36 旅の準備
「俺はガス、娘のエレナです」と、まずは挨拶をする。
「ワシはバルタムじゃ。それで?どんな用だ?」鋭い目つきで俺達を見ている。
「お願いがありましゅ」何も気にせずエレナが交渉を始めた。
空間収納からオコメの麻袋を出し、バルタムさんに説明をする。
あっ、と思ったが耐えた。俺はやっと何がしたいのかが分かり、エレナが言いたい事の補足をする。
要はオコメの茶色の所を削ぐ魔道具が欲しかったんだな。そう言えば、ダクサムさんの話をするのを忘れてた。
エレナは持ってた茶筒で“セイマイキ”なる物を作りたいと言う。
今度は紙とペンを出し、絵で説明を始めた。
すると、バルタムさんがエレナを奥の部屋に連れて行ってしまい、俺は一人取り残されてしまった。
何だかさみしい…
二人の後ろから覗き見ると、絵に色々書きながら話し込んでいるので、俺は一人で店主の元へ戻った。
◆◇◆◇◆◇
「おや、どうしました?」店主が俺に気づき話し掛けて来た。
「何だか二人で盛り上がってまして…。する事が無いので出て来てしまいました」俺は頭を掻きながら店主に告げる。
ついでにお礼も兼ねて、いくつかの調理器具を購入した。
「よろしかったらお茶でもどうですか?」と店主が誘ってくれたので、店の奥の部屋にお邪魔した。
茶菓子を頂きながら、気になっていた事を聞いてみる。
「あのー、ダクサムさんてご存じですか?」店主は笑みを浮かべ「ええ、バルタムさんの弟さんですよ」と教えてくれた。
「あの二人は気質が似ているせいか、良く言い合いをしていましてね〜。前は二人であの店をやっていたんですけど、とうとうケンカ別れみたいに別々になりまして、とても残念に思っています」
店主は二人と仲が良かったのかな。トーダさんみたいに面倒も見ているのだろう。
俺は店主としばらく話をし、お礼を伝えて店を引き上げた。
◆◇◆◇◆◇
もう夕方になってしまう。ぼつぼつ帰りたい。
バルタムさんの店に戻り、「エレナ、そろそろ帰るぞ」と声を掛けたら二人でお茶してた。
何だよ。仲間に入れてくれたっていいじゃないか。
「おとーしゃん、どこ行っちぇたにょ?」
え〜〜?俺が悪いの〜?
「ごめん。邪魔しちゃ悪いかと思ってさ。話は終わったのか?」そう言いながらエレナを回収。
「おう、明日昼ぐらいまでには終わらせるから、その頃にまた来てくれ」と、バルタムさんがニカッと笑い親指を立てた。
あ、エレナ教えたな!
そう思っていたら「よーちく」と、エレナが悪い顔をしながら親指を立てた。
それでは、と頭を下げて店を出た。
◆◇◆◇◆◇
エレナが「あにょみちぇ行きたい」と言う。
あの店?指を指したのはさっきの調理器具の店だった。
今日だけで三度目。少し恥ずかしい。
しかし、エレナが言うなら行かねば。
店に行くと店主がおや?と眉を上げた。
「いらっしゃいませ」とエレナに声を掛ける。
エレナが指を指す物を購入。いくつか同じ物を欲しがったので「それ買った」と言うと、目を見開いていた。
その中でも鍋に蓋が付いている物を買ったのだが、もう一つ欲しいと言う。
エレナが欲しいのなら買いますけども。
俺が買った物より少し小さい鍋を購入。
店主は俺達が次々と色んな物を買うから、ちょっと驚いていた。
「もしかして旅にでも出るのですか?」この店主、鋭いな。
「はい、そうなんです。しばらく戻れないので、なるべく必要な物を揃えてまして」と俺が言う。
「ならばこちらはいかがでしょうか?」と店主が出して来たのは、折りたためるテーブルと椅子のセットだった。
「料理をする時の台にもなりますし、地面に座らなくて済みますよ」椅子は二脚付いてる。エレナは欲しそうだ。
「じゃあ、頂きます」
そして代金を払い、俺達は宿に戻った。
◆◇◆◇◆◇
「エレナ、疲れただろう?風呂入ろうか」エレナに声を掛け二人で風呂に入る。
昨日一緒に入ったからか、今日は大人しい。
買った物は全てエレナの空間収納に入れてもらい、後は明日、帝国に向けて出発するだけだな。
「明日出発でいいのか?必要な物はもう無いか?」湯船に浸かりながらエレナに確認した。
「だーじょぶ。あちたバリュしゃんがちゃんとちゅくれたらいいな」エレナは思案顔でそう言った。
夕食は頼んでいた通り、前日と同じステーキが出た。
エレナは「おいちい」と何度も口に肉を運んでいる。
「こにょお肉、みちぇで売ってりゅ?」とエレナが聞くので「後で女将さんに聞いてみるよ」と言うと、とても嬉しそうに笑った。
これは何が何でも手に入れなければ…!
夕食の後、エレナは早々に眠ってしまった。今日はお昼寝していないからね。
ベッドに運んで寝衣に着替えて布団に入れた。
俺は一人で、どうやって帝国城まで行こうか考えていた。
一番良いのは行商のフリして荷馬車で行く事。ただ、それだと歩みが遅い。
馬を買うか?ここから帝国城までほぼ一ヶ月。俺だとバレずに行ける何か良い手は無いだろうか…。
気ばかり焦ってしまい、俺はその夜なかなか眠る事が出来なかった。
◆◇◆◇◆◇
翌朝、宿の食堂で朝食を取っている時に女将に聞いた。「あのステーキ肉って、どこかの店で買えますか?娘が気に入ったので是非とも手に入れたいのですが…」
「あら、気に入ってくれたの?嬉しいわ〜。あの肉はダンジョン産なのよ。私が肉屋に言っておくから、好きなだけ買って行ってよ」女将が嬉しそうに肉屋の場所を教えてくれた。
肉屋は知り合いなんだろうか?
「色々お気遣い頂いて、ありがとうございました。とても良い宿でした」
お礼を伝えると女将が「義姉さんの手紙にお嬢さんが退院したばかりだって書いてあったから、心配してたのよ。でもたくさん食べてくれたから、もう大丈夫ね。元気になって本当に良かったわ」と、会ったばかりの人がエレナの回復を喜んでくれる。
こんなに優しい人達がいるこの国を、皇帝はいつか侵略するだろう。
俺達の時のように、あの勇者をまた加担させるかも…。それだけは許す理由にはいかないんだ。
「俺はガス、娘はエレナと言います」宿の玄関でエレナを抱っこして、別れの挨拶をする。
「私は女将のマチルダよ。是非また泊まりに来てね。エレナちゃんも」
「はい、お世話になりました」「おちぇわになりまちた」エレナが女将に手を振り、俺達は宿を後にした。
出来れば、宿の名前を変えて欲しい…
ーーーーーーーーーー絶対言えないケド。




