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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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851/919

第851話


 魔術師協会、居間。


 450年も前の本をクレールが見つけた。

 ザ・ピーチマンの初版本。

 誰もが知る悪鬼退治の話であったが、内容は全然違っていた・・・



----------



 あれから1年。

 ピーチマンは厳しい訓練を積みました。


 夜中に叩き起こされ、朝まで対奇襲訓練をして、そのままを訓練しました。

 素っ裸で山に放り出された事もありました。

 全身鎧を着たまま、25町(約100km)の山中行軍もしました。

 気を失うまで魔術の訓練をしては、水を掛けられて起こされました。

 その全ての訓練を、ピーチマンは乗り越えてきました。

 それは退役軍人と流した涙があったからなのです。


 1年後、彼は最高の殺戮兵器となっていました。

 退役軍人は一流の兵士に育ち上がったピーチマンの前に立ちました。


 『おうけい! ふろむなうおにゅあひゅーまん!』

 (宜しい! 今から貴様は人間だ!)


 『いつまいおなー!』

 (光栄であります!)


 『ばっ! ゆあいねくすぺりんすどあざそるじゃ!』

 (だが! 兵士としては経験不足だ!)


 『いえっさ!』

 (はい! サー!)


 退役軍人がポケットから手紙を出しました。

 彼はこの1年間、各地の傭兵部隊に連絡を取っていました。

 魔族であるピーチマンを雇ってくれる所は、中々ありませんでした。

 しかし、ひとつだけ彼を受け入れてくれる所があったのです。


 『でぃしゃるびぱーてぃんぎふと』

 (これは餞別だ)


 『さんきゅべりまっち!』

 (ありがとうございます!)


 『ごうロストエンジェル領、スキトロウ町』

 (ロストエンジェル領のスキトロウの町に行け)


 『いえっさ!』

 (はい! サー!)


 『ていくでぃすれたー、あんどごうとぅざまーせなりぜあ』

 (この手紙を持ち、そこの傭兵団に行くのだ)


 『いえっさ!』

 (はい! サー!)


 『あふたげいにんえくすぺりえん、じょいんざれぎゅらあーみー』

 (経験を積んだら、正規軍に入れ)


 『いえっさ!』

 (はい! サー!)


 『おけ。ゆきゃんこーるみだど、なう』

 (宜しい。今より私を父と呼んでも良い)


 その時、感情を無くした殺戮兵器、ピーチマンの目から涙が流れました。

 これまでの15年、1年の厳しい訓練。

 彼の脳裏に、退役軍人と過ごした日々が一瞬で蘇りました。


 『せんどみれたーわんしなわいる』

 (たまには手紙を送れ)


 『いえす、だど』

 (はい、父上)


 『おけ。ぱっきゅあばっぐさんりーぶ』

 (宜しい。荷物をまとめて出発するのだ)


 『いえす、だど』

 (はい、父上)


 そして、ピーチマンは泣きながら山を下りて行きました。

 ピーチマンが見えなくなっても、退役軍人は見送っていました。

 退役軍人の目からも、涙が流れました。



----------



 うむうむ、とイザベルが頷く。


「ううむ、傭兵団で経験を積ませ、実績も上げろと。

 実績があれば、正規軍にも入れるかもという考えですね」


 マツが眉を寄せて、


「何だか、殺伐としてきそうですね。ロストエンジェル領のスキトロウと言えば、昔から治安の悪い所で有名です。そこの傭兵団って、怖そうですね」


 カオルは頷いて、


「されど、名を上げるにはうってつけ、という所でしょう。

 仕事には困りますまい。奥方様、この退役軍人、中々です」


「ピーチマンって、そういうお話でしたっけ?」



----------



 半年かかって、ピーチマンはスキトロウの町に着きました。

 途中で襲いかかってきた野盗を返り討ちにし、武器や鎧を揃えました。

 正義の兵士として彼らを全て打ち首にし、奉行所に差し出しました。

 賞金首もいたので、それでお金も貯まりました。



----------



「野盗から装備を剥ぎ取ってきたのですね・・・」


「現地調達は基本です」


「その通りですね」


 イザベルとカオルが頷く。

 マツは微妙な顔だが、クレールは固い笑みで、


「で、でも、正義の為に働いていますよ!

 野盗と賞金首! 正義です! 正義ですよ!」


「そう、ですよね・・・正義の兵士としてですもの」


「続きを読みます!」



----------



 スキトロウ傭兵団に着いたピーチマンは、手紙を受付に差し出しました。

 団長は手紙を読んで、ピーチマンを傭兵団に入れてくれました。


 ですが、スキトロウの傭兵団は荒くれ者達の集まりでした。

 まるで野盗の巣窟かと見間違える程でした。

 長旅でお腹が空いたピーチマンは、食堂に行きました。

 まだ若いので、ピーチマンはお酒を飲めませんでした。

 ピーチマンがミルクを注文すると、皆が大笑いしました。


 ピーチマンは何故笑われたのか分かりませんでした。

 そこに男が近付いてきました。

 あっ! ピーチマンは驚きました。

 なんとこの傭兵団には、魔族が居たのです!


 ここまでの旅でも魔族と会うことはありませんでした。

 ピーチマンはとても嬉しくなりました。

 犬族の男はにこにこしながら隣に座りました。


 『ようミルク小僧! 俺がお子様ランチを奢ってやるぜ!』


 皆がまた笑いました。

 ピーチマンはずっと山で暮らしていました。

 ですから、お子様ランチが何だか分かりませんでした。

 でも、この人は新人のピーチマンに奢ってくれると言ってくれました。

 この人は優しいので、仲良くなりたいな、と思いました。


 『新人か? 見かけねえツラだ』


 反対側に、鳥族の人が座りました。

 また魔族です。ピーチマンはとても嬉しくなりました。

 犬族の男がピーチマンの肩に手を置きました。


 『消えな。そこは新人が座って良い席じゃねえんだ』


 席に序列があったのは知りませんでした。

 それをこの犬族は教えてくれたのです。

 この親切な犬族とは仲良くなれそうです。


 ロストエンジェル領は都会なので、ピーチマンの方言が通用しません。

 ピーチマンは言葉遣いに気を付けよう、と思いました。

 ピーチマンはにっこり笑ってこう言いました。


 『仲良くしようぜ。おれは犬みたいな顔をした人が好きなんだ』


 『なんだと?』


 犬族の人が怒り出しました。

 鳥族の人が立ち上がって、席を離れて行きました。


 『あ~あ知らねえ! ドンクロウが一番気にしてる事言っちまいやんの』


 すらりとドンクロウと呼ばれた犬族がナイフを抜きました。

 同じ魔族同士、仲良くしたかったのに、何故でしょう。

 ピーチマンは困ってしまいました。


 『おい、抜きやがれミルク小僧。

  今まで俺の顔の話をして墓場に行かなかった奴は1人も居ねえ』


 言葉遣いが悪かったと気付いて、ピーチマンは慌ててしまいました。


 『誤解しないでくれ。俺は別にあんたが犬みたいだなんて言ってないよ』


 『何?』


 『犬があんたに似てるんだ』


 『このビチグソ小僧が!』


 『決まった! 血まみれナイフのドンクロウを本気で怒らせやがった!』


 皆が2人から離れて行きました。

 さっきまで笑いで包まれていた食堂が、静まり返ってしまいました。



----------



「このピーチマン、大丈夫でしょうか? 情景が目に浮かびます」


「この食堂、壁に賞金首のポスターが並んでいるのでは?

 で、その賞金首達が堂々とお酒を飲んでいるっていう」


「両開きの戸のお店ですよね。開けると皆の視線が集まる感じの」


「ううむ・・・」


「これで言葉遣い気を付けようとは、良く分からなくなりますね」



----------



 ドンクロウがナイフを突き出してきました。

 危ない!

 ピーチマンは背を逸らしました。

 ドンクロウのナイフはピーチマンの顔の前を掠めていきました。


 『危ないなあ。そんな物振り回すんじゃないよ』


 勢い良く突っ込んできたドンクロウが、ピーチマンの足につまずきました。

 ドンクロウはカウンターの上に倒れ込みました。

 勢い良くころんだドンクロウは、カウンターを滑って行きました。

 カウンターからコップやお酒の瓶が、がちゃがちゃと落ちてしまいました。


 『おいおい、大丈夫かい? 壊した分はお前持ちだぜ』


 ピーチマンが歩いて行くと、ドンクロウの胸にナイフが刺さっていました。


 『こりゃ参ったね。俺持ちかよ』


 ドンクロウはぴくぴくと動いていました。

 まだ、治癒魔術で助かります。


 『よいしょ』


 ピーチマンがナイフを抜くと、血が吹き出ました。

 さっと治癒魔術を掛けると、傷口が閉じましたが、辺りは血の海です。

 流石に食欲もなくなりました。


 『オヤジ。つけといてくれ。また来るよ』


 『へい!』


 ピーチマンが立ち去ろうとした時、後ろで剣を抜く音がしました。


 『てめえ! よくも俺のダチを!』


 『はあ?』


 先程の鳥族が剣を抜いていました。

 ピーチマンも驚いてしまいました。


 『よせよ。俺は気が小さいんだ。後ろから剣を突き付けて脅かすなよ』


 もうドンクロウの傷は塞がったし、まだ死んではいません。


 『お友達はまだ生きてるよ。早く輸血しないと本当にあの世行きだぜ』


 『おめえもあの世に送ってやるぜ! 地獄でドンクロウに詫び入れな!』


 『おいおい』


 友達のドンクロウはまだ生きています。

 早く病院に行かないと、本当に死んでしまいます。

 これは急がないと大変です。


 『死にやがれ!』


 鳥族の人が剣を振り上げました。

 ピーチマンがナイフを投げると、鳥族の人の胸に突き刺さりました。


 『うっ!』


 ばたんと鳥族の人が倒れてしまいました。


 『そんなに死に急ぐもんじゃあないぜ』


 刺さったナイフを抜くと、また血が吹き出ました。

 ピーチマンは急いで治癒魔術をかけて、ドンクロウの所に行きました。

 友達の鳥族も倒れてしまったので、ピーチマンが病院に連れて行きます。


 『よっと』


 両肩にドンクロウと鳥族の人を乗せて、ピーチマンは店を出ていきました。

 顔も服も、2人の血で真っ赤でした。


 『初日からこの調子じゃあ、シャワーと洗濯代で貯金が無くなりそうだ。

  やれやれ、ツケ払えるかな。参ったねこりゃ』



----------



 す、とクレールが栞を挟んで、静かに本を閉じた。


「これが本当のピーチマンなんですね」


「ううん、ハードボイルドというのでしょうか・・・

 マツモト様がお若い頃は、こんな感じだったのでは」


「元々は大人向けの小説だったのですね。

 子供向けにも読みやすく改変され、今のピーチマンになったんでしょう。

 それにしても、その・・・なんと言いましょうか」


 イザベルが頷く。


「分かります。どうしてあんな話になったのか。

 と言うか、そもそも、何故これを子供向けにしようと考えたのか」


 カオルも頷いて、


「全くです。どうねじ曲がって今のピーチマンになったのか・・・

 皆様、茶が冷めましたので淹れてきましょう。紅茶で宜しいですか?」


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