第842話
収穫祭の街道。
マサヒデ、ラディ、イザベルが並んで銃の話。
魔の国の軍隊の鉄砲とは。
「我が軍におった頃の話だが、まだ変わってはおるまいな。
長物は九十一式長銃という物を使っておる」
「九十一式? ミナミの新型ですか?」
「いや。ラディの八十三式と名は似ておるが、作った者は別人だ。
だが、八十三式を参考にした部分は多い。
魔の国で作られた物で、銃兵は基本的にこれに統一されておる」
「どのような」
「長さ4尺半。重さは1貫目と少しかな。
5発の挿弾子、ボルトアクション、木製部品で軽量化。
八十三式そっくりであろう」
「はい」
「だが、弾薬が違う。八十三式より大きい。
三三式拳銃は知っておるか?」
「はい。凄く単純構造とか」
「そうだ。その三三式拳銃と同じ者が作った。弾薬も同じ」
「あ。確か、三三式拳銃は過酷な地に強いとか・・・」
「そうだ。魔の国は過酷な地が多い。
ファッテンベルクもそうだが、広い砂漠も広い湿地帯もある」
「なるほど」
「そして、拳銃も長物も同じ弾薬が使える。便利だな」
「ううむ」
マサヒデが感心して唸る。
ラディも納得、と頷き、
「三三式は弾薬が強すぎて壊れる事があるとか・・・
長物と同じ弾薬を使っていたのですね」
「そういう事だ。それと、魔族と人族の身体の違いもある。
頑丈な魔族には、やはり強い弾薬でないと、という訳だな。
そして、一般で売られる物と違い、軍の三三式は壊れん」
「何故でしょう」
「軍の銃は鍛冶族が作るからだ。鉄の質が違う」
「なるほど・・・」
「三三式は簡単に分解、組み立てが出来るというのは知っておるか?」
「はい。何も使わず、手だけで・・・あ」
イザベルがにやりと笑う。
「その通りだ。長物もそういう作りになっておる」
「ううん!」
「長さは八十三式より長いし重いが、良く使える。
重さは釣り合いが取れており、そう気にならぬが、欠点もある」
「どういう欠点でしょう」
「弾薬が大きく強いゆえに、跳ね上がりも大きい。
よって、先を重くする為に常に銃剣を着けて運用する。
着脱は出来るが、外しておると何故か教官殿に叱られるのよ。ははは!」
「では何故、着脱出来る作りにしたのでしょう。
当然、ナイフは別にありますよね」
「ある。何故かな?」
「ううん、コストもかさむでしょうし、分かりません」
「我にも分からん。やはり威嚇目的かな?」
マサヒデは首を傾げて、
「おそらく、不意の接近戦に備えてでしょう。
長物は両手で持ちますから、離してナイフを抜くより銃剣の方が早い。
不意の事態に対するものだから、常に着けておかないと」
「なるほど・・・」「流石マサヒデ様!」
「おそらく、ですが。他にはどんな違いがありますか」
イザベルが首を傾げて少し考え、
「銃剣は全然斬れません」
「は?」
マサヒデとイザベルの頭に疑問符が浮かぶ。
ラディが不思議そうに、
「斬れない刃物ですか? では、本当にただの重し?」
「ははは! スコップや鋸代わりに使うのよ!
銃剣のナイフは棟の方がぎざぎざになっておって、木が切れる。
長い持ち手があると、掘りやすいし切れやすいわな。
ナイフと違って斬れ味はないが、そういう別用途がある。
そんな銃剣で刺した時は、ざくざくっと傷口がな。分かるな」
「えぐいですね・・・」
「ううん・・・」
「話は戻るが、弾薬の違いも大きいぞ。
例え全身金属鎧で貫通出来なかったとしても、当たれば1丈は吹っ飛ぶ。
全身金属でなければ、2丈は飛ぶ。この衝撃力が八十三式と違う」
「なるほど」
「しかし、三三式ではそこまで吹き飛びはせん。何故か分かるか?」
「同じ弾なのに? ううん、分かりません」
「基本的に、銃身が長いほど威力と射程が増す。長すぎもいかんが」
「そうだったんですか」
「拳銃でも使える弾薬なのに、長物で跳ね上がりが強すぎて銃剣を着けねばならぬというのも、それが理由だ。威力が増すから、どんと跳ね上がる」
「鉄砲も面白いです」
「ううむ、面白いですね」
ラディが頷いて、マサヒデも頷いた。
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茶屋に着いた。
既に他の客達も居て、街道の隅には長椅子がいくつも置かれている。
どれも一杯だったので、マサヒデ達は馬車の幌を上げて中に座り込んだ。
残念ながら、アルマダの騎士達は地面に座り込んでいる。
買ってきたたこ焼きもお好み焼きも、冷めてふやけてしまっていたが、それがまた美味しく感じる。これも祭の不思議だ。
クレールが何度も懐から懐中時計を出して、まだかまだかと空を見上げる。
こちらから見ると、花火が上がるのは神社の反対側。
神社の丘は高くはないので、邪魔にはならない。
「そろそろですかねえ」
どん!
腹に響く音。
「あっ!」
ぱらぱらぱら・・・
赤い花火が上がり、皆の顔が赤く照らされた。
どん!
「わあー!」
「上がりましたね」
マサヒデは鉄扇でぱたぱた扇ぎながら、たまに蚊を払ったりしている。
(もう、夏が終わった)
目を細めて、次々に上がる花火を眺める。
夜風の涼しさを感じる。
ちらりと横を見ると、花火の輝きに染まるマツとクレール。
反対側に、カオルとラディ。
前にはアルマダとイザベル。
黙って花火を眺めていると、そっとマツが腕を絡めてきた。
「綺麗ですね」
「はい」
「ここは、私の方が綺麗ですって言うんですよ」
「ふふ」
「言っても構わないんですよ」
「言いません」
「どうして?」
「マツさんはいつも綺麗ですから」
「まあ! うふふ。合格点をあげます」
「ありがとうございます」
みりみりみり・・・
クレールが2人を厳しい目で見ている。
アルマダがにやっと笑って、肩を竦めた。
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がらがらがら・・・
「只今戻りました」
魔術師協会にマサヒデ達が戻った。
「おかえりー」
シズクのだらけた声。
ぞろぞろと皆が居間に上がってくる。
「はい。お土産ですよ」
「ありがっとー」
袋に入った屋台の食い物を渡す。
シズクが袋を開けて、鼻を突っ込み、
「んー! 食べていい?」
「どうぞどうぞ」
「いただきまーす!」
がさがさと包みを出して、シズクが並べていく。
マサヒデがにやにや笑って見ていると、
「奥方様、お着替えを手伝いましょう」
カオルとマツが奥に下がって行く。
シズクがぱかっと蓋を開けて、割り箸を取り、
「焼きそばいただきー!」
ぞろぞろぞろっと口に流し込むように食べて、ごっくん。
はあ、と息をついて、ぱあっと顔を明るくして、
「んー! このふやけ加減がお祭りって感じ!」
「良かった。留守の間、何かありましたか」
ん、とシズクが顔を真面目にして、箸を置き、
「あったよ。客が来た」
「誰です」
シズクの顔からして、あまり良い客ではなさそうだ。
「ジョージ=ジンネマンだよ」
「ジョージ=ジンネマン? 誰でしたっけ?」
「しだれ屋の店主」
「ああ。何か言ってたんですか? やっぱり奢りは無理とか?」
「いや。マサちゃんが祭で神社に行って居ないって言ったら、帰った」
「何か気に入らない事でも」
「覆面してた。あれ本物かな」
「覆面を?」
「ジョージ=ジンネマンの顔、誰も知らないってね」
「ああ、そんな話でしたね。ですけど、そんな人が出てきたんですか」
「うん。何の用だったのかな」
マサヒデもちょっと首を傾げて、
「ま、行けば分かるでしょう。明日、店に行きましょうか。
先延ばしにせず、早目に行った方が良さそうですね。
さっさと予約取ってしまいましょう」
「私もその方が良い感じするな」
さらりと奥の間が開く音。
着替えたマツが出て来て、
「さ、クレールさん、どうぞ」
「あ、はい。行きます」
ふう、とマサヒデ達が息を抜き、シズクも箸を取った。
遊廓、しだれ屋。
変な感じがしてきた。




