25 私は熱を出した
ムニュムニュ言いながら私が起き出すと、ユリウスさんからお茶とクッキーが出される。
モグモグ食べる私を見ながら、ユリウスさんが「アレ見てみ?」と指さした。
つられて目線をそちらに移すと、そこには倒れた何かがいる。
「何でしゅか…アレ…」もしかしてアレって…。
「あれ、ゴブリンです」と、ユリウスさんが申し訳なさそうに告げた。
「ひょ〜〜!本物ですか!?すご〜〜い!!」ゴブリンだよゴブリン!!死んでいるなら怖くない。
私は手を叩きながら喜び勇んで駆け寄った。
薄汚れた緑色。手足が細く、お腹がポッコリ出ている。身長は子供サイズですな。
喉元をブスリと殺られている。ユリウスさんが殺ったんだね。一突きなんてスゴイ!カッコイイ!
「ゴブリンは魔石ぐらいしか取れないから、見てろよ」胸をナイフで切り開き、魔石を取り出し水で洗って見せてくれた。
魔石って、小指の爪ぐらいの大きさなんだ。マジマジと見ていたら、私の手に乗せて「やるよ。金にはならないけど」と、イケメンスマイルを見せられる。
私はウンウンと頭を振り、魔石を眺めた。
口元がニヤける。すごい、本物だ。薄い紫色。宝石の様に見えるけど、あまり硬さを感じ無い。何かの拍子に割れそうだ。
私はポーチに大切に仕舞った。後でキレイな木箱でも見つけて、そこに入れておきたい。
初物に弱い日本人。初魔石記念にずっと取っておこーっと。
「ありがちょごじゃいましゅ」私は丁寧に頭を下げた。
ユリウスさんは「どういたしまして」と左手は胸に当て、頭を下げた。
何ですかソレ?騎士の礼ですか?カッコ良過ぎる。
二人で顔を見合せて、ふふふと笑い合った。心が躍る。
あの辛かった日々が少しだけ、遠くに行った気がした。
◆◇◆◇◆◇
「じゃあ片付けて帰ろうか。エレナ、このゴブリン燃やしてくれるか?」
えっ?私が燃やすんですか?
「火球出せるか?燃やすか土に埋めないと、他の魔物が寄って来るんだよ」
なるほど。それもこちらのルールですね。
「分かりまちた。やってみましゅ」私は少し、ゴブリンから離れて気合いを入れる。
威力全開はマズいけど、ある程度魔力を込めないと燃えないよね。
フンッと鼻を鳴らし、両手を伸ばし火球と声に出してみた。
すると、直径1mぐらいの火球が勢いよくゴブリンにぶつかり、ドゴンッと音がして爆ぜた。
私とユリウスさんは、吹っ飛ばされて後ろにゴロゴロ転がった。
止まったと思ったら、ユリウスさんが私を捕まえていた。
私は目を回していて、何か言われた気がしたけど、何も分からなくなってしまった。
何が起きたの?私何したの?女神がショボいって言うから魔力をたくさん込めただけなのに、何で爆発するの?
どうしよう、どうしたらいいの?ユリウスさんに嫌われてしまう?
◆◇◆◇◆◇
私はずっとそんな事ばかり考えていて、ギルドに帰って来ていた事に気付かなかった。
ギルドの中を通り抜け、裏庭に建つ建物が宿舎だ。一階に共同キッチンがある。
私達の部屋は、宿舎三階の一番奥だった。
私はいつの間にかギルドに戻っていた事に気が付くと、急に涙が溢れ出した。
色んな事が怖くて、体が震えてしまう。
「どうした?怖かったか?急いでいたから悪かったなぁー」優しい声でユリウスさんは話し掛けて、私の背中をトントン叩いている。
私は泣きながら一生懸命謝った。
わざとじゃない、魔力を込めないと燃えないと思って、そんな事を心で思っていても言葉にならなかった。
お願い、嫌いにならないで…!
「うわぁ~〜〜〜ん!!」と私は泣き喚きながら、ユリウスさんの服を掴んで離せなかった。
「まぁまぁ、慣れるまで気を付けるしかないよ。大丈夫、大丈夫」そう言ってユリウスさんは私の体に何かの魔法を掛け、ずっと背中をトントン叩いてくれていた。
私はしがみついたまま、ユリウスさんの腕の中で眠ってしまった。
本当にごめんなさい。森は燃えなかっただろうか。
ユリウスさんは怪我して無いかな。
もう、魔法怖いよ。
◆◇◆◇◆◇
〈エレナちゃん、怖い思いしちゃったね。大丈夫?〉
(あ…、創造神様ごめんなさい。あんな事になるなんて思っていなかったの。女神が、それじゃあ勇者に敗けるって言うから、もっとたくさん魔力込めなきゃってずっと思ってて…。私どうしたらいいの?)
〈エレナちゃんが悪いんじゃないよ。ちゃんと教えないで放り出した、あの女神が悪いんだよ。本来魔法の使い方を教える時は、魔力制御を一番最初に教えるんだ。全部飛ばしていきなり攻撃魔法を教えたから、あんな爆発が起きちゃったんだよ〉
(でも、私のせいです。ごめんなさい…)
〈謝らないで良いんだ。それより、エレナちゃんの魂が離れかけている方が問題だよ〉
(えっ?なんで…?)
〈魔力をたくさん使ったからと、初めの女神の術式が間違っていたんだ。しばらく寝込む事になるけど、心配いらないよ。少しの間体が辛いと思うけど、僕がちゃんと治すからね〉
(はい、分かりました。よろしくお願いします)
〈うん、今は眠ってて。また声掛けるね〉
◆◇◆◇◆◇
私は、真っ暗な夜の海の中を漂う夢を見ていた。寒い。とにかく寒い。
息もハァー、ハァー、と荒くなっているのが自分で分かる。
体中が痛い。重力に押し潰されているようだ。
誰か助けて…そう夢の中で叫んだ。
私の体を何かが包み、フワッと浮いたかと思ったら、階段を降りて行く振動がする。
男の人の声がして、硬い板の上に寝かされたようだ。
大きな手が体中を触り、やめて、と声に出したかったが指一本動かせない。瞼も開かない。
創造神様は大丈夫と言ったけど、私死んじゃうのかなぁとボンヤリ考えていた。
ふいに頬を撫でられる感触があり、ユリウスさんだとすぐに分かった。
お願い、離れないで、一人にしないで…。
願い虚しく優しい手は、すぐ離れてしまった。
「よしっエレナちゃん、がんばろうな。ワシが絶対元気にしてやるぞ。しかし細っこいなぁこの腕。針刺せるかぁ〜?点滴するからな。ちょっと痛いぞ」
チクッとした痛みがあり、体の中に少し冷たい液体が入って来る。
(ここ、病院だったんだ。この世界に点滴があるなんて…。なんか不思議)
私はその後、時々意識が有ったり無かったりしながら過ごしていた。
オムツを履かされたのは屈辱だったが仕方がない。動けないんだし。
先生と思われるおじさんが、ちょくちょく見に来て私の世話を焼いてくれた。いつかちゃんとお礼が言いたい。
夕方になるとユリウスさんが来た。色々買い物をしたようで、私の枕元で「またお前の金使っちゃったよ、ごめん」と謝っていた。
好きに使えば良いのに謙虚な人だ。ただ、妙な男達に後を付けられて撒いたと聞いた時は、肝が冷えた。
反応出来ないこの体がもどかしい。
私の頭を撫でながら「毎日来るからな。がんばるんだぞ」そう言ってユリウスさんは病室を出て行った。
私はその夜から四日間、完全に意識を失う事になる。




