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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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第841話


 ヤセキ神社、境内。


 どん! と太鼓が鳴った。


「おっ」


 綿飴を指でつまみながら食べていたマサヒデが顔を上げた。

 もうすぐ神楽舞が始まる。

 クレールが顔を上げ、


「始まりますね!」


「よし、行きましょう」


 人混みに入ってゆっくり歩いて行くと、カオルが神社で立っていた。


「わ! 綺麗ですねえ!」


 赤い袴に、何かの花が染められた羽織。

 頭には花飾りがついている。


 ぽん! と鼓が鳴ると、笛も鳴り出し、しずしずとカオルが歩いて行って、神前でゆっくりと礼。

 ぺん。ぺん。と三味線が鳴り、カオルがしゃりん! と鈴を鳴らす。


 マツもマサヒデの横に立って、


「言うだけあって、中々出来ておりますね」


「中々ですか」


「うふふ。私、舞には厳しいんです」


 しゃりん! 鈴がなりカオルが膝を落として、すうーっと横に出ながら、左手に鈴を持ち替えて、真上に上げる。足を真っ直ぐ引き付けて立ち上がり、円を描くように、しゃりん、しゃりん、と鈴を鳴らしながら神前に擦り足で進んで行き、両手に鈴を立てて持ち、ゆっくりと礼。


「ふうん・・・」


 なるほど。確かに武術の動きとそのままのものがある。

 だが、特にこれはと違和感を感じるものはない。

 アルマダが眉を寄せて厳しい目でカオルを見ているマサヒデを見て、


「どうしました」


「気になる事があって」


「あれがですか? 上手く踊っていますが」


「踊りには、武術の動きが隠されているって・・・」


「ああ」


「確かに、能の足運びに車道流の足運びと同じものがありました」


「カゲミツ様が教えてくれた、誘いの運びですね」


「ええ」


 マサヒデが黙ったまましばらくカオルの舞を眺める。

 しゃりん、しゃりん、と鈴の音が響く。


「回し斬り、ありますよね」


「は?」


「あれ、鹿神流の振り方らしいですよ」


 む! とアルマダが驚いた顔をしたが、舞の最中、人混みの中。

 さすがに大声は上げない。


「ほう」


「鹿神流って、今は北之天社にしか道場がないですよね。知られる限りは」


「北之天社・・・神社ですね。そして、神楽舞ですか」


「そういう事です」


「なるほど」


 2人が厳しい目でカオルの神楽舞を観察する。

 しゃりん! しゃりん! しゃりしゃりしゃり・・・

 鈴が鳴って、カオルが静かにゆっくりと頭を下げ、舞が終わった。


 ゆっくりとカオルが振り向いて、社殿の入口まで出て来て、膝を付いて頭を下げた。ぱちぱちぱち、と皆から拍手が上がる。


「終わりましたか」


「ううむ」


 特に得られなかったな・・・とマサヒデとアルマダが肩を落とす。

 少しして、拍手が収まった時。


 ぽん!


 鼓の音が大きく響いた。


「あれ?」


 カオルがぱっと頭を上げた。

 顔には鬼の面。

 おおっ、と観客達から声が上がる。


 すうー、と立ち上がり、ば! と社殿前の階段の際まで飛んで爪先立ち。


 か! か! か!


 音に合わせて、ずん! ずん! ずん! とカオルの顔が前に出る。

 アルマダがにやりと笑って、


「ふふ。見せますね」


「何するんでしょう」


「さあ。ここからは楽しく見ましょう」


 ぽん!

 カオルが真後ろに跳び、ぴたりと元の位置に立つ。

 くるっと回ると、鬼の面が消える。

 くるっと回ると、鬼の面。


「うふふ。カオルさん、やりますね」


「お。マツ様からお褒めの言葉が」


 すすす、と鬼の面を着けたまま左手に。

 ぽん!

 ぐるん! と回りながら右手に立つと、鬼の面が消える。

 手に持った鈴が小太刀に変わっている。


「ほう。鬼退治ですか」


 すうー、と左手を向き、小太刀を向ける。

 ぐるん! 回って左手に立つと、鬼の面を着けてゆっくりと両手を上げる。


 ぽん!

 だんっ! と床を叩いて、中央まで鬼が跳んだ。

 膝を付き、両手を左右に真っ直ぐ開き、顔は下を向いている。


 ぽん!

 するりと回って、小太刀を向けて立ったカオル。


 アルマダが感心して、


「あの体勢から、どうやって立つんでしょう」


「ぐるんと回ってるから、勢いで立てるのでは」


「回るって、膝で回るんですか? あの勢いで、あんな横まで?」


「さあ?」


「あれ、舞なんですかね?」


「それっぽく見えれば良いでしょう」


 ばん! とカオルが中央に跳んで、すたーん! と地面まで垂直に小太刀を下ろした。

 ぱっと立ち上がると手の小太刀は消え、鬼の面。

 両手を左右に広げながら、ゆっくり、ゆっくりと回る。


 ぴた。

 止まって少しすると、ぱかりと鬼の面が割れて、ことん、と落ちた。

 カオルがにっこり笑って頭を下げる。


「「「おおー!」」」


 歓声と拍手が上がった。

 静かに膝を付き、頭を下げ、両手に割れた面を取って、すっと裾に入れる。

 見物客達の歓声と拍手の中、カオルがゆっくり立ち上がる。

 そして、静かに社殿の奥に下がって行った。



----------



 境内。


 カオルの派手な踊りで興奮冷めやらぬ観客達が、一層ざわざわしている。


「はあー! お見事でしたねー!」


 クレールがうきうきと声を上げる。

 マサヒデも笑顔を返し、


「そうですね」


「カオルさん、本当に踊りがお上手ですね!」


「ええ。凄かったですね。では、カオルさんが来たら行きましょうか」


「えっ? もう?」


「花火はあの茶屋の辺りで見ましょう。

 ここで見て茶屋に戻って、だと帰りが遅くなります。

 歩いて戻って一休みで、丁度始まると思います」


「分かりました!」


「食べ物は屋台で買っていきましょう。

 かき氷みたいに溶けるのは駄目ですよ」


「はい!」



----------



 街道。


 男勢が両手に風呂敷を下げて歩いて行く。中は屋台で買った食い物。

 マサヒデとラディが並んで歩く。


「マツモトさんが言うには、狙撃手というのは、達人のような者らしく」


「ほう」


「物にもよるのですが、鉄砲の長物の弾の速度は、1秒で200間を超えるそうで、これは音より速いです。雷が落ちる時、光ってから音がするように、当たってから音が届きます」


「へえ! 鉄砲の弾ってそんなに速いんですか!」


「飛んでいくと段々遅くなりますから、これは平均の速度です」


「ふむ」


「で、ここからが問題です。上手な方は、1000間(1800m)の距離を当てられます」


「ほう! それはすごい!」


「1秒に200間とします。では1000間先に届くのは何秒ですか?」


 は! とマサヒデが気付いた。


「むっ! 5秒後ですか!」


 5秒! 例えこちらに気付いていない者でも、5秒の間どう動くか分からない。歩いていて足を止める、座っていた者が立ち上がる、逆も然り。


「そして、1000間という距離を考えて下さい。

 こちらでは風が吹いていても、少し離れた所で風では吹いていたり。

 途中で風が止まったり吹いたり、風向きが違ったり」


「ううむ・・・」


「1000間も遠く。狙いが1厘(0.3mm)ズレていても、大きく外れます。いくら鉛の弾とはいえ、途中で風が当たっただけで、簡単に外れます」


「どうやって当てるんでしょう」


「風の流れというのが自然と感じられるようになり、当てられるとか・・・

 何となく見えるようになってくるとか」


「風か・・・そういえば、父上に弓の達人の話を聞きましたよ」


「弓ですか」


「父上が武者修行中、川を挟んだ向こうから、風の中、柳の枝の葉を1枚1枚射抜いた方がいたそうです。風で揺れる柳の枝の葉を」


「風の中で」


「その方も、風が見えたのでしょうね」


「ううん・・・」


「そして、当たるまでの相手の動きが分かる・・・まさに達人ですね」


 はあ、とマサヒデが息を吐く。


「5秒の間の相手の動きが分かれば、刀や剣の世界ならもう無敵ですよ」


「マサヒデ様」


 イザベルが横に並ぶ。


「軍では、狙撃手は2人か3人で1組になるのが普通です」


「ん? どういう事です?」


「銃を撃つ者と、風を見る者。役が分かれております」


「ほう」


 イザベルがラディの方を見て、


「マツモト殿が冒険者であったのは知っておるな」


「はい」


「これは知るまい。マツモト殿は、赤白であった」


「えっ!?」


 ラディが驚いて声を上げる。

 マサヒデは知らず、


「赤白ってなんです? 何をそんなに」


「マサヒデ様。冒険者に格付けがあるのはご存知で」


「まあ、大体は」


 イザベルが懐から冒険者の証明書を出し、


「この外枠の色が変わるのです。帯の色と同じです。

 青や紫、茶色。Aランクになると黒。最上位が赤」


「では、赤白ということは、6段以上ですか!」


 イザベルが頷き、


「マツモト殿の周りは、達人が多くおりましたでしょう。

 冒険者となると、軍のように役分けせず、1人でこなす者が多いはず」


「そんな人、まさに達人ですね」


 ラディも頷いて、


「イザベル様」


「む、何だ」


「軍ではどのような鉄砲があるのでしょう。お話出来ないのであれば結構ですが」


「ほう? ラディは鉄砲に興味があるか?」


「はい」


「良いぞ。教えられる物は教えてやろう」


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