45 祭壇の下
無駄に広い城の中で気配察知をすると、ポツポツと生体反応がある。
「お前ならどうする?死にそうな帝国兵がいるけど、助けるか?」
スズメに話を振ると「話を聞く価値はあるかと」それもそうか。
「分かった。俺達はこのまま教会へ行く。お前は後から来てくれ。地下への入り口を探すから」
「了解」短く答えたスズメとそこで別れた。
アイツはアイツで、殺すなり食料を渡すなりするだろう。
奥に進むにつれ兵士の死体が増えてきた。
エレナの顔を俺の肩に押しつけ、それらを見えないようにする。
「思っていたより酷いな」エレナが小さく頷いた。
もうすぐ教会に着くところで、生きている人間が一人いた。
廊下に横たわっており、ゲッソリ痩せている。
エレナを降ろし、ローブを帝国兵の服にして近付いた。
「大丈夫ですか?」新米の振りをして声を掛けた。
男はもう、目も良く見えないらしく「俺は…近衛隊長アモルダス。皇帝陛下に代わり…召喚陣を動かさなければ…!」一気に助ける気が失せた。
「皇帝は今どちらに?」俺の問い掛けに「自室に居られる。早く…早く…」俺はアモルダスに水を飲ませた。
「どうやって召喚陣を?どこに在るのですか?」俺が聞くとアモルダスが「祭壇の裏にスイッチがある…。早く、陛下のお体が…」そこでアモルダスは事切れた。
皇帝の体が、もう保たない事が分かったな。急ごう。
◆◇◆◇◆◇
エレナを抱き上げ教会に入った。中は真っ暗だ。よし、誰もいない。
エレナが小さな火を灯してくれて、祭壇の裏へ回る。
二人でしばらく探すと、床と色の違う突起があった。
足で踏むとゴロゴロと音が鳴り、床が動いて下に続く階段が現れた。
急に人の気配がして振り向くと、そこにはスズメが立っていた。
「脅かすなよ〜」「すいません。兵士は何人か助けました。食料をやったら色々聞けましたよ。歩きながら話しましょう」あれ?教えてくれるのか。
「まずこの惨状ですが、飢えに耐えかねて民が逃げ出したそうです。多分ウチと元ガリウレス、そして魔族国へと。今この国に残っているのは、王族と貴族と兵士達だけです。兵士が残っていたのは、家族を人質に取られたからだそうです。そして本当かどうか分かりませんが、その人質達も食料にされたとか…。餓死したのは食べるのを拒否したのでしょう」スズメまで沈痛な面持ちで話すようになった。
「そうか…。」あんなにたくさんオニギリ作ったのになぁ〜。
「エレナ、大丈夫か?」俺は頭を撫でて背中をポンポン叩く。
「じぇんぶクチョ女神がわりゅいのよ」エレナが憤る。「そうだな。クソ女神が悪い」俺まで腹が立ってきた。
階段を降りた先は真っ直ぐな通路で、下り坂になっている。
明かりが無いためどうしようかと思っていたら、エレナが「ライト」と唱え、空中に明かりを出してくれた。
「凄いなエレナ!」俺はエレナを褒めた。エレナは得意気だ。
下に下って行く通路には何も無い。ただ、螺旋を描くようにグルグル回りながら、下に下にと歩いて行った。
◆◇◆◇◆◇
ふいにスズメが「誰かいます」と囁いた。
俺は「エレナ、明かりを消せ」と言い、スズメにエレナを預けた。
手でここにいるよう指示を出し、帝国兵の振りをして近づく。
「誰だ!」しわがれた声。男は手に松明を持っている。
「自分はアモルダス隊長に言われて…」と俺は姿を見せた。
「フンッ。下っ端が来ると言う事は、アモルダスは死んだのだな。なんと情けない」どうやらなぜ死んだのか分かっているようだ。
男はでっぷりと肥えてド派手なカッコウをしている。コイツ、貴族か?
「仕方が無い。お前で構わん、ワシと一緒に来い」顎をクイッと上げ、扉の中に入って行った。
俺は扉を潜らず、手で後ろの二人を呼ぶ。腰に長剣を差し、いつでも抜けるように心構えをする。
「あの、召喚の魔法陣が、と言い残されたのですが…」俺はわざと怯えた声で男に尋ねた。
男はニヤつきながら振り返り俺に言った。「お〜そうか、喜べ。お前は偉大な功績を残すのだ。誇りに思え」
(これは、俺を皇帝の体の贄にしようとしているな…)「その召喚陣はどちらに?何か必要ですか?」俺は極めて冷静に話し掛けた。
「イヤ、お前がおればそれで良い。ほれ、すぐそこじゃよ」と言いながら、俺の腕を掴もうと手を伸ばして来た。咄嗟に振り払い俺は剣を抜いた。
「何をするっ!」男は怒鳴った。
「人間を喰ってまで生き延びたいか。お前らはエルタナ同様に腐ってんだよ!」俺は斬り込んで行く。
でっぷり肥えた男は避けきれず、肩から斜めに斬られて息絶えた。
振り返ると、後ろのエレナは片手に魔力を込めて打つ準備をしていた。ウチの娘は逞しい。
◆◇◆◇◆◇
「お前、まさか召喚陣を国に伝える為に付いて来たのか?もしそうなら、創造神様の怒りを買うぞ?」俺はスズメを睨む。
スズメがフフフと笑い「だったらどうすると言うのです?大事なお嬢さんは私の腕に居りますが?」やっぱりか。
「ん?どこにエレナがいるって?」俺の言葉に一瞬の隙が出来、エレナはスズメを蹴り飛ばし、空中で回転しながら俺の腕に戻って来た。
それ、気に入ったんだね。ワンピースじゃなくて良かったね。
「お前を今殺すのは厄介だからな。外に出るまでお預けだ」俺が殺気を放つと、エレナは片手をスズメに向けた。
スズメは両手を上げて「すいません。本当に在るのか確かめるだけです。利用するつもりはありません。本当です」誰が信じるかよ。
俺は返事もせず扉を開けて中に入った。
◆◇◆◇◆◇
床に描かれた召喚の魔法陣は、微かに輝いていた。
至る所に長いローブを着た人間が倒れている。限界まで魔力を込めたのだろう。
それでも足りなかったのか、皆干からびてしまっていた。
「エレナ、やろうか」エレナを魔法陣の真ん中で降ろし、俺はすぐ側にいて不足の事態に備えた。
エレナがサバイバルナイフを出し、大声で「えいっ」と言い、体重を乗せて真下に突き刺した。そしてゆっくり魔力を流すと…。
白い光が魔法陣を包み、ピシピシと音を立てて床にヒビが走る。
エレナはまだナイフを掴んだまま、魔力を流している。
「エレナ、もう良いんじゃないか?」俺が抱き上げようとすると「まだダメよ!粉々になるまで待って!」とエレナが叫んだ。
辺りが徐々に瓦礫の崩れる音がする。天井からも石礫が振って来た。
「エレナ急げっ!」俺は焦り、後ろを振り返るとスズメは扉の側にいた。
俺達の足元が崩れ始めた。
もう限界だ、とエレナを抱き上げようとしたら、床が崩れて俺とエレナは穴に落ちてしまった。




