32 エレナとお出掛け
食事を終えて、エレナにローブを着せた。
「それ、創造神様に頂いたんだよ」と俺が伝えると、エレナの目が全開に開いた。
「ちょーじょーちんしゃま?おとーしゃんはなちたにょ?」エレナは信じられないとでも言うように首を傾げている。
ふふ、可愛いぞ?
「そうなんだよ。宿でその話もしよう。お前も何かあるんだろ?」
エレナは俺の話を聞いていないのか、「ちゅご〜い!」とキャーキャー騒いでいる。
「ハイハイ。出掛けようか」俺もローブを着てマジックバッグを肩から掛ける。
そうだ、エレナのは俺が持っているんだった。俺は自分のマジックバッグからエレナの肩掛けポーチを出して渡してやる。
受け取ったエレナは嬉しそうに自分で肩に掛けた。ポーチを開けて中から懐中時計を出し、そっと魔力を込めた。
ずい分魔力の流し方がスムーズだ。いつ練習したんだろう?
エレナは顔を綻ばせ、蓋の裏の鏡を覗いている。何度か頷き蓋を閉じてポーチに仕舞った。
「何か情報出てたのか?」大事な情報なら教えてくれるだろうけど、つい先に聞いてしまった。
「あいちゅ、ちろのろうやにいりぇりゃりぇちぇりゅ」えーっと、“アイツ、城の牢屋に入れられてる”か。
「捕まってんのか。そうかそうか」俺は少し安心した。
「さぁ、出掛けるぞ」エレナに声を掛け抱き上げる。一階まで降りてギルドを通り抜けて外に出た。
◆◇◆◇◆◇
エレナが空を見上げて「うわぁ~」と笑っている。
今までの辛い体とは違う事を実感しているようだ。
エレナが降ろして欲しそうだったから、そっと地面に降ろした。一歩ずつ確かめるように歩き出す。
まるで、この世界に来て初めて歩いているかのようだな。
「おとーしゃん、たのちいね」エレナの満面の笑みを見て、俺は改めて創造神様に感謝した。
俺もエレナに笑顔を向けて手を繋ぐ。ヨチヨチ歩きだったのに、その足取りはとてもしっかりしていた。
これは、なるべく早く森に行って色々試してみたくなるな。
◆◇◆◇◆◇
宿を探しながら適当に歩いているつもりだったが、市場の方に来てしまった。
ついでだからメルダさんの店に行って、どこか良い宿がないか聞いてみよう。エレナも紹介したいし。
「メルダさん、お久しぶりです」店に行くとメルダさんは、野菜を並べている所だった。
声を掛けた俺の顔を見て「あら、久しぶりね?元気だった?」と軽く挨拶を返してくれる。
メルダさんは俺を見ながらも、足元にいる小さな女の子に目を止めた。
「おや?そちらのお嬢ちゃんは?」
「俺の娘のエレナです。しばらく入院していたのですが、今日退院しまして。お祝いにちょっと良い宿に泊まりに行こうかと」
「まぁ、そうだったの…。良くなってよかったわねお嬢ちゃん。お名前は何て言うの?」
メルダさんはエレナと目線を合わせようと、しゃがみこんで話し掛けた。
エレナはモジモジしながら「エレナでしゅ」と小さな声で答えた。顔が真っ赤になっている。
俺はエレナの頭を撫でていた。
「あら〜、可愛いわぁ〜。ガスさんに娘さんがいるなんて知らなかったわよ〜」とメルダさんは俺の肩をバンバン叩く。
結構な力だ。地味にイタイ…。
「アハハ…、あの頃は娘が入院したばかりで焦っていたんです。スイマセン…」そう言いつつ、エレナを抱き上げ存在感を出させる。
メルダさんはエレナを見て、痛ましげな目をして微笑んでいた。
「そう…。それで?どこの宿に泊まるの?」と俺が聞きたかった事をメルダさんは聞いてくれた。
「どこか風呂付きの宿を知りませんか?エレナがお湯に浸かりたいと…」
「こんな小さな子がお湯に?変わったお嬢ちゃんだね〜」メルダさんの言葉にエレナが驚いた顔をした。
大抵の子供は風呂に入らず浄化で済ませる。と言うより、家に風呂が無いんだよね。
俺はエレナの背中をトントン叩いて落ち着かせる。
「風呂好きなんですよ、うちの娘は。それで…」
「あ〜ごめんよ。それならウチの旦那の妹がやっている宿があるから紹介するよ。南門の近くなんだけど」とメルダさんが紙に簡単な地図と自分の紹介だと、記した手紙を書いてくれた。
相変わらず面倒見の良い人だ。
俺はメルダさんにお礼を言って手紙を受け取り、店を後にした。
◆◇◆◇◆◇
そうだ!トーダさんにも会って行こう。
乗り合い馬車にも乗りたいし、市場の出口に待機所が有ったはずだ。エレナも喜ぶだろう。
俺が一人で考え事をしていると、エレナに服を引っ張られた。
「ん?どうした?」エレナを見ると「誰か付けて来る」とスラスラ答えた。時々こうなるのは何で?
俺が気配を探ると、三人の男達が俺達と同じ速度で歩いていた。
「めんどクサいなぁ〜」俺が呟くとエレナが「やっちゅけりゅ」と言葉が戻り、過激なセリフを言った。
「コラコラ。街中では駄目ですよ?そう言うのは森の中とか人目の無い所でね?」俺も大概だけど。
せっかくなのでローブを活用しよう。
「エレナ、ローブに魔力を流して認識阻害掛けてみな?」俺を見て何か言いたげだったエレナは、素直に魔力を流し始めた。
俺は足早に路地を曲がり、自分のローブに魔力を流して認識阻害を掛ける。
足に身体強化を掛け、素早く屋根に飛び乗った。
俺達の後ろから走って追いかけて来たのは、前に俺の後を付けて来たヤツらだった。
ちっ、やっぱり目を付けられていたか。
本当にやっちゃおうかな?と考えていたら、ヤツらの会話が聞こえてきた。
「あっ!また逃げられた!兵長だから言ったじゃないですかっ!アイツは止めようって!」
「バカを言うな。せっかく見つけたんだ。殺らなきゃ俺の気が収まらねー!」体の大きさから言って(大)が兵長か。って事はコイツら帝国軍か?
「そんな事言って〜。俺達の方が殺られるかも知れないんですよ!国から逃げられたんだから、もっと遠くの国に行きましょうよ!俺はもう生きた心地がしないですよ…」部下と思われる(小)が泣き事を言いだした。
コイツら帝国から逃げ出したのか…。
(中)はずっと周りを警戒している。抜かり無い。
エレナを見ると、とてつもなく憎しみを込めてアイツらを睨んでいた。
屋根から辺りを見渡すと、ちょっとした空き地があった。向こうにアイツらを誘い出し、情報を引き出そう。
エレナを抱えて、いくつかの屋根を飛び越えて空き地に着いた。
「エレナ、アイツらを此処に誘い込むから、ずっと認識阻害を掛けて動くなよ。いいな?」頷くエレナに俺はそう言い残し、一人エレナを置いて行った。
離れる事がとても心配だったが、腹の底に忘れていた怒りが沸き起こってしまった。
(殺れるもんなら殺ってみろ)
俺は認識阻害を止め、路地を走った。
ヤツらに気づかせる為、ゆっくり近づく。
わざと顔を晒すとヤツらは驚きつつも、兵長と呼ばれた男は口元がニヤリと笑った。




