いだろう。
「アンタの嘘のせいで私は皆から責められて、借金取りが会社にまで来て、どれだけたくさんの人に迷惑掛けたことか!アンタに誰も近寄らなかったのは、アンタが寄せ付け無かったからじゃない!いつも他人のせいにして、アンタ自身が歩み寄ろうとした事あった!?いつも嘘しか吐かないから誰もアンタを信用しなかったのよ!自業自得よ!」
エレナはそう叫ぶと、クロキの胸にナイフを突き刺し魔力を流した。
クロキは何も話さず、薄ら笑いを浮かべたまま、白い光が体を包み木っ端微塵に砕け散った。
あっけ無かったな…
エレナは涙を流し息もハァハァと上がり、座り込んでしまった。
ヒックヒックとしゃくり上げ、俺に手を伸ばして来る。
「やっと終わったな」エレナを腕に抱き上げ頭を撫でてやると、俺の首にしがみつき「うわぁ~〜〜〜ん!!」と大声で泣き始めた。
俺はナイフを拾い牢屋を出て、上に上がった。




