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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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854/919

第854話


 歓楽街の遊廓、しだれ屋―――


 マサヒデ達は店の男に案内され、2階の大部屋に入った。

 カオルが先頭に立って、1歩入った瞬間、


「曲者!」


 たーん!

 部屋の奥の壁に棒手裏剣が突き刺さった。


「ひぇっ」


 壁の向こうから小さな声が聞こえた。


「おのれ!」


 ぱ! とカオルがしゃがむと、後ろでイザベルが、だん! と床を蹴り、着流しを翻して、カオルの上をひとっ飛びに壁まで飛んでいく。

 がつん!

 ナイフが深々と壁に突き刺さった。


「何者! 観念して出てこい! そこに居るのは分かっている!」


 は、は、と荒い息が壁の向こうから聞こえる。

 イザベルが心中でほくそ笑みつつ、顔は厳しい表情で、


「出てこぬか! 腹が座っておるな!」


 がす! とナイフを引き抜き、ぼん! と手刀を壁に突き刺す。

 ぱらぱら・・・壁のくずが落ちる音。

 すう、と壁の向こうで手を握る。

 首。確かな感触。指先に脈を感じる。


「このまま握れば死ぬ! 出るか! 死ぬか! 選べ!

 10数える間に決めよ! 10! 9!」


「お待ち下さい! お待ち下さいませ!」


 真っ青な顔をした案内の男が慌ててばたばたと駆けてきて、イザベルの足にしがみつき、


「お待ち下さい! 曲者ではございませぬ!」


「何!?」


 ぎらりとイザベルが男に目を向ける。


「それは店の者で!」


「貴様! 今何と言った! 店の者と申したか!」


「はい! はい! お手を、お手をどうか!」


「この店は客を覗き見ると申すか!」


「とんでもない! 違います! お客様がご満足頂けているかどうか!

 私はすぐ下がりますし! 良き所で酒を運ぶ為ですゆえ!」


「ふん! よく回る口であるな!」


「お許し下さい! どうかお許しを!」


 イザベルが入口にいるマサヒデに顔を向け、


「マサヒデ様! この男、かように申しております!」


「構いませーん! 手を離してあげなさーい!」


「ははっ!」


 壁の向こうの手を離し、ばり、と手を引き抜く。

 ばら、ばらばら、と漆喰が落ちる音と、壁の向こうでどさっと音がした。

 腰が抜けたか、喪失したか。


「ふん! マサヒデ様のお心の広さに感謝せよ!」


「ははーっ!」


 男が真っ青な顔で畳に額を擦り付ける。

 壁の向こうの者はどんな顔をしているだろうか。

 笑いそうになるのを必死に堪え、イザベルが戻って来る。


(おやおや)


 上座に無表情な遊女。

 だが、はっきりと驚いたという気配が出ている。

 横に並んだ禿は顔を真っ青にしている。


 すん、とイザベルが鼻を鳴らして、険しい顔のまま、心中で笑う。

 後でもう一芝居行くか・・・


 マサヒデが歩いて来て、すれ違いににやっと笑う。

 イザベルが軽く頭を下げ、入口の皆の所に戻って行った。

 マサヒデはまだ頭を下げたままの男の前に立ち、


「驚かせてしまって申し訳ありませんね」


「ははーっ!」


「私も含め、うちは武張った者と、とんでもない魔術師しかおりませんので。

 その壁の修理費は、後で魔術師協会に送って下さい」


「とんでもない! 私共の不心得で!」


「まあまあ、もう頭を上げて下さい」


 マサヒデがしゃがみこんで、ぽん、と男の肩に手を置くと、びく! と男が肩を竦めた。


「そう驚かないで下さい。私達、遊廓という店に来たのは初めてなんです。

 そういう人がいるなんて、知らなかったんです。許して頂けますか」


「許すだなどと、とんでもない!」


 マサヒデは立ち上がって、ぱんぱん! と手を叩き、


「さ、皆さん! 席に着いて下さい!」


「はーい!」


 何事もなかったようにクレールが返事をして、ぱたぱたと席につく。

 その後ろでアルマダが肩を竦めて、にやっと笑った。

 トモヤも察したようで、口に手を当てて笑いを堪え、身を震わせている。



----------



「で、では、ご注文を」


 冷や汗を拭きながら、店の男がマサヒデの前にうつむき加減に座る。


「全部です」


「は?」


「お品書きにある物、全部お願いします」


「・・・」


「レイシクランと鬼族と狼族が居ますから。

 足りない分は追加で注文出しますね。

 あと、お酒の用意をお願いしておいたと思いますが」


「はい」


「樽、そのまま持ってきて下さい。あと大盃をみっつ。

 大盃は鬼の方と、銀の髪の方、さっき壁に穴を開けた方。以上です」


「はい・・・」


 おずおずと店の男が下がって行った。

 すー、と襖が閉められると、隣に座ったアルマダがにやっと笑って、


「マサヒデさん。いたずらも過ぎますよ」


 と、徳利をマサヒデに向ける。

 マサヒデが盃を受けて、


「何の事です」


「曲者だ、なんて。本当は知ってましたね。カオルさんでしょう」


 にやっと笑って、盃を空け、徳利を取ってアルマダに向ける。

 酒を注いで、


「落ち着かないでしょう? 自分達以外が居るの」


「ま、それはあります」


 ちら、と上座に座る遊女を見る。

 赤毛だ。


「あれが小赤太夫さんですかね?」


「どうでしょうか。こんな席に噂の小赤太夫が来ますかね。高いでしょうに」


「太夫さんって、初めて会った時はお喋りしてくれないんですって。

 してくれないと言うか、してはいけないっていう感じでしょうね」


「上座に座っているのも?」


「そういう決まり事らしいですよ」


「ほう。変わった決まり事ですね。伝統とか、そういうものでしょうか」


 トモヤが横から盃を突き出す。

 マサヒデが酒を注ぐと、ぐいっと飲み干し、


「色々と面倒じゃの」


「別に俺達には関係なかろうが。飯を食いに来ただけだ」


「そらそうじゃな」


「パーティーみたいに服装を気にする事もなし。楽ではないか」


「確かにの。ほれ、ご返盃」


 トモヤからの酒も受けて、ぐっと飲み干す。


「カオル殿の酔い止めか?」


「そうだ。俺はこの徳利が終わったら、茶で良いな」


「お、なんじゃ?」


 トモヤが顔を上げて、マサヒデとアルマダも顔を上げる。

 のっそりとシズクが歩いて行って、遊女の前に座った。


「はじめまして。初会は喋れないって決まりなんだってね。

 でも挨拶はちゃんとしとくね。返事なくても分かってるからさ。

 私はシズク。見ての通りの鬼族さ! よろしくね!」


 す、と遊女が頭を下げ、横の禿も頭を下げる。


「魔族同士、仲良くしようね! 私、猫みたいな顔したやつ、好きなんだ!」


 ぴく、と遊女が頭を下げたまま固まる。

 え! と禿達が驚いて顔を上げた。


「あ、変な風に聞こえたらごめんね。

 あんたが猫に似てるって言ったんじゃないよ。

 猫があんたに似てるって言ったんだにゃーん!」


 ぶは! とクレールが吹き出して、


「あーはははー! ピーチマン! ピーチマンですよ!」


 と、腹を抱えて大笑い。

 マツとカオルとイザベルもげらげら笑っている。

 ラディだけが何のことやら、と不思議な顔をしている。


「ぷー! おほほほ!」


「ははははは! シズクさん、やめて下さい!」


「ははは! シズク殿! 私がやりたかったのだぞ! ははは!」


 げらげら笑う女衆を見ながら、アルマダがちびりと口に盃をつけ、


「おやおや。あの方、猫族の方でしたか」


「ほおう。あの様子、そうみたいじゃの」


 マサヒデが小首を傾げて、


「やけに驚いてますね。バレない自信でもあったんでしょうか」


 ふ、とアルマダが鼻で笑って、


「シズクさんやイザベル様に隠せるわけもないでしょうに」


 クレールが、ひゃ、ひゃ、と笑いながら、


「遊女さんって、引退するまで、歓楽街から出られないんですって」


 へえ、とマサヒデ達が頷いて、


「ああ、そうだったんですか。多分、獣人族の方と会ったことないんですね。

 それでは仕方ないですよ」


「なるほど。世間は知らず、聞きかじりですか」


「ほおう。それは厳しい仕事じゃ。にしても、アルマダ殿は手厳しいの。

 きつい仕事じゃで、勘弁してやりなされ」


 シズクが笑いながら席に戻る。

 手を付いた遊女の手が、細かく震えていた。


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