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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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第853話


 翌日、酉の刻前。


 カオルが出て行くとがらりと玄関が開き、


「イザベルでございます!」


「お疲れ様です」


「カオル殿もお疲れ様でございます」


「ささ、どうぞ。一服したらば参りましょう」


「は! 失礼致します!」


 す、す、と着流しでイザベルが居間に上がってくる。

 皆を見てイザベルが少しほっとした。

 いつもの服装だ。


「や、イザベルさん、いらっしゃい」


 イザベルがぴしりと正座して頭を下げ、


「はっ! 本日はお招き頂き、光栄至極!」


「ははは! 一緒に食べた方が美味しいに決まってるじゃないですか。

 ところで、ひとつご相談があるのですが」


「何なりとお申し付け下さい!」


「まあまあ、まずは頭を上げて。茶でも飲みながら」


「は!」


 カオルが差し出した湯呑を取って、一口。

 マサヒデはにやにやしている。


「これから行くしだれ屋ってお店なんですけどね。

 隠し部屋やら隠し通路やら、覗き部屋やらと色々あるそうです」


「なんと胡乱な」


「遊廓ではそれが普通みたいです」


「左様でしたか。して、ご相談とは」


「そういう所に誰か居ましたらですね。どすんと」


「お任せ下さい。しかと始末致します。死体はカオル殿が?」


 くす、とカオルが笑う。


「始末は駄目ですよ。曲者ー! とか言って、脅かすだけ」


「宜しいのですか?」


「びっくりしてくれれば十分です」


「承知致しました」


「では、ラディさんが来たら行きましょう」


「は!」


 ん、とカオルが玄関の方を向き、


「来ました」


 カオルが玄関に出て行く。


「うん。丁度良いですね」


 からからから・・・


「こんばんは」


「お疲れ様です。さ、お上がり下さい。ご一服しましたら参りましょう」


「はい」


 すたすたとラディが上がってきて、マサヒデに頭を下げる。


「本日はお誘いありがとうございます」


 イザベルがにやっと笑って、


「おいラディ。八十三式は良いのか?」


「目立ちます」


「冗談よ、冗談。夜の歓楽街であるから気を付けろよ。

 人さらいが出るやもしれぬぞ。ははは!」


「大丈夫です。一応魔術も使えますし、これも」


 ごとり。

 懐からミナミ新型拳銃。


「おやおや。これは恐ろしいな」


「うふふ。ラディさんは心配しすぎですよ」


「ですよね!」


 マツとクレールがくすくす笑う。


「師匠とクレール様は、夜の歓楽街はご存知でしたか」


「いえ」


「知りません!」


「・・・」


 ふ、とイザベルが笑って、


「マサヒデ様。ラディは我らが一緒におるだけでは不安だそうで」


「ううむ、そうですか。アルマダさんも来ますけど、足りませんか」


「あーははは!」


 シズクがげらげら笑った。

 ラディがしょんぼりして、拳銃を懐にしまう。


「念の為と思って・・・」


「いえ。それで結構です」


 マサヒデが袖を捲ると、下には着込み、手首に手裏剣。


「私はいつもこの格好です」


「はい」


 マサヒデが袖を下ろして、


「こういう事です。では、行きましょうか。

 アルマダさんがもう待っているかもしれません」


 シズクが手でお猪口の形を作って、


「ハワード様、呑めるよね。ねえねえ、クレール様」


「楽しみですね!」


 マサヒデがラディに薬の包みを差し出し、


「ラディさん、酔い止めです。ここで飲んでおいて下さい」


「ありがとうございます」



----------



 歓楽街の入口。


 アルマダとトモヤが所在なげに立っていた。

 マサヒデ達を見て、ほっとしたように歩いて来る。


「マサヒデさん。待ちましたよ」


「マサヒデえ、ここは落ち着かんぞ」


「ううむ、そうだな。さっさと行こうか。

 時が経てば、酔っ払いなんかの輩も増えてくるのではないか」


「マサヒデさん、さっさと行きましょう。店はどこです」


「ははは! まるで待ち切れないみたいですよ!」


 アルマダ、トモヤと合流して、歓楽街の通りに入って行く。

 まだ日は残っているが、赤い提灯や灯籠で派手に明るい。

 店には派手に化粧をした女達が張見世の中に居て、手を振っている。


「ほら、アルマダさん。手を振ってますよ」


「落ち着きませんよ」


「ほうじゃのう」


「カオルさん。あなたにも手を振ってますよ」


「は?」


 カオルが店の方を見ると、遊女が妖艶な笑みでカオルにおいでおいでする。


「・・・」


 カオルが呆れ顔でふいっと顔を逸らすと「いけずー」と声が上がった。


「ははは! 女性にもモテますね!」


「私にそういった趣味はございません」


「ふふふ」


「ご主人様はお楽しみなようで」


「ええ。皆さんを見てると楽しいですよ」


「その『皆さん』は私ですか? あの張見世ですか?」


「勿論、カオルさんです」


「ははは!」


 アルマダが笑い声を上げた。

 後ろでマツ達も珍しそうに通りを眺めながら、張見世の女達に手を振り返したり、笑顔を返して頭を小さく下げたりしている。


 そして、少し歩くとしだれ屋。

 店の前に下男が居ないので、マサヒデはずかずかと張見世に歩いて行き、


「どうも、こんばんは」


「ああら。お若い浪人さん。うふふ。お支払い出来ますかしら。

 冷やかしでも結構ですよ。見て行って下さいまし」


「いえ。私は今日ここで予約を入れてるトミヤスです。

 遊廓って初めてなんですよ。このまま入って良いんですか?」


「ああ、聞いております。どうぞ、そのまま入ってもらって」


 すっと女が入口の方に手を差し出した。

 それだけの動きで、色気がぐっと出る。

 何だか気不味い感じがしてそっと後ろを見たが、マツ達は気付いていない。

 そのまま振り返って、


「皆さん、入ってしまって良いそうですよ」


「入りましょう」


 アルマダが先頭を切って入って行った。

 マサヒデも行こうとしたが、


「トミヤス様」


 張見世の女がマサヒデを止める。


「はい?」


「次は私を指名して下さいね」


「申し訳ありませんけど、奢りでなければ遊びに来られませんよ。

 見ての通りの貧乏浪人、そんな時間も金もないんです」


「なら」


 すーっと女の手が伸びてきて、マサヒデの雲切丸の柄に掛かろうとした。

 くい、とマサヒデの左手が小さく柄を逸らし、女の手が袖に掛かる。


「個人的にでも」


「ありがとうございます。でも、もう妻が2人もいるんですよ」


「3人目ではいけませんか?」


 すすす・・・とマツとクレールがマサヒデの後ろから出てくる。

 2人の顔が般若に見えた。

 すっと女が手を引っ込める。


「マサヒデ様? こちらは?」


「ああ。私の3人目の妻になりたいんですって。

 マツさん、クレールさん、止めて下さいますか?」


「へえ・・・マサヒデ様の」


 クレールがくいっと指を動かすと、もやもやと何かが浮かび上がった。


「あら」


 女が少し身を引く。

 クレールの横に、虎が出て来た。

 うんうん、とマサヒデが頷いて、


「勝てたら3人目になれますよ」


「うふふ。お二人共、こんな良い男を独り占めだなんて。二人占めかしら」


 心底驚いているだろうが、笑みを絶やさず、顔色も変わらない。

 当然、本当に襲われはしないと分かっているだろうが、虎を目の前にして。

 これにはマサヒデもマツも驚いた。


「へえ・・・少し見直しました。私、舐めてたんですね。

 いや、見直すだなんて失言でした。申し訳ありませんでした」


「私もです。お許し下さいませ」


 マサヒデとマツが女に頭を下げると、すうっと虎が消えた。

 何が何だか、とクレールがマサヒデの袖を引く。


「クレールさん、往来で虎なんか出したらいけません。

 こちらの方にも謝って下さい」


「え・・・あの、失礼致しました」


 クレールが頭を下げると、マサヒデが背中にそっと手を当てて、


「さあ、もう行きましょう。皆さん、もう入ってしまいました」


「あ、はい!」


「来たのがマツさんとクレールさんで良かった。

 イザベルさんじゃなくて助かりましたよ。

 店ごと壊されかねなかったですからね」


「うふふ。冗談が通用しませんものね」


「それはそれで見てみたい気がします! 面白そうです!」


「ははは!」


 マサヒデ達が笑いながら店に入った所で、ふうー、と女が深く息をついた。

 あれには冗談も通用しない。

 ちらりと天井を見る。

 2階は大丈夫だろうか・・・


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