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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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855/919

第855話


 遊廓、しだれ屋。


 2階の大部屋で、マサヒデ達一行が宴会中。

 ちびちび酒を口に入れながら、つまみの浅漬を摘んでいると、襖が開いた。


「酒樽、お待たせ致しました!」


「ありがとうございます。シズクさん、手伝ってくれますか」


「ほいさー!」


 立ち上がって、右手に1樽。

 左手にもう1樽、と抱えようとした所で、みし、と床が鳴った。


「あ、やべ。ふたつ持つと抜けちゃうな。

 私が中に運ぶから、そこに置いといて」


「へい!」


「よいしょー!」


 どっすん、とクレールの前に1樽置いて、


「さあ、開けるぞー!」


 ぴし! と手刀を当てると、ばがん! と音が響いて酒が飛び散る。


「きゃー!」


 流石にカオルは腕を上げて、袖を顔の前に置いてあった。

 ぴぴ、と酒が袖に飛ぶ。

 すっと腕を下げて、手拭いを出してクレールに渡し、


「お気を付け下さい。皆が濡れます」


「ごめんごめん! もう1樽持ってくるね!」


 どすどすと歩いて、もう1樽を片手で持って来る。


「イザベル様! おまたせー!」


「むっ!?」


 す! とイザベルが腕を上げ、袖を顔の前に垂らす。


「あははは! 大丈夫、大丈夫!」


 指を置いて、


「む、む、む、む・・・」


 みきみき・・・


「むんっ」


 べき!


「ふう! 今度は飛ばなかったぞ!」


「ううむ! 指だけで開けてしまうとは、流石は鬼族」


「へへへ、だろー! よし、盃持って来るから待ってて!」


 樽の横に置いてあった大盃も持って来て、ざぶん! と突っ込み、


「はい! クレール様!」


「ありがとうございます!」


 ざぶん!


「はーい! イザベル様!」


「ううむ・・・シズク殿、野性味溢れる酌み方よな」


「だろ?」


「褒めてはおらぬが」


「あはは! ほーい私もー!」


 ざぶん!


「よおーし! 酒は行き渡ったなー! マサちゃん!」


「は? ああ」


 マサヒデが盃を上げ、


「はーい。乾杯です」


「かんぱーい!」「かんぱーい!」「乾杯っ!」


 ぐい、ぐい、ぐい、ぐぐー・・・


「ぶへぁーっ!」


 一息に大盃を飲み干した3人を見て、禿達が目を丸くしている。

 太夫は静かに盃に口をつけている。


「料理まだかな? お腹空いたね」


「もうすぐ来ますよ!」


「うふふ。楽しみですね」



----------



「お待たせしました!」


 襖が開いて、大きな盆に乗せられた料理が置かれていく。

 冷奴、漬物、刺し身、枝豆、こんにゃく、唐揚げ、いか焼き・・・

 大量に並んでいく。


「うほ、うほほ」


 トモヤが変な笑い声を出して、いか焼きに箸を伸ばす。

 アルマダも枝豆を小皿に取って、


「おっと。この枝豆はガーリックが効いていますね。

 マサヒデさん、ひと手間掛かっていますよ」


「へえ! 枝豆にですか!」


「おおっ! マツ様、こちら長芋でございます!」


「海苔が巻いてありますね?」


「これは酒に合います。ささ」


「クレール様、これ美味しいよ! タコだね!」


「ああ、タコの唐揚げ! 三浦酒天にもありますね!」


 わやわやと本格的に宴会が始まった。

 クレール、シズク、イザベルの大食漢3人がもりもりと料理を食べていく。


「早く次こないかなあ」


「全然足りませんね!」


「こちらに皆様の分を分けておきましょう」


 ラディが味噌だれがかかったこんにゃくをつるっと食べて、ちらりと遊女の方を見る。


「あの、師匠」


「はい?」


「あちらの、遊女の方」


「あら・・・」


 小さな膳が置かれたまま。

 こういう場合、本来はどうするのだろう?

 マツも太夫と交流はあったが、茶などを楽しむだけで、遊廓の作法などはほとんど聞いてはいなかった。


「クレールさん」


「はい!」


 マツが口を近付けて、小さな声で、


「あの、遊女のお方ですけど、お食事はどうするか知ってますか?」


「ええっと・・・どうでしたっけ。揚屋御免状には特に・・・

 あ、そうそう。お客様に酒を注いでたんです。

 その時、一緒に食べるんでしょうか」


「どうしましょう? やっぱり私達でなく、マサヒデ様でしょうか」


「ううん、そうですよねえ」


 クレールが立ち上がって、マサヒデの前にちょこんと座り、


「あの、マサヒデ様」


「追加ですか?」


「遊女さん、お食事どうするんでしょう」


「ん」


 見れば遊女の前には小さな膳が置かれているだけ。


「お呼びして、一緒に食べては」


「そういうものですか?」


「分かりませんけど、そうなのでは?」


「ふうん」


 マサヒデが遊女の方を向いて、


「すみませーん」


 と、手を挙げると、禿が立ち上がってマサヒデの前に歩いて来た。

 綺麗に正座して、


「何か御用でござんしょうか」


 話せない決まり事があるので、禿が来たのであろう。

 丁度良いから、この子に聞いてしまおうか。

 マサヒデはにっこり笑って、軽く頭を下げ、


「私、遊廓に来たのは初めてで、決まり事とか全く知りません。

 あの人は一緒に食べないんですか?」


「はい。小赤姐さんは自分で注文致しゃんす」


「あ、そうなんですか。全然食べてなかったので、私の方で注文してあげないといけないのかな、とか思ってました。ありがとうございます」


「本来でござんしたら小赤姐さんの分も払って頂きんすが、今宵は当店の奢りでござりんす。お気になさらず結構でありんすえ」


 独特な方言だが、どこの出だろうか。

 見た所、マサヒデより2つ3つ下くらいだが、良く出来ている子だ。


「あなた達は?」


「後で頂きやんす」


「せっかくの奢りですよ。今、好きな物を頼んでも良いんです」


「結構でござんす」


 そっけないなあ、と思ったが、これも決まり事だろうか。


「では、何も知らない私にもう少し教えて下さい」


「何でもお聞きくんなまし」


「小赤姐さんと言いましたが、あの方が小赤太夫さんですか?」


「そうでありんす」


 マサヒデはちょっと顔を近付けて、口に手を当てて声をひそめて、


「あの、猫族ってバレたらいけなかったんですか?」


「知りんせん」


「あなた、猫族って分かった時に驚いてましたよね。ちゃんと答えて下さい。

 いけない事だったら、皆に外で話さないように言っておきますから」


「ほんざんす。今まで猫族と分かった人はおりんせん。

 私共は、それで驚いたのでござりんす」


 おや、とアルマダが盃を置いて、


「ちょっと待って下さい。私からも質問したい」


「はい」


「今まで猫族と分かった人は居なかったのですね?」


「はい」


「では、小赤さんと寝た方はいないんですか?」


「おりんせん。うちには水揚げもありんせん」


「水揚げとは?」


「一人前になる時に、男と同衾しやんす。それを水揚げと申しやんす。

 安い店では水揚げをしやんす。うちは身体ではなく、芸を売りやんす」


「ほう! 言いますね。あなた、良い女性になる素質がありますよ」


「ありがとうござりんす。店に出ましたら、来ておくんなまし」


「ははは! 友人にはなりたいですが、客にはなりたくありません」


 くい、とアルマダが盃を突き出す。


「取りなさい」


「申し訳ありんせん」


「取りなさい」


 ぐっとアルマダの威圧感が増した。


「申し」「取りなさい」


 おずおずと禿が盃を取ると、アルマダがにっこり笑って、酒を注ぐ。


「トモヤさん。盃、貸して下さい」


「ははは! アルマダ殿、友とは無理に作るもんではなかろうが!」


 笑いながら、トモヤが盃を渡して酒を注ぐ。


「ふふふ。新たな友人に乾杯」


 ぐ! とアルマダが酒を乾すと、禿も恐る恐る盃を空けた。

 ひょいと禿の手から盃を取り上げ、ぽん、と頭に手を乗せて、


「ははは! 驚かせてしまいましたね! もう友達ですよ!」


「あ、ありがとうござりんす」


「いつでも遊びに来て下さい、と言いたい所ですが、この色町から出られないんですよね。私は勇者祭の参加者で、旅の途中。ここしばらくは、そこの門を出た所のボロ家に屋根を借りています」


「はい」


「私はアルマダ=ハワード。ハワード公爵家の三男坊です」


 ぎょ! と禿が目を見開いてアルマダを見る。


「さて、新しい友人さん。あなたの名は?」


「高之・・・」


「何かあったら、手紙でも何でも送りなさい。

 この町から居なくなったら、私の家に送って下さい」


「でも・・・」


「ははは! 流石に実家に送るのは気が引けますか!

 トミヤス道場か、この町の魔術師協会でも結構ですよ!

 ふふ。引き止めて申し訳ありませんでしたね。戻って結構です」


「失礼致しゃんす」


「あ、待って待って」


 立とうとした禿を、マサヒデが引き止める。


「一応、小赤さんに猫族ってバレたらいけないのか、確認して下さい。

 駄目な事だったら、ちゃんと皆さんに口止めしておきますからね」


「ありがとうござりんす」


 禿が頭を下げて小赤の所に戻って行った。


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