表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

847/919

第847話


 翌朝、魔術師協会。


 朝餉を食べた後、いつもならすぐ稽古にと出て行く所だが、マサヒデは湯呑を両手で持ったまま、じっと眉間に皺を寄せている。


 シズクがカオルを見ると、カオルもシズクを見て、2人で肩を竦める。

 何があったのかは分からないが、やけに真剣な顔だ。

 マツが心配そうに、


「何かございましたか? 気になることでも?」


 ぎく、とマサヒデが顔を上げ、


「え!? いや、ううむ・・・」


「どうしたんですか?」


「気になると言えば、気になる・・・ような」


 段々マサヒデの声が小さくなる。

 少しして、ふう、と息をついて、


「朝稽古に行きます」


 と、立ち上がって刀架から雲切丸を取って、マサヒデは出て行った。

 皆が顔を見合わせて、


「何でしょう」


「何かあったっけ?」


「さあ・・・私には分かりません」


「何でしょうね?」


 シズクが首を傾げて、


「まあ、後で聞いてみようよ。カオル、行こ」


「そうですね。では奥方様、行って参ります」


「私も行きます」


 クレールも立ち上がって出て行った。

 マツが首を傾げる。

 昨日、何かあったのだろうか? 帰ってきた時は何もなかった。

 素振りの最中、また何か思い付いたのだろうか。


「ううん・・・」


 よく分からないまま、マツも執務室に入って行った。



----------



 冒険者ギルドの入口で、マサヒデが止められた。


「トミヤス様、おはようございます!」


「おはようございます」


「昨日、通信がありましたよ! キホの冒険者ギルドです!」


「おっ! きましたか!」


 これは製鉄の話だ。

 クレールに頼んでレイシクランの者を送ってもらった。

 きっと、上手く契約を結べただろう。

 受付嬢が手紙を出して、


「はい! こちらが通信の内容です!」


「ありがとうございます」


 受け取った所で、カオルとシズクとクレールも来た。


「ご主人様」


「何々? またやばい話?」


「ふふふ。違います。これはキホの冒険者ギルドからきたものです。

 製鉄の話の返事でしょう」


 ぱあ、と3人の顔が明るくなる。


「おお!」


「やったね! 読んでみようよ!」


「やりましたね!」


「どれどれ」


 封を開けてメモを出す。

 御三家は全てマサヒデ=トミヤスと永代契約を希望する。

 毎月金貨10枚。毎年、ホルニ工房へ玉鋼を送る。

 目付けが到着するまでは、魔術の道具はキホ冒険者ギルド預かり。

 ファッテンベルクとは交渉済み。

 契約開始は目付けが着き次第とする。


 簡単なもので、交渉成立という結果だけ、という感じ。

 きちんとした書類は、交渉に行ったレイシクランの者が持って来るだろう。


「なるほどなるほど。ファッテンベルクから目付けが到着してから。

 急いで馬を飛ばして船も使って、2ヶ月はかかるか・・・うん、楽しみですね」


「良いかと思います。後はファッテンベルクからの目付けを待つだけと。

 ところで、またご連絡があると思いますが、宜しいのですか?」


「ううむ、リチャードさんですか。あの人、怖いですからね。

 手紙で済めば良いんですけど」


 カオルは小首を傾げて、


「固そうなお方です。顔を合わせて礼を言いたいと、必ず通信が来るかと思いますが」


「私もそう思いますよ。礼儀正しいお方です」


 クレールも頷く。

 ふう、とマサヒデが息をついて、


「まあ、ううむ・・・仕方ないですかね。

 お礼は軽く済ませて、後はイザベルさんに任せましょう」


「リチャード様は苦手ですか?」


「あの方は緊張しますよ。威厳って言うんですか、気合い負けするというか。

 陛下とは少し違う感じですけど、軍人っていう職業柄でしょうか」


 カオルが頷いて、


「ファッテンベルクはそこら中に魔獣がおり、兵も走り回っております。常時緊張状態の国境にいるようなものですから。常に兵が出ておるような地ですので、ああもなりましょう」


「ふふ。家庭では抜け毛を心配してですか」


「ふふふ」


「あはははは!」


 げらげら笑うシズクを見て、


「次、シズクさんも一緒に挨拶に来て下さいよ」


「えっ? 私?」


「カオルさんも」


「は」


「二人共、私の身内なんです。イザベルさんともしょっちゅう顔を合わせてるんです。顔見せだけですよ」


 シズクが顔をしかめて、


「なんで私も?」


「私の家臣ではないですが、家族みたいな者じゃないですか。

 イザベルさんのお父上ですよ。挨拶くらいしましょうよ」


「やだよ! 怖いんでしょ!?」


「怖いですよ。でも来て下さい」


「やだよ!」


 ふ、とカオルが鼻で笑って、


「そうですよね。礼儀も言葉遣いもまともに分からず、貴族の方の前に立つのは不安でしょう。立つだけで恥を晒しているようなものです」


「何!?」


「マサヒデ様はなんとご立派であられることか。

 それを自分で分かっておられながらも、臆することなく前に立つ。

 されども、相手には不快な思いをさせず・・・しかし」


 カオルがシズクの顔を見て、


「ふっ」


 笑って横を向く。


「煽ってんのかよ」


 カオルがわざとらしく驚いた顔をして、


「ええっ! 分かるのですか!? これは驚きました」


「・・・言うじゃないか」


「おやおや。恥を晒しに出られますか?」


「てめえ・・・」


 ひいー、と受付嬢が肩を竦める。

 マサヒデが苦笑して、


「まあまあ。嫌なら来なくてもいいですよ」


 ぴく。


「行くに決まってんじゃん」


「そうですか。では、次は二人共一緒に来て下さいね」


「は」「行くよ」


 マサヒデが小さく笑った。

 何て単純な。だが、それもシズクの良い所だ。

 ああいう人と話すことも、良い勉強になるはずだ。


「では、2人は先に行っていて下さい。私とクレールさんもすぐ行きます」


「は」


 2人がぎすぎすした空気で歩いて行く。


「カオル先生よお。1手教えてくれよ。立ち会い稽古でさあ」


「ふふふ。皆様の前で本気ではいけませんよ。死人が出ます」


「死人? 誰かな? お前かな?」


「訓練場の皆様です。私を殺せるとお思いで?」


「言うじゃないか」


 奥に入って行く2人を見て、マサヒデが苦笑いして、肩を竦めたままの受付嬢に声を掛ける。


「あれ、大丈夫ですからね。よくある事です」


「ほ、本当ですか? シズクさん、凄く怖かったですけど」


「最近はなかったんですけどね。少し前まで、お互いにしょっちゅう煽り合ってましたよ。何か懐かしい感じです」


「あの、稽古の時、喧嘩とかにならないですかね」


「なりませんよ。本気でやり合う事は絶対にしません。

 本当に死人が出ます。そのくらい、二人共分かってます」


「ひえー・・・」


 クレールが笑って、


「本当に大丈夫ですよ! 危なそうだったら、私がお二人を氷漬けにしてしまいますから!」


 軽くそんな事を言うクレールに、また受付嬢が引いてしまう。

 マサヒデが苦笑いして、


「死ぬかもしれないから駄目です。まあ、大丈夫ですから、安心して下さい。

 せいぜい口喧嘩で終わる程度ですよ」


「は、はい・・・」


「では、クレールさん。私達も行きましょう」


「はーい!」


 マサヒデとクレールも訓練場に向かって行った。

 仲良くしていたけど、やっぱりこの人達は怖いな・・・

 受付嬢が顔を青くして、ハンカチで冷や汗を拭った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ