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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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第846話


 広場に座って勇者祭の戦いを眺めていると、カオルが歩いて来た。


 マサヒデが手を挙げて立ち上がる。


「お手数かけましたね。ラディさんはどうでした」


「承知との事。しかしひとつ失敗を致しました」


「何したんです」


「お父上に遊廓遊びの話が聞かれてしまいました。

 迂闊にもお母上の前で羨ましがってしまって、お母上が」


「ははは! あ、そうそう。あの細見カタログ、ありますよね」


「は」


「私、アルマダさんにあげてしまいました。

 マツさんにはカオルさんのをあげてもらっても良いですかね?」


 カオルが少し驚いて、


「ハワード様が欲しがったのですか?」


「ええ。火種に使えそうだと破いてこよりにしてました」


「ふふ」


 よ、とマサヒデが立ち上がり、


「では、行きましょうか」


「は」



----------



 魔術師協会。


 からからから・・・


「只今戻りました」


「おかえりなさいませ」


 マツが手を付いて迎えてくれる。


「お土産がありますよ。カオルさん」


「は。奥方様、こちらを」


 カオルが懐から細見を出してマツに渡す。

 マツが受け取って、


「なんですか?」


「あの歓楽街の遊女さん達の細見ですって」


「あら。マサヒデ様は」


「いらないので、アルマダさんにあげました」


「うふふ。では見せて頂きましょうか」


 マサヒデとカオルが顔を見合わせて、


「やっぱり。マツさんは喜びましたね」


「ふふ。だと思いました」


 2人が居間に上がっていくと、クレールとシズクが本から顔を上げた。


「おかえりなさいませ!」「おかえりー!」


「只今戻りました。今日も読書ですか」


「そうです! 遊廓の予習です!」


 マサヒデが刀架に刀を置いて、


「遊廓の本なんてあったんですか?」


「シズクさんが持ってたんです!」


「へえ・・・」


 シズクが煎餅をかじって、


「剣豪小説ってやつだよ。遊廓の主が実はカザマ忍者の生き残りだったとか、車道流の悪党が襲ってきたりとか」


「カザマ忍者ですか」


 カオルが興味深そうに座って、マサヒデに湯呑を差し出す。


「カザマ忍者と聞いたらカオルさんも気になりますよね。

 で、なんで遊廓が襲われるんです」


「初代王から、御免状をもらってたのさ」


「何の御免状なんです」


「昔って、色町のお店は税金とか払わなくて良かったんだって。

 その税金免除とかの御免状」


「税金を取りたいから、その御免状を取り上げようって話ですか」


「違うんだなあ。実はその御免状を出した初代王、影武者だったのさ!

 サキョウの国と決戦した時に、本物は死んじゃってたんだ!」


「へえ。それは面白い話ですね。

 で、影武者が出した御免状だから、これはまずいって感じで?」


「そんな単純じゃないんだ。実はその影武者とカザマ忍者の店主、昔は友達だったんだ。こっそり俺だよってサインを入れてたのさ。戦が終わってから国を治めてた王が、実は影武者だったって世間に知れちゃったらまずいでしょ」


「なるほど」


「で、2代王、この話だとまだ王子だけど、そいつが車道流の奴らに何とか出来んかって刺客を送ったり泥棒させようとしたりするのさ」


「それ、よく発行出来ましたね。車道流はこの国の御留流ですよ?

 歴代の王も皆、車道流をおさめてるっていうのに」


「ああっ!」


 クレールが急に声を上げた。


「なんです。急に大声を出して」


「この本、たくさん売れたのに、なぜか王宮作家賞では酷く叩かれたんですって。読み手と書き手の見方の違いという所かと思いましたけど・・・」


 あ! とシズクも驚いて、


「まさか、車道流が悪役だから!?」


 マサヒデがにやにや笑って、


「ふふふ。そうかもしれませんよ。たくさん売れたんでしょう? いくら創作とはいえ、御留流の印象が悪くなります、なんて」


「ううん! そうかもしれません!」


 カオルが膝を進め、


「その本では、カザマ忍者はどういう者で」


「首都の色町の長で、カザマのコジロウという有名な忍者らしいです。

 カオルさんはご存知ですか?」


「カザマのコジロウですか。人の国では伝説的な忍ですね。

 確かに、首都色町の長となったという話もございます」


「へえー!」


「ミカサ王に仕えた忍です」


「ええっ! あのミカサ王ですか!」


「色々と逸話がございます。サキョウ王、戦で滅ぼされる1代前の王です。

 寝ている所に忍び込み、飽きる事なくその顔を見つめておりました」


「それで、殺したんですか?」


「いいえ。そのサキョウ王ですが、凄腕の武術家でもあったのです。

 車道流開祖のヨシムネの師から、皆伝を授かる程の一流の武術家です」


「へえー!」


「当然、コジロウが忍び込んだ事にも気付いておりました。

 気付いていたのですが、寝たふりをしていたのです。

 コジロウが動かぬので、ゆっくり目を開け、ここまで来て何故殺さぬ。

 コジロウはにやりと笑い、私が殺さずとも近いうちに死ぬ。

 その前に、サキョウ王の顔、目に焼き付けたいと」


「うわあ・・・」


 ぴ! とカオルが手刀を振って、


「おのれ、なぶるか! サキョウ王の剣が一閃。

 ぎりぎりの所でコジロウは間を外し、わざと顔に刀傷を受けたのです。

 驚いたサキョウ王に、冥土の土産、頂きました。

 半年後、生きておりましたら、次は私が冥土の土産を持って参ります。

 そう言って、闇の中に消えていったと」


「す、凄いですね・・・」


「コジロウの予言は的中。それから数ヶ月、サキョウ王は弟の反乱で死亡」


 ごく、とクレールが喉を鳴らす。


「とまあ、そういう噂がいくつも作られる程に凄腕の忍であったのです。

 最後はブデンの忍に殺された・・・と見せかけ、実は生きていたとか。

 死ねば身を隠す必要もなくなる、と言い残し、世に出て色町へ、とか」


「へえー!」


「ミカサの国の滅亡後、カザマの忍は散り散りになってしまいましたが、その技術の一部は残されておりますよ。私の分身の術は、元はカザマの技術です」


 おや、とマサヒデが煎餅をかじりかけて、


「あれ、そうだったんですか?」


「そうです。他にも、卍手裏剣などもカザマが作った物です」


「へえ。でも、カオルさんは使いませんよね」


「かさばりますので」


 つつ、とカオルが静かに茶をすすり、煎餅を手に取る。


「カザマは時流に乗り遅れました。一国にしか仕えなかったがゆえ、ミカサが滅した後は、野盗や盗賊の類になり下がってしまいました。他国の忍は主に仕える国を決めてはおりましたが、別の国にも人を送って働いておりました」


「なるほど。ひとつの国が滅びても、乗り換えられるようにと」


「そうです。そのような一国にしか仕えない忍の里がいくつもあり、貴重な忍の技術がいくつも失われております」


 マサヒデがにやにや笑って、カオルを見て、


「で? カオルさんはどこの流派なんです?」


「機密です」


 いつもの澄ました顔でとぼけたが、マサヒデはにやにやしたまま、


「ふふふ。実を言うと、私は知ってます」


「えっ」


 マサヒデが立ち上がって、縁側に座ってカオルを手招きする。

 カオルが横に座ると、カオルの耳に手を当てて、小さな声で、


(ブデン流)


 う! とカオルが固まる。


「何故・・・」


(自分で言ってたじゃないですか。私の術は王流の流れを汲むとか。

 さて、王流はどこの武術でしたっけ?)


「・・・」


「ははは! 口を滑らせましたね! まあ、私にはバレても良いでしょう。

 このくらい、失点にはならないと思いますよ」


 マサヒデが笑いながら部屋に戻って、にやにやしながら固まったままのカオルを見ながら、煎餅をかじる。クレールがにじり寄ってきて、


「マサヒデ様!」


「駄目です。カオルさんは秘密にしたいんですから、教えてあげません」


「ええー!」


「私は主だから大丈夫でしょうけど、あなた達に教えたら、カオルさんの失点になってしまいますよ。ここは我慢して下さい」


「う、ううん・・・分かりました」


 マサヒデは固まったままのカオルに、


「カオルさん。ここで顔に出した所は失点になるかもしれませんよ。

 あなたも忍なんですから、気を付けて下さい。

 ここは当たってても、違いますと誤魔化して切り抜けないと」


「は・・・」


 くす、とマサヒデが笑って、


「そうそう。カオルさんがお土産を持ってきましたよね。

 マツさん、クレールさん達にも見せてあげて下さい」


「あ、はい。これなんですけど・・・」


「これは何のカタログですか?」


「歓楽街の女郎さんがいっぱい載ってるんです!」


「へえー!」


「お店や代金だけではなく、スリーサイズまで載ってますよ」


「ええっ!? そんな事まで!? は、恥ずかしくないんでしょうか・・・」


「さあ? でも、見てて面白いですね。うふふ」


「ええー!? ちょっと待って、得意な芸って!

 ちょっと、これまじで何の芸だよ! ねえまじで?

 こんな事まで書いちゃうのお!? うわあー!」


 クレールもシズクも面白がって細見に行ってしまった。

 カオルは苦い顔をして、ぺたぺたと懐紙で額を拭いている。

 くす、とマサヒデが笑って、湯呑の茶を一口飲んだ。


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