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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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850/919

第850話


 その頃、魔術師協会では。


「皆さん皆さん! 凄い本がありましたよ!」


 クレールが地下の書庫から飛び出してきた。

 マツが驚いた顔で、


「何があったんですか?」


「ピーチマンの初版本です!」


「何ですって!」「まさか!」「本当ですか!?」


 ザ・ピーチマン!

 魔の国にも伝わる、子供向けの有名なおとぎ話。


 桃の植人族が人族に拾われ、犬族、鳥族、龍人族を連れ、悪鬼を倒す物語。

 龍人族1人で済むではないか、という話だが、この話に出てくる龍人族は臆病で、直接戦う事は出来ない。だが、その神算鬼謀で仲間達を助けるのだ。


 イザベルが驚いた顔で、くすんだ背表紙を眺め、


「ううむ、随分と分厚いですね。元々は小説だったのですね」


「そのようですね・・・発行はいつですか?」


 クレールが背表紙を開いて、


「ちょうど450年前です! 私と同い年だったんです!」


「450年前の本!? 発行された国はやはり!?」


「はい! 米衆連合国です! 本当だったんですね!」


「ううむ!」


 皆がうなって古くなった表紙を見る。

 これは貴重な文献だ!


「読んでみましょう!」


 クレールが慎重に本を開く・・・



----------



 米衆連合国の山の中。

 ここにはとある退役軍人が住んでいました。

 彼は隠棲していて、買い物の時以外は山から下りて来ませんでした。

 ある時、備蓄の食料が無くなったので



----------



 そこでイザベルが手を前に出して、


「クレール様! しばしお待ち下さい! 退役軍人!?」


 カオルも不思議そうな顔で、


「あの、老夫婦ではないのですか?」


「はい・・・退役軍人です・・・」


 クレールも困惑した顔を上げる。

 イザベルが腕を組んで、


「う、ううむ・・・いや、子供向けに改変されたのでしょう」


「続き、読みましょう」



----------



 ざわざわと人が川に並んでいます。

 なんだろう。

 退役軍人は近付いていきました。


 『わっつざふぁっく、ぶろ』

 (ブラザー、何してんだ)


 『へい、るっくざっ』

 (おい、あれ見てみろよ)


 退役軍人が川を見ると、大きな桃が流れて行きます。


 『わっつざへる? ピーチ?』

 (何なんだ? 桃か?)


 『いえあ。ばっとぅーびっぐ』

 (ああ。だけどでかすぎる)


 その時、は! と退役軍人が気付きました。

 あれはおそらく魔族のタマゴです。

 植人族のタマゴに違いないでしょう。

 退役軍人は大声で叫びました。


 『じーざす! へい、えびわん! ざっつえびるずえっぐ! げらうぇいふろむひゃー! はりー!』

 (畜生! おい、皆! あれは悪魔のタマゴだ! 離れろ! 早く!)


 皆が驚いて川から離れて行きます。

 退役軍人が1人だけ川に残りました。


 『どんうぉり! あいるげろりろぶいっ!』

 (心配するな! 俺が処分する!)


 退役軍人が服を脱いで川に飛び込みました。

 大きな桃を抱えて、何とか岸に辿り着きます。


 『どんかむくろざ! どんむぶあんてぃるあいりぶ!』

 (近付くな! 俺が離れるまで動くなよ!)


 退役軍人が服を着て、大きな桃を抱えました。

 そして、もう一度、皆に注意しました。


 『でぃすピーチまいっえくすぷろしぶ! げっだん!』

 (この桃は爆発するかもしれない! 伏せていろ!)


 皆が頭を抱えてしゃがみ込み、退役軍人が離れるまで動きませんでした。

 退役軍人は桃を抱えて山に戻って行きました。



----------



 皆が変な顔で腕を組む。


「う、ううむ・・・台詞の方言が凄いですね。台詞以外は普通なのに」


「ええ・・・まあ、小説ですし・・・」


「読みづらいですね。改変されても仕方ないと思います」



----------



 山小屋に戻った退役軍人は、桃を下ろしてほくそ笑みました。

 退役しているとはいえ、まだ若かったのです。


 彼は参謀本部で働いていました。

 軍事増強の為、魔族を取り入れるべきだと度々意見していました。

 しかし、米衆連合国はそれを頑なに受け入れませんでした。

 彼は優秀でしたが、魔族迎合主義と言われ、軍を退役させられたのです。


 この植人族のタマゴは軍に戻るチャンス。

 この国の軍に大きな影響を与えるはず。

 戻るだけではなく、必ずや私を参謀本部の上役につけてくれるだろう。

 彼の野心は燃え上がりました。


 彼は固く決意しました。

 生まれた植人族を鍛えに鍛え、優秀な兵として育て上げてみせる。

 そして、この国は世界の警察となるのだ。

 我欲もあれど、愛国心も強かったのです。



----------



「・・・」


 皆、呆れて言葉も出ない。


「これがピーチマン? 悪鬼を倒す正義のヒーローではなかったのですか?」


「き、きっと、これで鍛えられて悪鬼を倒すんですよ!」


「ううん・・・」


「続きを読みましょう!」



----------



 あれから15年が経ちました。

 植人族のピーチマンは、人族では考えられない力を持っていました。

 食事もほとんど水だけで良いので、食費もほとんどいりません。

 若木があっという間に育つように、ピーチマンも人族と同じくらいに育ちました。


 そして、ついに退役軍人の訓練が始まります。

 彼は長い年月を掛けて、訓練場を作っていました。

 退役軍人はピーチマンの前に立ち、真剣な顔をしました。


 『ふろむとぅでいふぉわあ、あいるのっこんしだゆうまいさん』

 (今日からお前を息子とは思わん)


 『わっちゅうせい?』

 (なんですって?)


 『ゆうますびざべっそるじゃ』

 (お前は最強の兵士になるのだ)


 『わっ? べっそるじゃ?』

 (は? 最強の兵士?)


 『いぇす』

 (そうだ)


 『だど、わらーゆとーきんあばう?』

 (父上、何を言っているのですか?)


 『あいるとれいんゆう』

 (俺が鍛えてやる)


 『はあ?』

 (はあ?)


 ピーチマンの肩に、退役軍人の手が優しく置かれました。

 退役軍人は泣いていました。


 15年も一緒に暮らしてきました。

 退役軍人も、最初こそはただの軍の復帰の為と思っていました。

 しかし、今はピーチマンを息子のように思うようになっていたのです。


 息子を戦場に送りたくはないのです。

 しかし、この息子がいれば、この国は負け知らずになるでしょう。

 きっと、多くの人が平和になるでしょう。


 退役軍人は涙を流して泣きました。

 ピーチマンも退役軍人の涙を見て、言葉を失いました。

 背筋を正して、退役軍人を真っ直ぐ見ました。


 『だど。あいあんだすたん』

 (父上。分かりました)


 『ゆうあんだすたんみ』

 (分かってくれたか)


 ピーチマンの目からも、涙が流れました。

 退役軍人は後ろを向いて、涙を拭きました。

 振り返った時、彼の顔は厳しい顔になっていました。


 『どんくらい! そるじゃどんにーえもしょん!』

 (泣くな! 兵士に感情は必要ない!)


 『いえす! だど!』

 (はい! 父上!)


 『のう! こーるみさー!』

 (違う! サーと呼べ!)


 『いえっさー!』

 (はい! サー!)


 『おうけえい・・・らん!』

 (宜しい・・・走れ!)


 『はうめにらっぷす?』

 (何周ですか?)


 『あんてぃるあいせいなっふ! らん!』

 (俺が良いと言うまでだ! 走れ!)


 『いえっさ!』

 (はい! サー!)



----------



 カオルが首を傾げて、


「・・・何か、違う気がしますが・・・」


 イザベルは深く頷き、


「ううむ、訓練時代を思い出します。回数が決まっていると人は頑張れます。

 回数が決められていないと、いつまでやれば良いのかと、中々」


 マツが呆れて、


「イザベルさん。そこではないと思いますけど」


「いえ! このブートキャンプを終え、彼は本物のピーチマンになるのです。

 なるほど、生まれ持った能力だけでヒーローにはなれない、納得です」


「そ、そうでしょうか?」


「最初の理由こそやましいものでしたが、15年。

 もはや親子も同然になっていた。

 されども、涙を流して戦場に送る・・・なんと美しき話」


「そうでしょうか・・・」


 皆が涙ぐむイザベルを見つめる。

 ピーチマンはそういう話だったのか?

 クレールが困惑した顔で、


「あの、続き、読みますか?」


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