39 オコメを“たく”
「皆さんには大変お世話になりました。ありがとうございました」俺は歩きながら頭を下げた。
マックスは「あー、一度ギルドに戻ってゆっくり話さないか?トーダさんも待ってるし。オコメの輸送も始まるところだ。だから一日だけ待ってくれないか?宿舎もまだ契約残っているだろう?」
マックスにそう言われてエレナを見ると、エレナは頷いていた。
「あ〜、……はい。分かりました。用事が終わったらギルドに戻ります」
俺が折れた事で話が進むなら、それで良い。荷馬車か馬か、買わなきゃならないし。
「ヨシッ!絶対戻れよ!俺は先に戻って準備するから。いいな!絶対に戻れよ!」マックスは俺の肩を叩き、手を振って走り去ってしまった。
「準備って何だろう?俺がいなくたって、オコメの件はトーダさんに任せれば良いハズ…?」
エレナと顔を見合わせ「へんにゃやちゅね〜」と首を傾げながらエレナが言う。
「一日遅くなるけど構わないか?」
「アイチュ、話しゃにゃかったら、じゅっとちゅいて来りゅ気だったかもよ?」
ん~~、そうかも。だったら一日ぐらい出発が遅くなってもいいか。
◆◇◆◇◆◇
ようやくバルタムさんの店に着き、中に入るとバルタムさんが待っていた。
「おう、遅かったな!エレナ、出来たぞ」
え〜〜?名前で呼ぶほど仲良くなったの〜?
「バリュしゃん、ほんちょ?出来ちゃの?」エレナが興奮しながら身を乗り出し、俺の腕から落ちそうになる。
「あー、コラコラ」と言いながらエレナを床に降ろす。
「それでな?ワシが思うに少し長さが足りないと感じて…」と、バルタムさんがエレナを連れて奥の部屋に行ってしまった。
また俺だけ置いて行かれた。だが今回は俺も付いて行く。
奥の部屋には、色んな材料が所狭しと置いてある。ここも埃だらけだ。
「うんうん。でもしょりぇだとここが…」二人は顔を突き合わせて話し込んでいる。
大人しく待っていよう。俺は腕を組み、二人の作業をずっと見守った。
時々火花が散り、ハンマーの叩く音やエレナが魔力を込めたりと、色々な動きが見て取れた。
「よっち!出来た!」
「エレナ、オコメとやら持ってるか?」アレ?どこかで同じセリフを聞いたような…?
バルタムさんに言われて、エレナは空間収納からオコメを出してしまった。
俺が「あっ」と声を出すと「おとーしゃん、いちゃにょ?」エレナが驚いて振り向いた。
「ずっといましたよ。すいませんね」幼子をジーッと見つめてしまった。
エレナもさすがにマズいと思ったのか、「ごめんにゃしゃい」と謝ってくる。
「おっと旦那悪かったなぁ〜。つい夢中になっちまって…。だがコイツはすごいぞ!エレナは天才じゃないか!オコメも入って来るんだろ?この“セイマイキ”と一緒に売り出せば、大儲け出来るぞ!」バルタムさんが息巻いて腕まで振り上げている。
◆◇◆◇◆◇
「あのー、それなんですが…。ちょっと言い辛いんですけど実は、ダクサムさんにそれと似たような物を作るよう、トーダさんが頼んでまして…」俺は頭を掻きながら伝えるしか無かった。
「エレナもごめん。出来上がったら教えるつもりだったんだよ。試作で出来たオコメ覚えているか?一緒にオカユ作っただろう?あれが初めてダクサムさんの試作品で作ったんだよ…」
俺は申し訳なく思いつつ、二人を見るとエレナは「あ〜、あにょ砕けちゃヤチュ」と言い、バルタムさんは「あ゙?ワシの弟と知り合いだと?」と怒気を込めた。
「エレナ、まずはワシの作品を試すぞ」バルタムさんの意見にエレナは頷き、オコメを茶筒に入れた。
カップ一杯分ぐらい入れて、スイッチを押した。ギュイーンと言う音がして、カラカラ何かが回る音がする。
10分程で音が止み、中を覗く。
カップに移したオコメがキレイに白くなっていた。
エレナが「おとーしゃん見ちぇ?」と言って俺の所まで持って来た。
時間はダクサムさんの方が早かったが、出来上がりはバルタムさんの方が良い。
俺は「こちらの方がオコメがキレイに白くなっています。ただダクサムさんの方が時間が短く量も多く作れますね」と、素直な感想を述べた。
「弟の方が時間が短く量が多い。だが出来上がりは俺の方がキレイと言う事はアイツ、また威力をやたらと上げて力技で済ませようとしているな?アイツはいつもそうなんだよ。何も変わってないじゃないか!」と、バルタムさんは怒り出した。
◆◇◆◇◆◇
「エレナ、せっかくだからそのオコメで何か作ろうか?」俺の提案にエレナが乗って来た。
「うん、オコメちゃく!」ん?“たく”のね。
「バルタムさん、キッチンお借り出来ますか?」俺がエレナに必要な材料を聞こうとしたら、バルタムさんが「あん?ワシ料理しねーから使えないぞ?」と言われてしまう。
エレナと二人で固まってしまった。
「付いて来な」とバルタムさんが店から出て行き、エレナと慌てて追いかけた。
バルタムさんはあの調理器具の店に入って行き、「旦那、キッチン借してくれ〜」と店主に言った。
「おや、バルさん。また試作品が出来たんですか?」物腰の柔らかい言い方に、やっぱりここの店主はトーダさんに似ている。何だかオモシロイ。
「フフッ、どうぞこちらです」俺とエレナがいる事に気づいても動じずに、案内してくれた。
「突然すいません、お借りします」俺が頭を下げると「いつもの事ですからお気になさらず。でも珍しいですね?バルさんがお客様をお連れするなんて」店主は口元に手を当て、クフクフと笑っている。
「それがよ〜。こっちの旦那、ワシの弟の知り合いだって言うじゃねーか。しかもよ?俺に頼んでったヤツと似たような物を作らせてんだとよ。負けられねーだろ?」
バルタムさん、ダクサムさんの事ライバル視してるんですね。
「兄弟で仲良く作ればもっと良い物が造れるのに、意地っ張りなんだから…」店主の心配も分かるよ。
◆◇◆◇◆◇
俺はエレナの指示を聞いてオコメを洗い、材料を切り、オコメを“たく”をして、みちょでスープを作った。
店主の所で買った鍋が大活躍だ。店主もそれを見て、嬉しそうにしている。
しばらくすると、良い匂いがして来た。
エレナは魔導コンロの前から離れようとしない。抱き上げて、上から見えるようにしてやる。
「もうちょっと、もうちょっと」オコメに視線を移し、ブツブツ呪文のように唱えている。
「よっち!」の声でコンロを止め、俺達に触るなとエレナが言う。ならば食器が必要だろう。
深めのスープ皿と平たい小さめの皿を、店主に借りて準備する。
また「よっち!」の声でオコメの鍋の蓋を開けた。
白く輝くオコメが、そこにいた。




