33 帝国の事件
俺は踵を返し、路地を走り抜け空き地へと誘い込んだ。
振り返ると初めに殴り掛かって来たのは、周りを警戒していた(中)の男だった。
俺は体を屈めて下から突き上げる様に、腹に拳をめり込ませた。
(中)はその一発で沈める事が出来た。(中)は腹を抑えて蹲り、呻り声を上げている。その(中)の姿を見て兵長は怒りを表した。
「テメェ〜、やっぱりガリウレス王国の騎士団長だな!?何故生きている?生き残って恥ずかしくないのかっ!」
大きなお世話だよ。しかし、俺だとバレたからには生かしておけない。
エレナの前で人殺しはなぁ〜、どうしようかなぁ〜と考えていたら、俺の後ろから小さな火球が飛んで来て兵長の体に当たった。
後ろに吹っ飛んだ兵長は気を失っていた。
俺はその光景を、ただ見ている事しか出来なかった。
すると(小)が「あー!兵長ー!大丈夫ですか!?何でこんな酷い事をするんだ!」と叫ぶ。
イヤイヤ、俺に襲い掛かって来たのはそちらでしょ?
「あ゙?お前らが先に手を出しておいて何をふざけた事を言ってんだ?お前らは俺を殺そうとしていた。俺はそれを反撃しただけだ」
(小)を睨みながらそう言うと、ガクガク震え出した。
エレナの事は後回しだ。
また付けられても面倒だし、俺は(小)と話を付ける事にした。
◆◇◆◇◆◇
「なぁ、お前ら帝国軍だろ?何で国から逃げ出した?」
(小)は今だに震えながら「せ、戦争が終わった後、俺達の仲間がつ、次々と消えたんです…」
「消えたってどう言う事だ?」俺は質問しながらエレナの気配を探す。
まったく分からん。
離れていると不安だから、俺は側に呼ぶ事にした。
「エレナ、こっちにおいで」すると、俺の手を掴む小さな手の感触がした。
ずっと隣にいたのね。ローブ使いこなしているね。スゴイネ…。
エレナが姿を現すと(小)が目を見張った。「女の子が急に現れた…」
コイツ、気を失いそうだ。
「おいっ!早く消えた理由を言えっ!」俺が一喝すると、我に返った(小)が話し始めた。
「な、仲間が理由も無く居なくなる事に気づいた兵長が、死体が見つからなかったガリウレス王国の騎士団長のし、仕業だって言い出して、それで…」
クソみたいな話を聞いて気分が悪くなる。
やってもいない罪で俺を犯人と決めつけた。
俺は理不尽な言いがかりに奥歯を噛みしめていると、エレナが俺の手を引っ張る。
強く握りしめたかと焦ったが、そうでは無かった。
「アイツの仕業よ。アイツがやったの」エッとエレナの顔を覗き込む。エレナは何度も頷く。
そうなのか。勇者が帝国兵を殺しているのか…。
「おい、お前。信じなくても良いから俺の話を聞け。犯人は俺じゃない。俺はお前らからずっと逃げていたんだ。自分から乗り込んだりする理由が無い。今回は見逃す。次また俺の後を付け回したら、その時は容赦しない。分かったか?」
俺の言葉に(小)は何度も頷いた。
「お、俺はただ帝国を出たかっただけだ。だからアンタを探しに行くと言った兵長に、付いて来ただけなんだ。隙を見て逃げるつもりだったのに、兵長が単独行動をさせてくれなくて…。か、金も無くなったらチンピラの真似事まで仕出すし、もう俺はイヤなんだよぉ〜」
とうとう(小)は座り込んで泣き出した。
俺はハァ〜と溜息を吐き、金貨を十枚程出して(小)に渡した。
「今なら離れられる。この金はやるから違う街に行くんだ。人の多い街へ行け。ダンジョンのある街なら見つかりにくい。偽名で冒険者登録しても良い。いいか、俺とこの子の事は忘れろ。生きていたいならな」
(小)は金を受け取り、俺達に向かって小さく「ありがとう」と頭を下げた。
少しの間兵長と(中)を見ていたが、立ち上がって振り返らず、そのまま空き地を出て行った。
◆◇◆◇◆◇
さて、あのバカ二人はどうしようか?
ふと気づいたら、エレナが兵長の側に近寄って行く。
何をするつもりだ?と思っていたら、エレナは兵長の額に手を当て、ブツブツ言って最後に回復を唱えた。
淡く光った兵長の起きる気配がしない。
「ん?エレナ、何をしているんだ?回復してやったのか?」俺はエレナの近くまで行くと、兵長を覗き込んだ。スヤスヤ眠っているけど…?
「めんどーだかりゃ記憶消ちたにょよ」ハイ?何やってんすかエレナさん?
「記憶消すってエレナ…」
「おとーしゃん見かけちぇ、また追いかけちぇ来ちゃりゃめんどーよ?」
そしてトコトコ(中)の側へ行き、額に手を当てブツブツ言って回復を掛けた。
「よっち!終わっちゃ。もうだーじょぶよ」そう言って胸を張るエレナは、どこか誇らしげだ。
俺は可笑しくなって笑い声を上げた。
「アーッハッハッハ、凄いなエレナ!!」
エレナを抱き上げ、高く高く掲げていた。
エレナは驚いてキャーッと言ったが、その声はとても楽しげな悲鳴だった。
そのままくるくる回り、エレナを地面に降ろした。
「さぁ、行こうか」俺とエレナは手を繋いで空き地から路地に出た。
あの二人?知ったことかっ!
◆◇◆◇◆◇
俺達は市場まで戻って来た。
あの(小)はもう、此処を離れただろうか。俺が気に病む事では無いが。
エレナは、キョロキョロしながら市場を見ている。
「何か欲しい物でもあるのか?何でも買うぞ?」俺が聞いてもエレナは答えない。
見渡すのが楽しくて、俺の声が届かないのだろう。
そのままトーダさんの店に行き、声を掛けた。「トーダさん、こんにちは」
店の奥からトーダさんが出て来た。「おや、ガス君いらっしゃい」
「オコメ有りますか?」エレナの目が輝いた。
「はいよ。どのくらいいるのかな?」
エレナの方を見て「どうする?」と聞くと「いっぱいほちい」とハニカミながら答えた。
俺達のやり取りを見ていたトーダさんが「もしかしてガス君の娘さんかい?」と聞いて来た。
俺も紹介が先だなと思い、エレナを抱っこして「娘のエレナです。こちらトーダさんだよ。この人がオコメを仕入れているんだ」とどちらにも紹介する形を取った。
「お〜この子が…。もう体は良いのかい?」トーダさんは覚えていてくれた。
「はい、おかげ様で今日退院しまして。お祝いにちょっと良い宿に泊まろうかと思いまして」俺とエレナが笑い合って言うと、トーダさんがウンウンと頷きながら聞いていた。
「そっかそっか。良くなってよかったよ、エレナちゃん」なぜか涙ぐむトーダさん…。
俺は苦笑いしつつエレナに目を向けた。エレナは一点を見つめて固まっているようだ。
「エレナ、どうした?」俺はエレナの目線を追い、そっちの方に歩を進める。
エレナが小さな指を出して「ありぇ〜」と言う。
誘導されるまま商品?の側まで来た。エレナが頻りに鼻をスンスンさせて、この辺りにある匂いを嗅いでいる。
「おいっ、エレナ」俺は店の中の匂いが気に障ったのかと止めようとした。
エレナは一つのガラス瓶と木の樽を指さした。
それを目敏く見つけたトーダさんの瞳がキラリと輝る。「どうしたのかな?エレナちゃん」
「ちゅこちあじみちたいにょ」




