41 エレナは俺の娘だ
「まさかと思っていましたが、俺を知っていた事から確信しました。王弟殿下」
マックスを見上げて、アレン先生も見る。
騙された理由では無いが、何か腹立つ。
マックスは顔を青ざめさせ「もうとっくに王位継承は放棄したよ」と言い、アレン先生は額に手を当て目を逸らした。
「俺をどうする気ですか?俺が誰だか分かってて放置していたんでしょ?今更身分をバラして何がしたいんですか?」話しているうちに腹が立ってしまい、二人を睨みつける。
「いや、落ち着けって。お前の事はギルドに初めて来た時から分かってたんだよ。ずい分ボロボロだったし子供連れてるし、あの細剣持ってねーから他人の空似かなぁーって話してたんだ」とマックスが言う。
だったらそのまま放っておいてくれれば良いものを。
「お前は知らないかも知れんが、ウチの国でお前んとこの騎士や兵士、民とかを保護してんだよ。どのくらいだ?三百人ぐらいか?」アレン先生がマックスに向かって聞いている。
「そのぐらいです。余所に移った者もいるし、城で働いている者もいる。そいつらの中でお前を見かけてユリウス騎士団長だって言うヤツがいてな?でも冒険者カードに偽名使うし、娘の登録までするからどうしようかと思ってたんだ」
俺はいくらかでも、逃げられた者達がいて安堵した。
それと同時に余計に腹が立った。俺は何の為に逃げていたんだろう。
「俺は一人で逃げたんです。アイツらに会わせる顔は持っていない」俯いたまま自分の情けない過去を話した。
「あー、やっぱりそう思ってたんだな?それは違うぞ?お前の部下達は、お前さえ生き残ればまた国を取り戻せると思ったから、お前を先に逃がしたんだと。覚えて無いのか?」
そうアレン先生に言われて思い出そうとしたが、無理だった。
「あの時は、突然の戦況の変化に現場の収拾がつかず、俺は皆を逃がそうと殿を務めて…」
「そこ。そこが間違ってんだよ。お前は殿じゃない。お前の部下達は、まずお前を逃がしたんだと。皆、お前が生き残る事を望んだんだ。お前は自分でただ、思い詰めただけなんだよ。分かるか?」アレン先生の言葉が上手く頭に入らない。
俺が自分だけ逃げたと勘違いしていた…?
「ガリウレス国王から、戦争になって自国の民がマルタリカに逃げ込んだら、保護してくれって頼まれてたんだよ。ガリウレスが敗ける理由が無いと、俺達も油断してたのは確かだ。だから慌ててウチから兵を出し、民の救出に駆けずり回った。あの時は大変だったぜ?」とはマックスの言葉だ。
ハハ…何も知らなかったな、俺。
「皆、お前を待っているぞ?ロッカで待ち合わせしたんだろ?忘れちまったのか?」マックスにそう言われて初めて思い出した。
「あっ…そうでした。今初めて思い出しました…」だから俺はこの街に来たのか。それまで覚えていたのか?
漠然としててやはり思い出せない。
「何だ、そんなに酷くやられたのか?」アレン先生に聞かれて「はい。腕は折れて肩から胸を切られて、足も切られて…。どうやってこの街まで来たのかよく覚えて無いんですよ」俺は自虐気味に笑って答えた。
「そっか。それは仕方無いな。それで?いきなり戦況が変わったって言うが、何があった?誰もがどうしてか分からねーみたいなんだよ。お前、知っているのか?」マックスにそう言われて、俺も腹を括った。
◆◇◆◇◆◇
「これから話す事は他言無用です。ヘタに国で保護とか、王族で匿うとか言わないで下さい。少しでも怪しい動きをしたら、俺とエレナは必ず姿を消します。良いですね?」俺は眼光鋭く二人を睨み、返事を待つ。
アレン先生とマックスは、お互いの顔を見て頷き「絶対に誰にも話さない。もちろん国にも」と、誓ってくれた。
後はその言葉を信じるしか無い。
「エレナは転生者です。帝国の勇者召喚に巻き込まれてこの世界に来てしまったんです」俺の話を信じるだろうか?
二人の顔を見ると、目を見開き口を大きく開けていた。その様子がそっくりなんですけど。
「エレナは元の世界で恋人に刺し殺され、その恋人が召喚に応えた為、魂だけになっていたエレナはこの世界に一緒に来て女神に拾われ、3歳の女の子の体に魂を入れられた」自分の口から女神の話をするとは。
ーーーーーーーーー本当に腹が立つ。
「俺達の戦争にその勇者が加担した。そして勇者によってガリウレスの王族は皆殺しにされた。戦況も急に変わったと言う事です」二人共茫然として動かない。
そりゃそうか。俺もそうだったなぁ〜。
先に復活したのはアレン先生だ。「はぁ?勇者召喚?女神?エレナちゃんが転生者?おいおいお前……」
「全部本当の事です。アレン先生、不思議に思いませんでしたか?あんなに聞き分けのいい3歳児なんています?」
「入院中、一度も泣き喚く事も無く、夜は一人で大人しく眠ってて、夜中に起き出して親を探して歩き回る事もしなかった…」アレン先生も何かを感じていたはずだ。
「オコメは、エレナの元の世界で主食だったそうですよ?」
あ〜、と言いながらアレン先生は納得したようだ。今だに固まっているマックスは置いておこう。
「召喚の魔法陣を女神が帝国に教えた。帝国は女神に金銀財宝を貢いだ。あの国はそうやって成り立っていた。女神とはエルタナの事です」俺の話す内容に、アレン先生はまた大口を開けて固まった。
その姿を見てつい吹き出しそうになった。笑っちゃ悪いが、いつもデンと構えている人が…。
「創造神様にその魔法陣を壊すように言われているんです。早くしないと皇帝が魂替えをして生き延びてしまう。今、体が崩れかけているらしく、またと無いチャンスなんです。一刻も早く帝国に行きたい。だから俺達はこれで失礼しますね。色々お世話になりました」返事も待たず、二人に軽く頭を下げてエレナを、と思ったところでアレン先生が復活してしまった。
「イヤイヤ、何サラッと出て行こうとしてやがる!行かせるわけねーだろうが!お前、部下達どうすんだよ。国を復活させんじゃねーのか?皇帝殺して国乗っ取るつもりか?一人で行くつもりなのか?エレナちゃん、ワシがもらうぞ!」
ちょっと待て。最後にドサクサに紛れて何言ってんだ?
「あ゙あ゙?国なんてどうでも良いし、乗っ取りもしねーよ。エレナは俺の娘だ!誰にも渡さねーよ!」
今までで一番、ブチ切れてしまったかも知れない。
アレン先生に凄んで本気の殺気を放った。




