38 しつこいギルド長
「頭を上げて下さい!俺はもう帝国の兵士じゃありませんっ。えっと……、多分、城にいる女子供を殺したヤツが捕まったと聞きました。ソイツの事でしょうか?おかしいですよね?同じエルタナの呪いがあるはずなのに、殺せるなんて…」焦りながらも答えてくれた。
エレナはウンウンと頭を振る。
「牢屋の場所、分かるか?」
(小)はしばらく考えた後「書くものはお持ちでしょうか?」と聞いて来た。
エレナがマジックバッグから紙とペンを出す。
(小)はそれを見て目を見開きつつも、城の地図を書き出した。
城は五階建て。皇帝の部屋は最上階。兵舎脇に牢屋への入り口。北の塔。
そうだ!
「城の地下に魔法陣があるのを知っているか?」(小)に尋ねると、首を捻りながら考え始めた。
「あ、もしかしてアレかな…?」(小)は城の地図に書き足していく。
「この一階の端に王族用の教会があります。王族と上位貴族しか入れず、神託が降りる場所だと言われていて、一度入ると長時間誰も出て来ないから、いつも不思議に思っていたんです。間違っていたらスイマセン…」これは極めて有力な情報だろう。
「他に逃がしたいヤツはいるか?」(小)は首を振る。
「俺、赤ん坊の頃に捨てられて、城の料理長に拾われたんです。だから城の中を色々知ってて…。あそこで育ったものですから。でも数年前、養父が突然行方不明に…。俺は探す為に兵士になりましたが、すぐ戦争に行かされて探しに行けませんでした。今なら分かります。多分、皇帝に殺されたんだと思います…」(小)の言葉にエレナが悔しげに唇を噛んでいる。
俺がエレナを見やると小さく頷いた。
これもクロキか…。この世界に来た年月が、クロキとエレナとではずい分と違うんだな。4年以上も前から帝国に居たのか。クソがっ!
俺は金貨を十枚取り出し(小)に握らせた。
「えっ?」(小)は驚いて俺を見る。
「これは情報と地図のお礼だ。生活費の足しにしろ。色々助かったよ、ありがとう」
(小)は頭を振りながら「俺、そんなつもりじゃ…」と、俺に金を返そうとする。
「良いから取っておけ。向こうに行ってもがんばれよ」(小)の目を見ながら肩を叩き、金を押し返す。
「すいません、あんな事したのに…」
「俺達の事は忘れろ。お前も国の事は忘れるんだ。これは裏切りでは無い。勇気有る前進だ」
(小)は何度も頷き、俺達に「ありがとう、ありがとう」と言いながら街中に消えて行った。
店の老婆に代金を払い、俺達は手を繋いでバルタムさんの店へ向かおうと路地に出た。
◆◇◆◇◆◇
「見いぃーーつけたぁぁぁ〜〜〜」
と、悍ましい声が路地に響いた。
俺とエレナはビクッと肩を震わし、恐る恐る振り返るとそこにいたのはギルド長マックスだった。
「うぇっ?ギルド長…?」何でココにいるんだよっ!
エレナは憎しみを込めてギルド長を睨んでいる。
「お前、ちっせーの連れて何をしようとしてやがるんだ?あん?」マックスがノシノシと近づいて来る。
エレナは手に魔力を込め始めた。
俺はエレナの手をそっと握り、やんわり止めた。
「ギルド長には関係無いですよ」今まで色々配慮してもらったのは分かっているが、ソレとコレとは話が別だ。
「ほぉ~、良いご身分だなぁ〜、ガリウレス王国の騎士団長様は」この時、反応しなければ良かったんだ。
思わず舌打ちしてしまった。こんなにアッサリ身元がバレるなんて…。マックスはやはりただのギルド長じゃねぇ〜な。
そしてエレナは、改めて魔力を込め始めた。
俺はマックスと向かい合った。何をするつもりなのか知りたかったんだ。
俺に敵意は向けていない。ただ、怒ってはいるようだ。背中に大剣を背負っているが、街中だし抜く気は無いだろう。
俺はエレナを止める事はせず、この場をどうするか考えていた。
「こいちゅ、おとーしゃんのこちょ狙ってりゅ」エレナがボソッと呟いた。
「へっ?俺を狙ってるって?」エレナが頷く。
「きっちょ、こいびちょにしちゃいにょよ」はい?エレナさん?何を言って…。
エレナの話を聞いたマックスが、急に焦り出した。
「イヤイヤ、嬢ちゃん違うぞ?お前達が二日も帰って来ないから探しに出たら、メルダが宿を紹介したって言うからこっちに来てみたんだよ。お前らずい分色々買い込んだらしいじゃないか。だから黙って旅に出るつもりなんだろうと…。アレン先生も怒ってたぞ?毎日連れて来いって言われてただろうが!」
あ〜、そう言えばギルドに言わなかったなぁ〜。アレン先生には言っておくべきだったか?でもあの人、エレナに会いたいだけのようだったから、すっかり忘れていたなぁ〜。
「うちょよ!いちゅもおとーしゃんのこちょ、ねっちょりちた目で見ちぇるじゃにゃい!」鼻息荒くマックスを責める3歳児。
何故かたじろぐ大熊の図。
笑ってはいけないが、俺は吹き出してしまった。「ブフフッ、エレナ何を言ってるんだよ?」
「おとーしゃん!ほんちょにゃんだかりゃ!」俺は笑いながらエレナの頭を撫で「俺は誰とも付き合う気は無いよ。お前が一番大事だからな?」
エレナは俺を見上げて「ほんちょ?」と聞いてくる。
こんな可愛い子が側にいるんだから、どんな相手でも靡かないよ。
「ああ。お前がいれば何も要らないよ」そこまで言って、エレナはやっと落ち着いた。
◆◇◆◇◆◇
「ハァ〜。それで?どこに行くつもりなんだよ?教えろ」マックスが眼光鋭く聞いてくる。
「どこに行くかなんて、分かっているでしょ?俺達忙しいんでこれで」
そう言って逃げようと思ったのに、さすが腐ってもギルド長。俺の腕を瞬時に掴んで離してくれなかった。
「あっ!おとーしゃんにしゃわるにゃ!」エレナが咄嗟に火球を出した。これはさすがにマズい。
マックスも気づき、一足飛びに離れた。
エレナが放った火球は空へと消えて行った。
「くちょ、ちっぱいちた」エレナは避けられた事に憤慨している。
ふふ。俺は笑いながらエレナの頭を撫で抱き上げた。
「これ以上しつこくするなら、エレナに全力で火球撃たせますよ?」エレナは両手を伸ばし、構えている。
俺達の本気が伝わったのか、ようやくマックスは「分かったよ、悪かったって。ただ事情を聞きてーだけだって。邪魔はしない、約束する」熊がキリッとした顔で言った。
「ふぅ、じゃあ付いて来て下さい。道すがら話します。良いですね?」
熊は頷きトボトボ付いて来た。
エレナはまだ警戒を解かないでいる。
俺達はバルタムさんの店に向かう為歩き出し、帝国に行く事を話した。
「行って何をするつもりなんだ?まさか皇帝を?」マックスが聞いてくる。
「邪魔しないのなら聞かないで下さい。多分ここにはもう戻りませんから」俺の言葉に、エレナが俺の顔を見ながら驚いていた。




