26 女神の裁判
〈エレナちゃんお待たせ。こっちに呼ぶね〉
創造神様の声がして、私の身体が浮いた感覚がした。驚いたら瞼も開いてた。
何処かに寝かされたようだったが、目の前に見習いじーさんがいる。
「あれ?じーさん?とうとう私、死んじゃったの?そんな…」涙をボロボロ流しながらユリウスさんを想った。
「違いますぞ。創造神様がこちらへお呼びなさったのですよ。安心なされ」そう言って胸をトントン叩く。
ひっくひっくと泣いていると、小さな光の玉がふよふよ浮きながら私の元に来た瞬間、別の空間に移動していた。
何だか薄暗い所だな。じーさんがいない。それに声が出ない。体も動かない。
〈やあ、エレナちゃん。魂と身体を定着させる魔法陣が完成したから来てもらったんだ。〉
(えっ、私の体が部屋から消えたら大変な事に!)
〈大丈夫。エレナちゃんの世界にある立体コピーとやらの技術で、エレナちゃんを作って置いてあるんだ。誰に触られても分からないよ。点滴刺されて薬を入れても、いつものエレナちゃんと変わらないから。安心してね〉
おお〜、立体コピーから体作っちゃうなんてスゴイ。さすが創造神。
〈集中してやらないと駄目なんだ。エレナちゃんは眠っていれば良いからね?ただ、一つだけ確認したい〉
(はい?何でしょうか?)
〈エレナちゃん、元の世界に帰りたい?今なら帰してあげられるよ?〉
(私は、私は…。今は帰りたくないです。でも、向こうの状況は知りたい。私の体はどうなったのでしょうか?犯人は黒木だって知られていますか?)
〈うん。エレナちゃんは事件として捜査されて、お母さんが遺体を引き取ったよ。会社の人達が黒木の話を警察にしたから、指名手配された。残念な事に意味は無いけどね〉
(そうですか。母が。私の事なんて興味無かったって言うか、いつも煩わしそうにしていたのに。会社の人達だって、散々私を責めたのに。何だろ?罪悪感かな?バカらしい)
〈そう言ってあげないで。罪悪感に苦しむのは彼らだ。もうそれは一種の罰だと思うよ〉
(創造神様がそう言うのなら)
〈じゃあ、もう良いかい?本当に帰らなくて良いんだね?〉
(はい。ユリウスさんを一人にできません)
〈ふふ、分かったよ〉
(あっあのっ、ユリウスさんが毎日私に話をしに来ると思うんです。内容を知る事はできますか?)
〈う〜ん、そうだね。処置が終わって下界の偽物と入れ替える時に、記憶を読み取れるようにするよ。それで良い?〉
(我儘を言ってすみません)
〈いいのいいの。アホ女神が全部悪いの。エレナちゃんのせいじゃ無いよ。これから人間の時間で四日間かかる。心配無いから。それじゃあ眠っててね。おやすみ〉
(はい。よろしくお願いします)
◆◇◆◇◆◇
再び目を開けると、景色が変わっていた。
ここは明かりがあるんだ。
私は立っていて、隣に見習いじーさんがいる。
「じーさん?えっ?ここドコ?」周りには誰もいない。私は下界に戻ったんじゃ…
「おやエレナさん、お目覚めですかな?ご気分は?」
「うん、すっごい元気になったみたい。体も軽いし、体の中を何かがグルグル廻っているけど何だろうね?力が漲るよ」私は自分の手をグーパーと握ったり開いたり、足を上げてみたり体を捻ってみたりと動かした。
自由に動ける体に嬉しくなった。
「それは魔力ですぞ。良かったですな」微笑んでいるじーさんの瞳が潤んだ。
私も笑顔になる。そっか…魔力か…
「そろそろ裁判が始まりますぞ」じーさんのその一言で、誰もいなかった空間に大勢の男の人と女の人が現れた。
「この人達は?」私がじーさんに小声で問いかけると「上級や中級、下級の神様達ですぞ」
わぁ〜、こんなに神様っているんだ。
「んっ?裁判?誰の?」私は首を傾げた。
「あの女神と見習いですぞ」じーさんはほくそ笑んだ。
あー、なるほどね。
「私は何で?ここにいて良いの?」
「あなたは証人として創造神様がお呼びしました。気兼ね無く話して下され」じーさんは手を差し出し、私はその手を取った。
そのまま歩き出し、大勢の神様達の前に進み出た。
スタスタ歩いている自分に感動した。やっと普通に歩ける…。ここまで辛かったなぁ〜。今までどれだけ不自由を強いられていたことかっ!
あのクソ女神め、許さないから。
私は彼等と向き合って立つ。
うぅっ…神様達の目線が突き刺さる。あれっ?無表情ね?神様ってずっと微笑んでいるんじゃないの?
心配になりじーさんを見上げると、ニコニコ笑って私を見ている。
そして、空中から小さな光の玉が降りて来た。
きっと創造神様だ。
◆◇◆◇◆
〈では、これから裁判を始める。罪人をこちらへ〉
すると、小さな檻に入れられた男女が下から現れた。
何か二人でしゃべっているようだが、何も聞こえない。
どうやら私に気が付いたみたい。
私を指さし、クソ女神が憎しみを込めて怒鳴っているようだ。
あっ!メイク落とされてる!へぇ~、あんな顔してたんだ〜。いたって普通だし、顔中ソバカスだらけ。何であんなに塗りたくっていたんだろう?
ぷぷぷっ、服がボロボロで下着が丸見えだ。アクセサリーも全部剥ぎ取られてる。滑稽ですな。
私は侮蔑を込めて鼻で笑ってやる。
すると、クソ女神の顔が真っ赤になり歪んだ表情になった。
そのお顔、とってもお似合いですわよ、女神様。ふんっ。
〈さて、この女神は怠惰、強欲、色欲、傲慢、嫉妬の塊であった事が認められた。今見ての通り憤怒も有るな。僕は全ての神に問う。このような者を神と呼ぶべきで有るか?慈悲の心は無く、慈愛も感じ無い。情けも持たぬ。世界の平定もせず、己の欲の為だけに一国に肩入れし、人の命を弄んだ。僕はこのような者を神にしておく事は出来ぬ。絶対に許せない。そして僕の失態でもある。この者を神に昇格させてしまった。皆に謝罪する。〉
すると、ずっと黙って見ていた他の神々達が騒めき始めた。
〈いや、良いのだ。僕は間違いを犯したのだ。認めねばならぬ。申し訳無かった〉
創造神様が謝っている。私は感動した。
どこぞのおエライさん達にも、この姿勢を見習ってもらいたいものだ。
〈しかし、この者達二人の罪を明確にせねば、納得出来ぬ者も居るだろう。そこで証人を呼んである。エレナちゃん、自由に発言して構わないからね?〉
「はい、ありがとうございます」
私は全ての神に向かって発言した。
「私は別の世界で殺され、魂の状態でこちらの世界に来ました」
見てろよクソ女神。全部暴いてやる。




