35 俺の剣とエレナのナイフ
風呂を出たら夕飯の時間だった。
俺にはステーキだったけど、エレナはミルク粥に果物が付いていた。
ステーキを食べてみたら肉が柔らかい。エレナも食べられそうだな。
「エレナ、肉食べるか?」俺は肉を小さめに切り、フォークに刺して口元に持って行く。
ちょっと迷ったようだけど、エレナは素直に口を開けた。肉を入れてやる。
エレナはモグモグと噛んでいる。「おお〜、おいし〜い!黒毛和牛!」
クロゲ…?何ですか?
「何だって?」俺が聞くと「おいちいね〜」とエレナは両手を頬に当て喜んでいた。
「明日の夕飯、同じ物にしてもらおうか?」前に比べて食べる量が格段に増えているし、もっと体に肉を付けさせたい。
エレナは何度も頷き「あちたたにょちみ」と笑っている。
◆◇◆◇◆◇
夕飯を終え、マジックバッグに入れていた果実水と菓子を出した。
あの話をしなければ。
「昨日、眠っていたら頭の中で不思議な声がして起こされたんだ。それが創造神様の声だった」俺の言葉にエレナがびっくりしている。
「わたちの体、ちょーじょーちんしゃまがにゃおちてくりぇたにょよ」エレナもちゃんと話してくれた。
「色々聞いたよ。女神に罰を与えた事とか、クソ女神がエルタナだったとか…。あのクソ女神が居なければ、俺の国は無事だっただろう。でももし居なかったら、こうしてエレナと出会う事が無かったと思うと、複雑な気分だよ」
俺だって分かっているさ。過去をいくら悔やんでも、元に戻る事は無い。
「それと、創造神様から剣を頂いた」マジックバッグから細剣を取り出して、エレナに見せてやる。
「俺の家の家宝だったミスリルの細剣だ。戦争中に剣が折れて、俺がどこかに投げ捨ててしまったんだ。それを創造神様がまた造って下さった。これで皇帝を滅殺しろって言われたんだ」
「ちゅごいキレー」エレナの瞳がキラキラ輝いた。女の子だから、やっぱり装飾が美しい物が好きなんだな。
「ただ残念な事に普段使い出来ないんだよ。切れ味が凄まじいみたいで…」俺は項垂れながらエレナを見る。
「ううん。だーじょぶよ。魔力をながしゃず、力まにゃければふちゅーにちゅかえりゅ」と、エレナが説明してくれた。
「本当か?それが出来たら普段から使っても?」俺の問いにエレナは「だーじょぶ」と頷く。
「そうか…。練習しないとな」俺は笑みを浮かべ、エレナを撫でた。
多分、鑑定したんだな。俺は剣に炎を纏わせて斬り込むスタイルだった。
どっちにしろ扱い方は覚えないと。いざと言う時大変な事になってしまう。
「お前は?俺と同じような物を頂いたんだろう?」エレナに尋ねると、空間収納から一本のナイフが出て来た。
エレナに手渡され、俺が受け取ると「ソレは、私を殺したサバイバルナイフです。黒木が私を刺したナイフを、私が自分で引き抜き抱え込んだ。自分でも何故そんな事をしたのか分からないけど、創造神様がそのナイフで勇者と魔法陣を壊せと…」
いきなりエレナを刺したナイフだと知って、俺は焦ってしまった。エレナは傷ついたんじゃないか?
「お前、大丈夫か?お前を刺したナイフを渡すなんて、創造神様は何を考えているんだ…」俺の方が傷つくぞ、創造神!
「いいえ。逆に私が殺らなければと気合いが入りました。黒木はこの世界で人殺しを続けている。今は城の牢屋に囚われているけど、アイツがこのまま大人しくしているとは思えない。姿も変わってしまったから、今の姿も分からない。なるべく早く、魔法陣を壊すようにとも創造神様に言われました。皇帝が魂替えをしようとしていると。あの女神が教えて、何度も魂替えを行い、生き延びて来たのが今の皇帝だと言っていました」
エレナの焦りはそれか。魔法陣を壊さないと、皇帝がまた生き延びる。
「エレナは今すぐにでも帝国に行きたいんだな?」俺の目を真っ直ぐ見つめ、何度も頷く。
「皇帝の体が壊れかけている今がチャンスです。同時に黒木も殺れたら良いのですが…」
俺とエレナはその晩、遅くまで色々話し合った。そこで、何をおいてもまずは魔法陣を壊す事にした。
◆◇◆◇◆◇
次の日、宿の食堂で朝食を取り、ついでにエレナの夕食を昨日のステーキにしてくれるように頼んだ。
女将は「あら、たくさん食べてくれて嬉しいわ。夕食楽しみにしててね?」とエレナに話し掛けている。
「よーちくお願いちましゅ」と、エレナは頭を下げた。
女将は嬉しそうに「任せてちょうだい」と胸を叩いた。
メルダさんと義理の姉妹なのにここまで似るんだなぁ〜と、感心してしまった。
◆◇◆◇◆◇
俺達は街に出て買い物をした。大量の食料と調味料。服も買った。
アチコチ歩いて、とある雑貨屋でエレナが足を止めた。
「何か欲しいのか?」俺が聞くと、エレナは少し大きめの茶色の茶筒を指した。
「コリェほちい」円柱の、いたって普通の茶筒。
「もっとカワイイとかキレイな物もあるぞ?これで良いのか?」店の中にはもっと装飾してあり、カラフルな色合いや形が異なる茶筒があった。
「わたちこりぇでいーの」と手に取り俺に渡して来る。
俺は代金を払い、茶筒をエレナに渡した。
エレナが歩き出し、次は調理器具の店に行く。
「ちゅいましぇん、コリェちゅくっていりゅ人紹介ちてくだしゃい」エレナが店員を捕まえてその辺にある器具を指し、いきなりそんな話をしだした。
「おいっエレナ!」俺は止めようとしたが遅かった。
店員は面食らっていたが、店主を連れて来てくれた。
「これはこれは、可愛いお客様。何かご入用で?」店主はにこやかに話しているが、目の奥が鋭く光った。
この店主、イーダさんと同類だ…。
エレナに言わせるより俺が話した方が早い。
「あの、この辺りに調理器具を扱う鍛冶屋があったら教えてもらえないかと…」とエレナを見ながら店主に聞いた。
「あー、それならすぐ裏のバルタムと言う方が作っておりますよ」こちらです、と店主自ら案内してくれた。
行ってみるとボロい建物。店?の中は埃だらけ。棚には理由が分からない物…。
イヤ、まさかな〜…。
「バルさん居るかい?」店主が声を掛けると、奥から出て来たドワーフ。
エレナを抱っこして挨拶させようとしたら「ふぉ〜、ドワーフだぁ〜」と小声で感動していた。
「よう、旦那。何か用かい?」とバルタムさんは店主の後ろに立つ俺達を見た。
「お客様をお連れしましたよ」和やかな雰囲気で俺達を紹介して、店主は「それでは」と言って店に戻って行った。




