42 しつこいギルド長 第2弾
「邪魔すんな」一言残してエレナを抱き上げ、医務室を出た。
胸糞悪い言葉を聞いて、不機嫌な俺に声を掛ける者はいない。
受付に部屋の鍵を返し「料金の精算を」と怯えた受付嬢に言われたが「要らない」と睨み、ギルドの扉を触ったところで今度はマックスに捕まった。
チッと舌打ちし睨み付ける。
「待てって。アレン先生も悪気があった理由じゃ…」
「俺は言ったはずだぞ?邪魔をするなら容赦はしない」相手が王弟殿下だろうと構うもんか。
「だから待てって!すぐ帝国に行ける手段があるんだよ。聞きたいだろ?」マックスはそう言うと、顎をクイッと動かしギルドの酒場の方へ足を向けた。
クソ面倒くさい。俺は他人に振り回されるのが一番嫌いなんだ。
溜息を吐き、後ろを付いて行き椅子に腰掛けた。
◆◇◆◇◆◇
俺はマックスをずっと睨んだまま話を待った。
「あ〜、悪かったって、色々黙ってて。でもお互い様だろ?お前達をどう扱うのが一番良いかと」
「そんな事はどうでも良いんだよ。帝国に行ける手段って何だ?」ツラツラと言い訳を言い始めたマックスに、俺の機嫌は急降下だ。
「分かった分かった」とマックスは両手を見せて降参のポーズをした。
「ウチの城に転移魔法陣があってな?帝国城と繋がってんだよ」
ハァ?何だって?今度は俺が固まる番だった。
「ウチのご先祖、どう言う理由か聖女と仲が良かったみたいでな?国を貰った後、魔術士のエルフに頼んで、五つの国を転移で行き来できるようにしたんだと」マックスがしたり顔で笑った。
「俺の国では聞いた事が無い…」俺は城に何度も行ってるし、王族とも仲が良かった。誰も知らなかったんじゃないか?
「多分そうだろうな。ウチのご先祖が日記を残しててな。ガリウスは国の安定に勤しんでて、全然遊びに来てくれないって愚痴ってるぞ?」
ハハ、賢者らしいな。俺は苦笑いを浮かべる。
「エルタナは浄化以外の魔法が使えず、本人も覚える気が無かったらしい。もっぱらこっちから帝国に行くだけで、向こうからは来なかったようだ」
俺は何度か頷く。
「今の帝国のヤツらは転移の魔法陣に気づいていない。俺達は定期的に帝国に行って、内情を探っているんだ」マックスの言葉に、俺は奥歯を噛み締める。
「だったら、なぜ勇者の情報を知らないんだ?おかしいじゃないか!」俺は思わず声を張り上げてしまった。
周りにいた冒険者達が俺達の方に振り向く。
「あ〜、大丈夫。何でも無いから」マックスが片手を上げて、冒険者達を抑えた。
「悪い、つい…」
「いや大丈夫。言い訳になるが、見目が違うヤツがいたら目立つだろ?そんなヤツ一人も見てないんだよ。み〜んな銀髪に緑の目だ。だから気づかなかったんだと思うぞ?」マックスの言う事はもっともだ。
「召喚された時、体が保たなくて、その場にいた若い騎士の体に魂を入れたそうだ。見た目はそのままだから分かるはすが無い」少し俺も落ち着いた。
◆◇◆◇◆◇
「おとーしゃん…」エレナが起きてしまった。
「ああああ!またおとーしゃん追いかけ回ちていりゅにょね!」と小さな人差し指をマックスに向け、エレナが大声で言ってしまった。
周りにいる冒険者達がクスクスと笑っている。
マックスが顔を赤くして「だから嬢ちゃん、違うって!」
エレナは半眼で睨んでいる。
俺はエレナの背中をトントン叩いて落ち着かせる。
「ギルド長が、帝国城に素早く行ける方法があるって言うんだ。それを聞いていたんだよ」
エレナは俺を見てからギルド長に「ほんちょ?」と、睨みを効かせながら聞いている。
ギルド長が幼子に怯えてウンウンと頷いている。
「よっち、わかっちゃ。しょれで?どーやって行くにょ?」エレナはまだギルド長を睨んでいる。
「これからすぐ行くのか?もうすぐ夜になるぞ?」とマックスに聞かれ、エレナは「もちろん、すぐ行くわ。早くしないと皇帝が新たな体を得てしまう」
あー、やっちまった。
ギルド長が目を丸くする。「お、おう、そうなのか?あ〜っとそうだった。交換条件がある」と、急にキリッとした顔で言って来た。
俺が答えるより早く「おとーしゃんはあげにゃいわよ。あたちのものにゃんだからっ!」とエレナが答えてしまった。
俺はクククと笑いつつ「大丈夫だよ。もしギルド長に捕まりそうになったら、エレナと一緒に逃げるからな?」「じぇったいよ」とエレナが疑いの目で見る。俺は何度も頷いた。
まだ周りはクスクス笑っているが、「あのなぁ〜…、ハァ〜、交換条件はウチのモンを一人連れてってくれ。絶対邪魔はさせないから」とマックスは言うが…。
◆◇◆◇◆◇
「何故連れて行かねばならない?自分達だけで行けるだろう?」何か裏があるのか?
「そりゃあ魔力を使うからだよ。頻繁に行けるかよ」マックスはニヤけた笑みを浮かべ、そう言うが………怪しい。
「そっちが本当の話をしないなら、俺達は陸地を馬車で行くよ。じゃあな」エレナを抱き上げ行こうとすると、マックスが折れた。
「分かった分かった!話すよ〜」気が小さい王弟殿下だな。
「マルタカの剣を盗まれたんだ。昔な。俺なんかが産まれるずっと前の話だ。唯一の目撃者だったメイドが、銀髪の男を見たって言ったんだ。ただ、そのメイドは次の日何故か毒を飲んで死んじまった。だから真相は分からねーが、俺達は帝国に在ると確信している」マックスが神妙な顔で言う。
「それを探すのを手伝えと?」俺が聞くと「探すのは皇帝の私室だ。結界が張ってあって誰も中に入れないらしい。目指す場所が同じなだけだ。問題無いだろう?」
よく言うぜ。
「はんっ。俺が皇帝の相手をしている間に、部屋の中を探すつもりなんだろう?始めからそう言えよ」俺はマックスを睨む。
マックスに呆れてエレナを見たら、何かを考え込んでいた。
「エレナ?どうした?」「あにょね、おにゃかしゅかしていりゅと思うにょ」「誰が?」「帝国の人たち…」エレナは悲しげだ。
「食い物持って行くか?いっぱい入っているけどな」マジックバッグに大量に入っているぞ?
「おにぎりを作ろうと思う」エレナがハキハキ答える。
「オニギリ?何だソレ。今から作るのか?」エレナがウンウンと頭を振る。
「手の空いてる人は手伝って!」エレナは酒場で飲んだくれている冒険者に、突然声を掛けた。
「おいっ、エレナ?」俺は焦ってエレナを止めようとしたが、エレナは俺の膝からピョンッと降りると酒場の調理場に突撃して行った。
思わぬ行動力に驚いて、俺もマックスも呆けて動けなかった。




