第八章:第二次人森戦争・前編-54
今回楽しくなってつい長めになってしまいました。
嬉しい誤算ですね。
ノルドールの実姉、アウレ・トービルについては一通り調べてある。
気立てが良く、明るく朗らかで友人が多く。
鍛錬に真面目に取り組み才能を開花させながらも決して驕らず、常に謙虚で真っ直ぐな心向きには周囲からの信頼を得ていた。
拳闘士としても多大な功績を幾つか残しており、一時には村を襲撃した盗賊達相手に無傷で追い返して退けている。
彼女が今も無事であったならば、今頃はアヴァリに並ぶか、もしかしたら彼女すら上回る程の拳闘士になっていたかもしれない。
そしてそんな姉を、ノルドールは心の底から尊敬し、敬愛している。
彼が姉と同じ拳闘士になり、決して裕福ではい家柄にも関わらず他の名だたる貴族達を押し退けて軍団長の座にまで昇り詰めたのも、偏に姉に対する強い憧れと、姉を裏切った貴族への復讐心から来るものが大きい。
「『……お前は、知ってんのか?』」
「『む?』」
「『ネェちゃんの事、知ってんのかって訊いてんだッ!!』」
怒号の如き声量で問い詰めて来るノルドール。しかし私はそれには答えず「『さぁな?』」とだけ返した。
「『……ふざけてんのか、テメェ……』」
「『ふざけてなどいないさ。ただまだ何も決めていないお前にくれてやる情報など微塵も無い、というだけの話だ』」
実の所、私は彼の姉、アウレの行方を知らない。
勿論、調べはした。
だがやる事が山積していた中、五十年も前のたった一人のエルフの行方を独自で追い掛けるには物理的に時間も裂ける労力も足りない。
もう少し詳細で特定し易い情報があればまだマシだったのだが、優先度の関係で調査は今のところ彼女の来歴やノルドールとの関係性程度で打ち止めしている。
だが、今はそれで充分だ。
「『なぁノルドール。例えば、の話だ』」
「『あぁ?』」
「『例えばそう、お前の姉がまだ生きていたら、どうする?』」
「『──ッ!?』」
ふふふ。露骨に希望と期待で目の色が変わったな……。だがまあ、それを素直に受け取るほど純粋な性格はしていないだろう?
「『……はんっ。笑わせんじゃねぇ。戦地で両手足を失くして生きてるだぁ? 嘘吐くんならもっと真実味あるのにしろや』」
そして怒気。この程度の嘘で誤魔化せる相手だと見られた事への小さな憤慨と浅はかさを晒した私への侮蔑……。テンプレだな。何ともやり易い。
「『そうだな。人族であろうがエルフ族であろうが両手足を失った状態で生きている確率は絶望的だろう……』」
「『はんっ! そりゃそう──』」
「『但し、それはあくまでも〝普通のエルフ〟ならば、の話だ』」
「『……あ?』」
ノルドールはアウレを敬愛している……。その強度は彼女の生死不明を経て盲目化し、一種の信仰に近い物に片足を踏み入れている。
以前アヴァリを打ち負かし、《完全継承》によって彼女から読み取った記憶……。
そこには短いながらアヴァリとノルドールの会話の記憶も存在している。
切っ掛けは第二軍団長として新たに任ぜられ、同僚となったアヴァリが彼を呑みに誘った事。
短い会話ではあったが、ノルドールは話の流れで家族についての話になり、そこで彼はアウレについて実に嬉々とした様子で話を弾ませていたのが伺える。
そこから読み取れるノルドールが語るアウレの印象はまさに溺愛。私が姉さんに抱いている愛情よりもより一層深いものかもしれない、とすら読み取れた程だ。
当時既にそれなりに国内で名が通っていたアヴァリに多少の遠慮をしながらも、生きていたらば必ず貴女に肩を並べるか越えている……。
そう語る彼の言葉、口調、感情……。アヴァリはその一つ一つにノルドールの実姉への無限の信頼と信用を感じ取っていた。
そんな彼ならば、きっと結び付けるだろう。
自身が抱く姉に対する愛情と彼女自身の実力の高さを、〝生きているかもしれない〟という都合の良い期待と願いに……。
そう、信じたいから。
「『お前の姉、アウレは両手足を失くしたからと生を諦めるような奴だったのか?』」
「『それ、は……』」
「『私の拙い情報収集能力でさえ、アウレの能力の高さには目を見張るものがあると感じた。それは他人である私にすら、生きている可能性を捨て切れないと判断した程だ』」
嘘は吐いていない。そこが重要だ。
交渉を有利に進める上で大切なのは〝嘘の含有量〟である事は言うまでも無いが、ノルドールの私に対する猜疑心を取り除く上では、嘘は可能な限り含めない。
特に今後、私と付き合っていく上では、な。
そして実際、私は彼女が生きている可能性を視野に入れている。
その理由は──
「『……根拠はなんだ』」
「『む?』」
「『アールヴの情報だけでそう思ったわけじゃねぇだろ? じゃなきゃ俺でさえ信じれなかったネェちゃんの生死をオメェ何かが信じれるワケがねぇ』」
「『ほぉう。つまり?』」
「『テメェん所……。ティリーザラに何かあるんだな? ネェちゃんの情報がっ!!』」
確かに私はアウレの行方を知らない。
だが痕跡を見付けていないワケでもない。
前述したように優先度の関係で打ち止めはしたが、彼女と関連がありそうな雑多な情報は幾つか見付けている。
そしてそれは、元々有していた〝ある情報〟と偶発的に合致した……。基本的に私は信じていないが、コレが所謂〝運命〟というヤツなのだろうな。
「『……実はお前達エルフ族と開戦するにあたり、ティリーザラ側に幾つか在った盗賊団の拠点を彼等ごと壊滅させた』」
「『あ? 何の話だっ!?』」
「『まあ聞け。……そんな盗賊団の一つに、人身売買を生業にしているものがあってな。奴等は十数年前に新しく進出して来た盗賊団で、自分達の商品を提供する代わりに他の盗賊団の縄張りに加入した、謂わば新参だったわけだ』」
「『……』」
不服そうなノルドールを無視し、彼の興味が逸れないよう問い掛ける形で話を進めていく。
「『だが考えてもみろ? 新参の盗賊にしては奴等はイヤに手際が良いと思わないか?』」
「『……知らねぇよ』」
思惑通り適当ながらに相槌をうつ彼に優しげに笑い掛けると露骨に顔を引き攣らせ、それを内心で面白がりながら更に話を続ける。
「『それに商品の質もだ。もし本当に奴等が新参者であったなら、他の盗賊団を納得させる程の商品を提供出来るとは考え難い……。新参者がそう簡単に資本金や人脈、売買ルートの構築が行えるとは思えないからな』」
「『……だったら、何だってんだ』」
「『つまりこうは考えられないだろうか? その新参者の盗賊団は新設ではなく、もっと別の場所にて拠点を構えていた者達だったのではないか、と』」
ここまでのまるで推理したかのように語っているが、実はこの情報は私が人身売買盗賊団のボスを《収縮結晶化》でスキルに還元した際に記憶を読み取ったものの一部だったりする。
本来はその売買ルートが気になっていたから読み取りこれはオマケ程度だったのだが、思わぬ形で役に立ってくれた。
「『……で?』」
私の語りに興味が湧いて来たのか、ノルドールが僅かに前のめりになって耳を傾けてくる。
そう、ここからが面白い所だ。
「『今回の戦争に際し、私は僅かな懸念事項も取り除きたいと考えていた。故にもしこの人身売買盗賊団が以前の拠点に残党を残していた場合、場所によっては戦争の邪魔になると考え、調査した。結果……』」
「『……』」
「『奴等の元拠点は、ティリーザラとアールヴの国境に程ない洞窟に存在したよ。エルフ族を攫い易そうな、深ぁぁい、洞窟にな?』」
「『──ッ!? ま、さか……』」
新参、という文言に騙されそうになるが、それはあくまでもあの盗賊団達が居を構えていた平原一帯での話。
その実情は中々に歴史ある大盗賊団。
大陸全土を股に掛け、各地に存在する拠点から様々な人種を攫い、その人種を欲する様々な者達に提供する全国規模の人身売買のプロ組織だ。
私達が潰した盗賊団はその枝。主にエルフ族を〝収穫〟し、裏市場に流していた組織であったのだ。
「『待て……待て待て待てッ!! ネェちゃんが行方知れずになったのは前の戦争──もう五十年も前の話だッ!!』」
「『ああ、そうだな』」
「『なら……ならよッ!? お前の言いたい事が正しいなら、その盗賊団は五十年続いてたって事だろッ!?』」
「『それが?』」
「『だからよぉッ!! たかが盗賊の一団がそんな続いてたなんて聞いた事ねぇよって話だよッ!!』」
「『ふむ』」
確かに、盗賊という生業が何十年と続くのは稀有だ。
被害や実害が出る以上は必ず国に対策を講じられ狙われたが最後、数年と経たずに壊滅するのが常識。そこはエルフ族でも変わらんらしい。
だがこの盗賊団は、どうやら普通ではなかったようだがな。
「『お前の言も解る。特に人身売買というのは高い質を求めれば求める程に被害が目立ってしまうからな。奴等の〝商品〟を見る限り安物は拾わんだろうし、その存在が知られず五十年存続するというのは中々に至難の業だ』」
「『……ヤケに人身売買に詳しいな』」
「『枝とはいえ壊滅させた張本人だからな私は。奴等の帳簿を覗けばそれくらい想像つく』」
本当は前世で多少なりともそういった組織と関わりを持っていたから詳しいという事なのだが、それを明かす意味は無い。
「『ふん、そうかよ……。で? なんでその盗賊団はそんな年月生き残り続けられたんだ? 俺達の国に悟られねぇようによう』」
「『……』」
「『……なんだよ』」
「『お前の姉は、確か仲間であった貴族エルフに裏切られたんだったな?』」
「『だからな──』」
その瞬間、ノルドールの目は見開き、瞳は絶望の閃きを宿す。
表情は次第に険しくなり、しかし逆に顔色は血の気が引いたように青くなっていき、身体全体が抑え切れない程の感情を押し殺すかのように小刻みに震え出した。
「『な、なぁよう……』」
「『なんだ?』」
「『俺の……俺の間違いだったら否定して欲しいんだがよう……』」
「『ああ』」
「『もし、もしもだ……。ネェちゃんを騙して人族に売った貴族がよう──』」
「『……』」
「『実は、その人身売買生業にしてる盗賊団とグルで……。貴族がずっとソイツ等の誘拐の偽装に加担してて──』」
「『……』」
「『んで、ネェちゃんはそんな盗賊団への〝商品〟にされて……ネェちゃんは……その為に……』」
「『……』」
「『な、なぁよう……。これは、俺の間違いで──』」
「『正解だ』」
「『──ッ!? マ、ジか……。マジか……』」
そう。奴等が五十年もの間エルフ族を攫い続けられたのは、偏にアールヴ側に協力者が居たからに他ならない。
どう取り入ったかまでは判然としないが、間違いなく互いの利害が一致したのだろう。
金銭なのか調度品なのかそれともその貴族が〝商品〟を買っていたのか……。と、今はそこはどうでもいい。
「『なぁノルド──』」
「『ふざ、けんな……ッ!!』」
ノルドールは唐突にテーブルに向かって渾身の頭突きをかます。
毒で力が出ないにも関わらずその威力は常人が出せるものより数段強力で、私のテーブルに小さいながら亀裂が入ってしまう。
「『つまりアレかッ!? あのクソ野郎は命欲しさにネェちゃん売ったんじゃなくて、文字通りの意味で人族にネェちゃん売ったってのかッ!? 自分の……下らねぇ欲を満たす為に……』」
……ノルドールは恐らく、微かにではあるがアウレを裏切った貴族に対し同情に似たものを覚えていたのではないだろうか。
戦場は過酷だ。肉体は勿論、精神的にも追い詰められ、摩耗し、時には心やプライドがへし折れる場面もあるだろう。
その貴族もまた、そんな心やプライドが折れ、今にも自分を殺そうとしている敵に恐怖し、普段では取らない行動をしたのではないか……。そう、心のどこかで懸念していたのかもしれない。
もしそうならば、理由や態度次第では許さないまでも多少の手心を加える事を、視野に入れていたのかもしれない。
だが、そんな空想は今、完全に瓦解した。
「『ふざけんなふざけんなふざけんなァァッッ!! それが、国民を守る事を義務付けられた貴族のする事かッ!? 平民より贅沢に暮らす事を許されたヤツの所業かッ!? そんなんもう……人じゃねぇ……』」
「『そうだな。盗賊団も然りだが、そういう性根が腐り切った輩は人ではない。……家畜以下の害獣だ』」
同調した私に、ノルドールは溢れんばかりの怒りを宿した目を向ける。
だがその怒りの矛先は私ではない。私が敷く道の先に居る、エルフ貴族に対しての怒りだ。
「『テメェ……。最初テメェは、ネェちゃんが生きてるかもしれねぇって言ったな』」
「『ああ。そうだな』」
「『それはつまりアレか? あくまでも〝商品〟として売られたんなら、最低でも死なねぇように扱ったんじゃねぇかって、そういう事か?』」
ほう。怒りに頭を支配されているかと思えば、存外に冷静な思考が働くのだな。
……いや、コレはもう怒りを通り越して寒気を伴うほどの殺意を宿しているが故の〝冷徹さ〟なのだろう。
ここまでくれば、後は簡単だ。
「『私はそう、考えている。そこに加えてアウレの身体能力だ。生きていても不思議ではないと思わないか?』」
まあ、信じ過ぎるのは危険ではあるがな。そこをつっこむのは野暮というものだ。
「『……で、結局お前は何が言いたい? 俺にネェちゃんの生存を匂わせて、それを盗賊団とアールヴの貴族に結び付けて、理解させて……。テメェは何がしたい? 何が望みだ?』」
「『そう難しい話ではない。ただ私はお前にこう提案したいのだ──』」
一拍置き、ノルドールの激情が宿る瞳を敢えて両眼で真っ直ぐしっかりと見据え、私が敷く道に誘導するように、ソッと右手を差し伸べる。
私とノルドール、二人の望みが叶う、私の道へと……。
「『なぁノルドール? お前の姉さんの捜索も、裏切ったエルフ貴族への復讐も、全て私が叶えてやる』」
「『なっ……』」
「『その代わり、お前は私に全てを差し出せ。命も、肉体も、スキルも、経験も、記憶も、魂も……。お前が持ち得る全てを、私に差し出すのだ』」
「『……』」
「『さあ、選べ』」
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クラウンからされた提案は、この場で決断するには余りにも重たいものだった。
自分の持っているあらゆるものを代償に願いが二つ叶う……。まさに悪魔の取引そのもので、しかし異常なまでの魅力を孕んだ選択肢といえよう。
当然、ノルドールは迷う。
願いの一つ──エルフ貴族への復讐だけならば、敬愛するユーリ女皇帝陛下から聖装具アイゼンガルドを下賜された際に約束して下さった。
だがそんな復讐よりも大切な願い……。愛する姉の行方の捜索は、恐らくクラウンの提案を呑まなければ二度と叶わないだろう。
いや、エルフ貴族への復讐だってこの場から生きて帰らねば叶う事はない。
ノルドールは今捕虜の身であり、そしてクラウンはこの提案──要求を呑まなければ実にアッサリ彼を始末するだろう。
最低限の収穫だけし、アウレの行方も、貴族エルフへの復讐も果たされぬまま放置されてしまう……。何せクラウンにとってこの二つは、所詮ノルドールへの手札でしかないのだから……。
それは……そんな事態を、ノルドールは──
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「『……一つ』」
「『む?』」
「『一つだけ、確認させろ』」
「『……なんだ』」
「『俺の、その二つの願いを、俺は見届けられるのか? 無事かもしれねぇネェちゃんの姿も、あのクソ野郎が苦しむ姿も、俺は見る事が出来るのか?』」
「『……』」
「『……』」
「『……ああ。見届けられる』」
「『本当か?』」
「『約束しよう。お前が提案を呑むならば。私は必ずアウレの行方を突き止め、裏切り者のエルフ貴族をお前が望む形で苦しめ、殺してやる。お前の目の前でな』」
「『本当に、本当だなッ!? 自分の神に誓えるかッ!?』」
「『ああ誓う。私は必ず、お前の望みを叶えよう……。私とお前、二人の欲望の名の元に……』」
「『……で? 具体的にはどうすんだ?』」
ノルドールとの取引が成立し、彼は私に全てを差し出す事に同意した。
しかしそれが何を、どういう形で行われるかまでは流石に解らないようだ。
まあ、解られても困るのだがな。
「『これからお前には、大まかに二つ、私の指示通りにしてもらう』」
「『ああ? 指示だぁ?』」
「『まずは一つ。私がお前にスキル《完全継承》を使う。要求するのはお前が持つスキルと経験、そして記憶だ。それをお前には一切抵抗せず了承してもらおう』」
「『なっ!? マジか……』」
ノルドールは露骨に嫌な顔をする。
確かに普通はそんな要求をされて顔色一つ変えず了承する奴など居ない。誰だって自分の努力の結晶や才能を奪われる事には嫌悪に気色ばむだろう。
だが彼は私の提案を呑んだのだし、そもそも今更拒否した所で待つのは何も叶わぬ死だけだ。拒む事など意味を成さない。
「『お前に拒否権は無い。そもそもどっちにしろお前はこの場で全てを失うのだ。ただそれが順序だっているだけに過ぎんよ』」
「『お、おう……。で? 二つ目は?』」
「『ああ……。二つ目はお前には一度死んでもらう』」
「『…………は?』」
ノルドールはたっぷりの間を使った後、何やら私を鋭く睨み付け何やら文句を口にしようとするが、それを手で制し黙らせる。
「『話は最後まで聞け……。と、言っても口頭での説明だけでは少々理解し難いか……。ならば──』」
私は椅子から立ち上がり少しだけ後退して自身の周りに簡単な空間を作る。
そして《蒐集家の万物博物館》を発動させ、そこから道極を取り出して見せた。
「『そ、れは……まさかッ!?』」
ふむ。どうやら道極の正体を初見で見破ったらしい。
流石はアヴァリの元同僚。彼女と友好を築いていただけあってすっかり姿が変わっている道極を見てもそれが元々はアヴァリの得物だと察したようだ。
「『お、お前、それをどうして……。それはアヴァリ姉さんの……』」
「『もう解っているだろう? 私が何故元々アヴァリの武器であったシェロブを持っているのか』」
「『……お前、アヴァリ姉さんを……殺したのか?』」
「『……ああ殺した』」
「『──っ!?』」
「『安心しろ。ちゃんとサシでの決闘の末に着いた決着だ。その証拠に──』」
私が道極に意識と魔力を集中させると、道極は淡く美しい光を発し始める。
「『このシェロブ改めて道極には、アヴァリの〝魂〟が宿っている』」
「『なっ……魂が?』」
「『そうだ。たまに声を聞けたりするのだが、様々な事情でお前には届かん。対話したいと思ったならば残念だったな』」
「『いや、そうは思って──って、ん? つまりはアレか? 俺も武器に魂入れろってかッ!?』」
おお、察しが良い。
やはり見た目や言動に反して多少は思慮が深いらしい。私としては高得点だな。
「『ああ、その為にお前には一度死んでもらう必要があるのだ。私の手でな』」
「『い、いやでもよっ!? なんでその必要が──てか死んで魂になったら俺が俺の願いを見届けられねぇんじゃねえか?』」
「『そこは安心しなさい。武器に魂が宿れば。どうやら外界の事は武器を介して理解出来るらしい。まあ、アヴァリの言う事に嘘がなければの話だがな』」
「『な、なるほど?』」
ふむ。流石にキャパオーバーか? この短時間でノルドールは様々な情報の波を経験したからな。理解が追い付かず反応が鈍くなるのも無理はない。
「『まあ兎に角。お前は私の指示に従ってくれさえすれば良い。悪いようにはせんから。な?』」
「『いや、でも何でわざわざ俺が武器に……。俺自身がお前の部下になりゃ済む話じゃねぇのか?』」
正直その線も無くはない。一度は考えもした。
だが今戦闘要員は足りているし、彼の出来る事は部下達でも充分に賄えるだろう。ならばその命は私の力となる方が効率も我欲を満たす事が出来る。
要は適材適所だ。私なりのな。
それに──
「『私はお前達五人の捕虜の中から最低でも二人、殺そうと考えている』」
「『あ? なんだそりゃ……』」
「『今回私がお前達を好き勝手出来る交渉を成立させたが、これはあくまでも非合法だ。その事実を隠蔽する意味も含めて、私はお前達の中から二人、犠牲を出す』」
「『そりゃ、つまり……』」
「『そう。お前には〝脱獄に失敗した〟事にしてもらう。そしてそれを鎮圧する過程で已む無く二人の犠牲者が出た……。そういうシナリオだ』」
ふふ。我ながら中々に酷いこじ付けだ。
確かにノルドールに語ったように偽装工作や隠蔽をし、その過程での犠牲を出すつもりではいる。嘘は無い。
だがこれは、あくまでノルドールに自分が死ぬ事を多少なりとも納得させる為の理由、という側面が大きい。
私のワガママを通す為のこじ付け……。我ながら実に最低で欲深い。
「『……』」
「『再三言うがお前に今更拒否権は無い。お前にはどう足掻いても死んでもらうし、それを私は利用する……。受け入れろ』」
これは最早決定事項だ。ノルドールが何を言おうが変わらない。
「『……俺の──』」
「『む? 今度は何だ?』」
「『俺の、魂が宿る武器ってのは……』」
「『……お前の事だ。もう察しているだろう?』」
そう言いながら私はポケットディメンションを開き、その中からノルドールも当然見覚えがある武器を取り出す。
「『アイゼンガルド……』」
「『これ以上お前に相応しい武器は他にあるまい』」
「『そう、だな……』」
「『お前にはコイツに宿り、専用武器を解除してもらう。その上で私の専用武器として改めて登録し、お前は新たなアイゼンガルドと共に私との約束を見守ってもらう……。そういうプロセスだ』」
「『……そうか。わかった』」
ノルドールも私同様に椅子から立ち上がると、小さく「『なるようになれ』」と呟いてからまるで体を差し出すように胸を張る。
「『んじゃ、さっさと殺れよ。なるべく痛くならねぇように頼むぞ?』」
「『……ふむ』」
私はそんなノルドールを一旦無視し、彼の背後へと回り込むと拘束を外し、自由に動けるようにしてやる。
「『お、おい……。一体どういうつもりだっ!?』」
「『話を聞いていなかったのか? お前には〝脱獄に失敗した〟体をとってもらう必要がある、と』」
「『いや聞いてたけど……』」
「『脱獄を防ぐってなるなら、それなりの被害が伴って然るべきだろう? 偽装工作にはリアリティが大切だ』」
「『お、おう……』」
「『それにお前も拳闘士だ。どうせ殺されるなら──』」
改めてポケットディメンションを開き、一般兵士用の装具を投げ渡してやる。
「『せめて闘って死にたい、だろ? ノルドール・トービル』」
「『……へっ。随分と気が利くじゃねぇか? えぇ? 旦那?』」
ノルドールは一際嬉しそうに笑いながら渡した装具を身に付け始め、楽し気に口元を吊り上げながら構えを取る。
「『それに私の実力はちゃんと示しておかなくてはな。自分より弱い者に使われるのは癪だろう? 「使われても仕方がない」と、ちゃぁぁんと思い知って貰おうじゃないか?』」
「『ははっ!! ますます良いねぇ旦那っ!! アレだけ慕われる理由も分かる気がするぜっ!!』」
「『そうか? なら存分に理解してくれ──』」
私も彼に倣い、道極を構えて彼を見据える。テーブルや椅子がまだ残っているが、どうでもいい。
これはちょっとした余興……。
私とノルドールの、信頼を築く為の一戦だ。
因みに今回のノルドールとの面接は長くなってしまいましたが、他の捕虜達五人はもっとアッサリやります。
そうしたら後一、二話で前編、漸く終わりです!!
幕間を一話(もしかしたら二話)やった後、後編スタート──クラウンがメインの話になります!!
そして後編では前編に一度も出て来ていない皆大好きな〝彼〟も、大いに絡んできますので、是非是非お楽しみ下さい!!




