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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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第849話


 冒険者ギルド、食堂。


 いつもの日替わりを頼んで、ぐびっと水を飲み、


「イザベルさん。製鉄の話、お返事が来ました」


「おお!?」


「御三家は私が出した条件には同意してくれました。後はファッテンベルクから目付けが送られたら、契約開始となります」


「そうですか! 後は父上次第という事ですね」


「そうです。お父上もすぐ目付けを送ってくれるでしょう」


 イザベルが頭を下げて、


「全てマサヒデ様のお陰です。ありがとうございました」


「まあまあ、まだ始まった訳ではありませんから。

 私は金貨10枚と、ホルニ工房に鋼を少し分けてもらうこと。

 これだけなので、別に難しい事ではないです。

 それよりも、これからのお父上と御三家のお付き合いが大事でしょう」


「は!」


「後で通信設備を借りて、お父上に連絡なさい。もうレイシクランの方から連絡は届いていると思いますが、あなたからも伝えておくべきだと思います」


「は!」


「通信設備の費用は高いそうですが、今回は私が出します」


「そんな!」


「この契約は私が出した話ですから、私から連絡を送っても構いません。

 ですが、お父上、お母上に伝えたい事もあるでしょう。

 それもついでに伝えてきなさい」


 イザベルは感極まった顔で、


「マサヒデ様・・・では、お言葉に甘えて!」


「結構です。では、私は食べたらホルニ工房に行きます。

 ラディさんとホルニさんにも伝えなければ」


 カオルがにこりと笑って、


「お二人共、さぞ喜びましょう」


「だね! ねえ、マサちゃん。私も行っていい?」


「構いませんよ」


「やったね! ホルニさん居るかな?」


「何か作ってもらいたいんですか?」


「違うよ。ハンマー叩かせてくれるかなって」


 え、と皆が意外な顔をする。


「鍛冶仕事に興味があるんですか?」


「実はちょっとあるんだ。ナミトモ残人剣って本、読んだから」


「ナミトモ? 刀鍛冶の?」


「そうそう。本当に居たんでしょ? ナミトモって人」


「そうですよ。凄い作ばかりですよ」


「実は失敗作が何本か残っちゃってて、弟子がそれを折りに行くんだ。

 どう? 面白そうでしょ」


「へえ。面白そうじゃないですか。

 でも、ホルニさんは数打ちもたくさん作ってますからね。

 失敗作をラディさんに折りに行かせるような事はしないでしょう」


「あはははは!」



----------



 ホルニ工房。


 かあん! かあん!


「おおっ! 聞こえるねえ!」


「当然ですよ。鍛冶屋さんなんですから。行きますよ」


 がらり。


「どうも」「こんちはーっ!」


「いらっしゃいませ! うふふ。今度は別の遊廓ですか?」


「いや、違います。良い報せです。

 何ヶ月かしたら、玉鋼がタダで送られてきますよ」


「玉鋼?」


 あ! とラディの母が顔を変えて、


「もしかして、あのたたら製鉄のお話が決まったんですか!?」


「ええ。ファッテンベルクから目付けが送られたら、契約開始です」


「まあまあまあ! 亭主が飛び上がって喜びますよ!」


「ふふふ。では、報せに入っても」


「どうぞどうぞ! 今、熱いから気を付けて下さいね!」


「では失礼します」


 からからから、と静かに仕事場の戸を開ける。

 ホルニが真剣な顔で、がん! がん! と鉄を叩いている。


「はあー・・・」


「シズクさん。少し待ちましょう」


「うん」


 そのまま待っていると、かん、とハンマーを振り下ろして、真っ赤なままの鉄を金床に置いたまま、ホルニが立ち上がって歩いて来た。


「これはトミヤス様」


「こんにちは。お仕事中、すみません。急いで報せたい事があって」


「む。何かございましたか」


「あのたたら御三家から返事がありました」


「む!」


 マサヒデがにっこり笑って、


「契約成立ですよ。後はファッテンベルクの目付けを待つだけです」


「おお!」


「私には金貨10枚。こちらには玉鋼が送られてきます」


「おお・・・」


「ふふ。喜んで頂けましたか」


「勿論ですとも! 玉鋼が無料で・・・ううむ!

 刀鍛冶として店の看板を変えましょうかな」


「安く売れれば、刀も冒険者さんに出回るかもしれませんね」


「繊細ですからな・・・それは難しいと思いますが、数寄者はおりますし。

 ううむ! 夢が膨らみますな!」


「それと、今日はこちらのシズクさんに手伝いをさせて下さい」


「む? 手伝いとは」


「槌で叩くのをやらせて下さい」


「やりたい! お願いします!」


 ホルニがにやりと笑って、


「ほう! 鬼族の槌叩きですか!」


「面白そうでしょう? 力はありますから、大槌なんて片手でひょいです」


「助かります。本来、2人でやる作業です。

 ラディはここ最近は鉄砲と魔術に夢中ですし」


「いいの!?」


「勿論ですとも。ではこちらへ」


「やった!」


 2人がすたすたと歩いて行って、よ、と大槌をホルニが持ち上げる。


「では、こちらを」


「はい!」


 シズクが軽く持ち上げて、


「へえ! これで叩くんだ!」


「そうです。ただ強く叩けば良いというものではありません。実際は強弱がありますが、今日は持ち上げ、そのまま落とすだけで結構です」


「こんな軽いので良いんだ!」


 シズクがぶんぶんと大槌を上下に振る。


「・・・」


「もっと重いんだと思ってた。へえー! 意外に軽いんだね」


「人族には結構な重さですが、シズク殿には軽い物ですかな」


「でも、これで刀とか剣とか出来るんだね」


「その通り。使い手次第では、シズク殿の首も軽く斬れる物が作られます」


「うーん!」


「では少々お待ち下さい。鉄が冷えましたので、少し熱して、熱くなった所で叩いてもらいましょう」


「やったね! マサちゃん、見てて! がつんといくよ!」


「ははは! 頑張って下さい」



----------



 少しして・・・


「よし・・・」


 赤を通り越して、黄色く熱せられた分厚い鉄板が出てくる。

 シズクが槌を肩に担いで、


「叩くんだね!」


 ホルニが手持ちのハンマーを上げて、


「はい。私がこの小さなハンマーで、こんこん、と叩いたらごんっと。

 真っ直ぐ金床に落とすだけで結構です。

 叩いて欲しい所は、私がこちらを動かします。真っ直ぐ落とすだけです」


「分かった!」


 こんこん。


「ほいさ!」


 ごん!


「・・・」


 はっきりと丸く槌がめり込んだ跡が見える。

 ホルニがくるりと鉄板を回す。


 こんこん。


「ほいさ!」


 ごん!

 こんこん。ごん!

 こんこん。ごん!

 こんこん。ごん!


「うむ・・・折り返しましょう」


 ホルニがたがねを当てて、こんこんこん、と切込みを入れて、がんがん叩いて折り曲げる。


「もう一度いきましょう。冷めないうちに」


「分かった!」


 こんこん。ごおん!

 こんこん。ごおん!

 こんこん。ごおん!


「ううむ・・・」


 何度も叩き、表面から黒くなった薄い鉄が剥がれて落ちる。


「これ、薄いのが落ちてるよ? もったいなくない?」


「む、それはこの鉄の良くない部分が落ちているので、良いのです」


「そっか!」


「よし。もう一度、火に入れましょう」


「簡単だね!」


「ううむ・・・」


 これはとんでもなく詰まった鉄の剣が出来てしまうのでは・・・


「これを何度か繰り返したら、剣の形に延ばしていきます」


「おおー!」


「良い物が出来そうですな」


「ほんと!?」


「はい。叩き方がとても良いです。お世辞ではありません」


「やったー! 出来上がりが楽しみだね!」


 ホルニが目を細めて赤い鉄を見て、小さく頷いて火に入れた。


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