43 エレナのパンツ
エレナが調理場から飛び出し「おとーしゃん、バルしゃんどこ?」と聞いて来た。
「あー、バルタムさんは多分会議室に…」と言うと、俺に手を広げ抱き上げろとポーズをする。
それからは本っ当〜〜〜に大変だった。
会議室に突入しトーダさんにオコメをねだり、バルタムさんにもっと大きなセイマイキを今すぐ作れ、と命令した。
大の大人達が幼子の迫力に負け、あたふたしながら動き出した。
オコメを炊いて手で握ると言うエレナは、小さな体を目一杯使い大人達をこき使った。
夜中まで掛かってオニギリを作り、買ったオコメは全て無くなってしまった。
手伝った大人達は、報酬にオニギリを一つずつ貰い食べた。
ただ手に塩を付けてオコメを握っただけなのに、なぜこんなに旨いのか。
トーダさんとロセさんの目がギラリと輝った。
一つずつオニギリを葉で包み、俺のマジックバッグにしまった。
エレナはとっくに寝てしまったが、大人達は気持ちの良い疲れをエールで流した。
「スゲー嬢ちゃんだな」と言ったのはダクサムさんだった。
「お兄さんの技術も合わせれば、もっと良い物が造れますよ?」俺もお節介だなぁ〜と思いつつ、久しぶりのエールを楽しんだ。
◆◇◆◇◆◇
次の日。帝国城に乗り込む前に試したい事があったので、エレナと二人で森に入った。
エレナを抱えて走り、森の奥まで行った。
近くに人がいないのを確認し、創造神様に頂いた細剣を抜いた。
「エレナ、離れてろ」そう告げて念のため「結界も張っとけ」と言っておく。
エレナは大人しく俺から離れて結界を張った。
俺は力まないよう細剣を横に振り抜いた。
すると……………
ズズズシーンッと音が響き、木が何本も手応えも感じずに倒れてしまった。
これはヤバイ。え〜〜〜、どうしよう?
エレナを見ると満足そうに頷いている。
魔力を込めない方が良い事だけは、よく分かった。
何度か素振りだけで木が倒れていく。
やがて、大きな音を立てたせいか、森の奥から野生の大型のボアがこっちに向かって来た。
ドスドスと土煙を上げながら突っ込んで来るボアを、俺はすれ違いざまに首元に細剣を突き立て引き抜いた。
振り返ったら、ボアの首がキレイに落ちていた。何の手応えも無く、細剣に血も付いていない。
(創造神様やり過ぎです…)俺はちょっとだけ文句を言ってしまった。
溜息を漏らしつつエレナを呼んだ。
「エレナこっちにおいで。お前のナイフを試してみろ」
エレナはトコトコ歩いて俺の側まで来た。
◆◇◆◇◆◇
肩掛けポーチからサバイバルナイフを出す。エレナの手だと、両手で握らないと持てないな。
「あの木に突き刺して魔力を流してみようか」せっかく木を切ってしまったから、有効活用しよう。
「よっち」気合いを入れたエレナは、まず小走りに走り体重を掛けて木にナイフを突き刺す。
刃先の5cmぐらいしか刺さらない。
そこから魔力を流したら………木が粉々に弾け飛んだ。
「えええ〜……」俺は頭を抱えてしまう。
(創造神様やり過ぎです…)またしても文句を言ってしまった。
しかし、エレナは満足したようだ。頭を上下に何度も振り、ナイフの突き立て方を練習し始めた。
「どうだ?やれそうか?」生身の人間に刺すとなると恐怖心が違う。
「ん、だーじょぶ。やりぇりゅ」何か決心したようだ。もしためらった時は俺がやればいい。
何度も素振りを繰り返すエレナを横目に、俺は先程斃したボアの血抜きを始めた。
中々の大物だ。ギルドで換金すれば良い金になりそうだ。
ボアの解体はどうしようかと考えていたら、突然「ギャギャッ」と声がした。
エレナの正面に、腕を振り上げたゴブリンがいた。
どうも気配察知が上手くいかない。人相手ばかりに使っていたからなのか…
「エレナっ!」俺が焦って走り出しても、ゴブリンの方がエレナに近い。
エレナが魔法でぶっ飛ばせ、と口にする間も無くエレナがゴブリンに突っ込んで行く。
そこからは、一つ一つの動きがゆっくりと流れた。
エレナは走りながら両手で握り締めたナイフを、下から突き上げるようにゴブリンの胸に刺した。
後ろに倒れるゴブリンに、引きずられるようにエレナも一緒に倒れて行く。
すると、両足でゴブリンの胸に乗り、足に体重を掛けてナイフを引き抜き、倒れていくゴブリンを蹴り、空中で後ろに回転しながら俺の側まで戻って来た。
俺を見上げて小さな親指を立て「だーじょぶよ」と満足した笑みを見せた。
ウチの娘はいつからこんなにお転婆になったんだろう…。その笑顔は最高に可愛いけど。
「あー、エレナさん?パンツ丸見えですよ?」
俺の静かなる指摘に怒ったエレナは、ナイフを振り回しながら俺を追いかけ回した。
3歳児に捕まる理由は無いが、走りながら(本当に体が治って良かった)と安堵した。
時々小さな水球を打ちエレナの反応を楽しみ、木の上に登ってみたりローブに魔力を流して隠れてみたり。
エレナとの追いかけっこは一時間程続いた。お互い笑い声を上げっぱなしだったけど。
「悪かったよ、ごめんて」最後はエレナを抱き上げ、それで許してもらう。
木の間から空が見えた。陽が真上だ。
「昼飯にしようか?薪もたくさんあるし、ここで食べよう」二人でカマドを作って鍋を置く。
斃したゴブリンの処理をして、買っておいたスープを煮込んで食べた。
久しぶりの森での食事は、いつもより美味しい。「おいちいね」エレナも楽しそうだ。
「もし、クロキをやる時、怖くなったら言えよ?目の前にしたら色々思い出して、動けなくなるかも知れない。その時は俺がクロキを押さえつけるから、その隙にナイフを刺せ。出来るか?」
エレナは少し考えて「うん。大丈夫。やってみせる…」と答えた。
◆◇◆◇◆◇
その後、ボアをマジックバッグに仕舞い、お昼寝に入ったエレナを抱き上げギルドに戻った。
ボアを換金して、改めて契約した宿舎の部屋は二階だ。
エレナをベッドに寝かせていたら、部屋の扉を誰かが叩く。
「俺だ」その声はマックスだった。
薄く扉を開けると、マックスが部屋まで来いと言う。
「話ならここで。エレナがお昼寝してるんだ」頭を掻きながらマックスが小声で話す。
「今日の夕方乗り込む。一人付けると言う話だったが、もう少し増える事になった。ウチの国王も帝国の内情を気にしていてな。見捨てる理由にはいかないと言うんだよ」お優しいことで。
「それはそっちで勝手にやってくれ。俺達のする事を邪魔しないならそれで良い」俺はマックスに対しては、まだ不機嫌だった。
隠し事が多くて信用出来ない。王族だからな。当たり前なんだけど。




