表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

殿下の出会い②

 『幻灯屋』で知り合った青年についていくと、冒険者ギルドに程近い場所にある宿を兼ねた食堂『麦穂亭』に案内された。ここが青年の家なのだろう。


 店内はお昼時という時間の為か賑やかな様子だ。美味しそうな匂いに釣られてレオニスのお腹が鳴る。

 腹を抑え赤い顔をするレオニスに、ディルクは笑いながら店の奥にある厨房へ顔を覗かせた。

「かーちゃんただいま!ちょっと客連れてきたから奥使うよ!あと飯二人前よろしく!」

 恰幅の良い女性がその声に振り向きディルクを、そしてレオニスを捉えた。ディルクによく似た可愛らしくも豪快そうな女性だ。

「おかえりディー。随分と細っこい子連れてるじゃないか。苛めてるんじゃないだろうね?」

 苛めてねーよ!と怒鳴り返しながら、レオニスの腕を引いて厨房を通り過ぎた。



 通された部屋は家族の空間なのだろう。素朴だが清潔感のある温かみを感じる部屋だ。

 ソファを勧められ腰を下ろすと、青年はちょっと待ってろと言って部屋を出ていった。


 すぐに戻ってきた青年の手には二人分の食事が乗ったお盆があった。

 さっきの美味しそうな匂いの元であろうブラウンシチューが湯気を立てて目の前に置かれる。カゴに入ったパンも焼きたてなのだろう。こちらもほのかに湯気が出ている。チーズも一欠片添えられていて匂いもそうだが見た目も食欲をそそられる。


 目の前の食事に釘付けになっているレオニスに苦笑しながら、冷める前に食えよと言ってガツガツと食べ始めるディルク。その姿に目を見開き、木のスプーンを持ち熱々のシチューに沈める。

 レオニスの記憶だと熱々の食事は口にしたことはない。温かいものも毒味され目の前に出される時にはかなり温くなっているものだった。立ち昇る湯気を繁々と眺めてから思い切って口に入れる。

「あっつ!!」

 思ったよりも熱すぎて声を上げる。しかしとても美味しい。

 ほろほろの肉とほくほくの野菜。デミグラスの旨味が染みたまろやかな味わいに夢中でスプーンを勧めた。

 黒パンも初めて食べるものだった。ほのかに酸味があるがシチューとよく合い、ディルクがパンをシチューに浸して食べているのを真似てみるとより美味しく感じた。

 初めての熱々の食事に少し涙が滲んでしまったが熱さで舌を火傷したのだと思ってくれたのだろう。

「猫舌ならゆっくり食えよ」

 苦笑し呆れを滲ませた声でレオニスを見つめるその目はとても優しいものだった。




 食事を終え一心地ついたところでディルクから本題を切り出された。

「自己紹介がまだだったな。俺はディルク。冒険者やってる」

 にっかりと笑うディルクはなんだか太陽みたいで気が緩んでしまう感じがした。

 差し出された右手に握手を返しこちらも名乗りをあげる。

「美味しい食事をありがとうございます。僕はレオ。お察しの通り訳ありです」

 本名は名乗れないから愛称になる名を告げ、眉を下げながら苦笑する。


「訳ありねぇ。お前どこかのお貴族様の坊ちゃんだろう。そのちんちくりんな服もよく見るとすごい刺繍してあるし、歩き方とかさっきの飯の食い方とか言葉遣いも綺麗すぎるし。何より世間知らずすぎる」

 びしりと指を突きつけられて目を伏せる。

 下手な誤魔化しは余計に怪しくなる為、少しの真実を混ぜ込んだ言い訳をする。

「おっしゃる通り、僕は貴族の血を引いています。ただ家では嫡子扱いされておらず屋敷の離れに押し込まれています。多分弟が継ぐ事になるのでどうせ家を継げないのであれば少しくらい外の世界を見てきても良いのでは、と思い抜け出してきました」


 ほぼほぼ本当のことだ。貴族ではなく王族で自分の意思で離れの王妃宮に閉じこもっているが。もうすぐ死ぬから楽しい事を好き勝手にする為に抜け出してきた、なんて言えるわけがない。

 できるだけ悲しそうな声色で告げるとディルクは泣きそうな顔で尋ねてきた。

「家族と仲良くないのか?」

「……仲良くないというか。母だけは亡くなる直前まで側にいてくれましたが他の家族とはあまり顔を合わせたこともないので……多分他人という認識なのでしょう」

 家族の周囲には確実に嫌われているが本人達がどう思っているのかは不明だ。今まで意図的な接触もなかったのできっと興味がないのだろう。

 こちらも接触する気がないくらいには興味がないのでお互い様ではあるが。


 思考が遠くを向きかけた時正面から盛大な嗚咽が聞こえた。

 ディルクと、いつの間にか食器を下げにきていた女将さんがボロボロと泣いていたのでギョッとしてしまった。

「家族を他人だなんて……!あんた今まで不憫な生活してたのかい?ああ、だからこんなに細っこいのかい」

 女将さんが感極まった様子でレオニスを抱きしめる。一瞬身体を強張らせたのが伝わったのか益々強い力で抱きしめられた。

「お前、今まで不憫な生活してたんだな。すまん、お貴族様の道楽かと思って危ないことする前に帰そうかと思ってた」

 見た目の割に涙もろかったディルクは男泣きしながら目を乱暴に擦っていた。


 レオニスには家族や味方と言える存在はいなかった。王妃宮にいた公爵家の使用人達は世話をしてはくれたが、あくまで母である王妃の味方だったのでレオニスの為に何かしてくれた事はなかった。

 父である国王には片手で数える程度しか顔を合わせた事がない。側妃は完全な他人だし異母弟達とは王妃の葬儀で見かけただけできちんと顔を合わせた事すらない。向こうはどう思っているのかわからないが、レオニスにとっては他人でしかなかった。

 衣食住に関しては不憫な生活はしていないし、憎まれていたわけでも虐げられていたわけでもないと伝えてみたものの、無関心の家族がいるという点だけで目の前にいるディルクと女将は泣いてくれている。

 家族って普通こんな感じなんだな…………と他人事のように思いながらされるがままに二人が落ち着くまで待つのだった。



「それで、レオは家を抜け出してきて何をするんだ?」

 ようやく涙が止まったディルクが鼻を啜りながら尋ねてくる。女将さんは一足先に落ち着いたので店の片付けをする為に下がっていた。

「ひとまずこの街を見て回りたいです。あと可能なら王都の外も少し見てみたいので冒険者登録をしたいんですが…………」

 チラリとディルクを見る。先程冒険者と名乗っていたのでギルドの事を教えてもらえないか打診すると笑顔で快諾してくれた。



「冒険者登録は誰でもできる。偽名でもいけるが魔力登録が必須だ」

 名前よりも魔力登録が大事らしい。犯罪者や密入国者対策として犯罪者リストに記載された魔力は登録の時点で捕縛されるようになっている。

 王侯貴族は血統により特徴のある魔力を持っていたりするため、詳しく調べられるとどこの家門の血筋かわかってしまうらしいが、貴族が絡む事件以外でそんな事を調べることはほぼない。

 何かやらかさない限り個人が特定されるわけではないとのことで安堵する。


「登録するなら連れてってやるよ。その後に少し街の案内をしようか」

「ディルクさん、ありがとうございます!」

「気にするなって。後、敬語はやめてくれ」

 呼び方もディーでいい、とガシガシと頭を撫でられ髪がぐしゃぐしゃになる。こうやってスキンシップされるのが慣れてないせいかなんだかむず痒い気分になってしまう。

「わかったよ、ディー」

「おう、じゃあ行くか」


 こうしてお腹が満たされた二人は、冒険者ギルドへ向かう事にしたのだった。

麦穂亭名物「角兎のブラウンシチュー」

ランチセットには焼きたての黒パンと山羊ミルクのチーズ一欠片がついてきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ