44 帝国城へ…
「お前、城の中の地図持ってるか?」珍しくまともな事をマックスが言う。
「この間、たまたま知り合ったヤツが帝国から逃げ出した兵士でな。そいつに色々聞いたよ。地図も書いてもらった。俺達は大丈夫だ」
「皇帝を殺し、魔法陣を壊す。それだけか?」マックスは何が聞きたいんだ?
「何かあるのか?」俺はマックスを警戒する。
「もしかしたらガリウレスの王族が生きているかも知れないぞ?」俺は、後からそんな情報を出して来るマックスのやり方が、本当に気に入らない。
「それが本当の話なら、そっちで救出してくれ。俺達はそんな事に構ってる時間は無い!」思わず大声を上げてしまい、ハッとしてエレナを見た。エレナはスヤスヤ眠っていた。
ふ〜っと一息付いて、マックスが懐からカードを出した。
「お前の昇格カードだ。Dランクにしておいた。お前の腕ならもっと上でも良いんだが、試験も無しにいきなり上げる理由にはいかなくてな」何だよ、罪滅ぼしか?
「そうか、ありがとう。じゃあまた後で」俺はマックスを追い出し、早々に扉を閉めた。
エレナが起きるまで服の洗濯をし、風の魔法で乾かした。ふふん、昔のように上手く出来るようになったぜ。
洗濯が終わると、エレナがいつもより早目にお昼寝から起きた。
果実水と菓子を出して一緒に食べる。
「エレナ、ローブは絶対に脱ぐな。全身を覆う形に変えるんだ」エレナは俺の前で、白くてフワフワの兎になった。ご丁寧に頭のフードには長い耳まで付いている。肩掛けポーチもウエストポーチに変更した。
「可愛いけど、帝国城に入ったら色は黒に変えてくれ」エレナは嫌そうだったが、白は目立ってしまう。
全身を一枚の布で覆っているようだ。継ぎ目が無いな。良く出来ている。これなら大丈夫だろう。昼間のパンツが効いたようだ。
「城の中で俺達に襲い掛かって来ない限り、他の人間は無視して通り過ぎるぞ。認識阻害を掛けるから、見つかる事は無いがな」エレナは少し考えながらも頷いてくれた。
「よし、行くか」二人で頷き、エレナを抱き上げ部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇
マックスの所に顔を出し、一緒にギルドを出る。
外の馬車の所でアレン先生が待っていた。
「アレン先生も行くんですか?」あの時ブチ切れてから、アレン先生とは顔を合わせていなかった。
「今の騎士団長が城を離れられなくてな。ワシに代わりに行けとよ。こんな老人に何て人使いの荒い…」アレン先生はマックスを睨む。
マックスは頭を掻くしか無かった。
ここから馬車でマルタリカ王城へ。3時間程掛かって王都へ着いた。
空が夕闇に染まり始めた。
エレナはずっとキョロキョロして楽しそうだ。これから人を殺しに行くんだけどなぁ〜。
兎の姿は皆に好評で、どこへ行っても可愛いと言われてエレナは照れていた。
アレン先生に目尻を下げながら「何でそんな格好してんだ?」と言われたが無視した。
エレナを見る目がどうも怪しい。
着いた城の裏門から馬車で中に入り、歩いて地下に通された。
そこで五人の黒づくめの人間を紹介された。もちろん名前なんか聞かない。ただ俺達に付いて来る男だけは、顔を見せてもらった。
「名前は?」と聞いたら「お好きにお呼び下さい」と言われた。
抱っこしているエレナに「何にする?」と聞いたら即座に「ちゅぢゅめ」と答えた。アレッ?興奮し過ぎて口が回ってないぞ?
「スズメ?」と聞くと“茶色いから”とエレナが答えた。何だよソレ?
後にこの男は、なぜかこの“スズメ”が気に入り、名を聞かれると自らスズメと名乗ったそうだ。
スズメって何だろう?
「各自仕事が終わり次第、転移陣の部屋に戻りそこで待つ事。無闇に殺すな。食料は持ったな?城の異変に気づいたらすぐ戻れよ」アレン先生が一人ずつ確認するように話す。
「お前達の行動を聞いても良いか?」とアレン先生に聞かれ、俺は邪魔されるぐらいなら、と思って話す事にした。
「俺達はまず召喚の魔法陣を壊す。地下にあるから城が崩れる可能性がある。次に牢屋に囚われている男を殺す。ソイツが勇者だ。最後に皇帝を殺す。もし余裕があれば、フォルダスと言う皇帝の息子を助け出すか話がしたい。そんな流れかな?」
アレン先生とマックスが頷き合う。
「俺達もそのフォルダス救出に行くんだよ。お前が知っているとはな…」とマックスが呟いた。
あ〜、なるほど。また内緒にされたのね。
「北の塔か自室だろう。助け出してくれって言われたんだよ。前に知り合った元兵士にな」
「そうか、分かった。フォルダスはこっちで探す。お前達の邪魔はせんよ」アレン先生はそう言って右手を出して来た。
エレナを床に降ろし、ものすご〜〜〜く嫌だったが俺も手を出し握手した。
◆◇◆◇◆◇
「行くぞ」マックスの掛け声で、全員が転移陣に乗り魔力が流れた。
浮き上がる感覚と急な暗闇。目を開けても真っ暗だ。
誰かが小さな火を点け見渡すと、そこは窓が無い木造の小屋だった。
「ここは城の裏手の森の中だ。正面に見えるのが北の塔だ。場所を覚えておけ。全員が集まるまで帰らないけどな」マックスが小声で話し、俺の肩を叩く。「気を付けろよ」とウィンクされた。エレナはギルド長を睨む。
「ああ」俺は短く答え、スズメと共に小屋を出た。
外はもう夜の気配がする。
エレナを抱き上げ「エレナ、黒色にしろ」と言って色を変えさせた。ウエストポーチも黒に変えた。
スズメに思いっきり見られたが、二度と会う事は無いから構わないだろう。
「おいスズメ、今のは見なかった事にしろ」俺の静かな声に、スズメは苦笑いをしたが「もちろん」と短く答えた。
まずは一階の王族専用の教会だ。
◆◇◆◇◆◇
城の中は必要以上に静まり返っていた。
柱の陰に隠れて様子を伺う。「いつもこんなに静かなのか?」とスズメに聞いてみた。
「一月前に来た時は、そこかしこに見回りがいました。どうしたんですかね?」スズメも知らないのか。
俺達は認識阻害を、スズメは消音を自分に掛け、月明かりを頼りに通路を行く。
いくつかの部屋を通り過ぎると、妙な臭いが漂って来る。
「この臭いって…」「これは死臭ですね」スズメが扉を一つそっと開けると、そこには折り重なるように兵士が五人程死んでいた。
「全員餓死したようです。骨と皮になっています。この二〜三日の間に死んだみたいですね」スズメの冷静な検証に感心する。
エレナは口と鼻を手で押さえ、痛まし気に見ていた。
エレナにはあまり見せたくないな。
「行くぞ」スズメに声を掛け先を急ぐ。




