港町04
「俺はいろんな場所を旅して廻ってるけど、ここまで海産物に種類が豊富な料理屋はなかなかないんだ。どれも絶対旨いから、安心して食べなって。」
注文を終え、含みのない笑顔で告げた悠希。
けど、選んだメニューがアレだ。
「安心、ねぇ…。イルグスクなんて肉食で凶暴な魚、文献でしか見た事ないもん。身は柔らかく絶品って書いてあったけど、形的に、誰が初めに食べるなんて言い出したのかって思ってたよ。」
私は文献から得た知識から、イルグスクの姿を思い出す。
長く太い胴体と、バランスの悪い小型の頭部。けどその細身の口には中まで牙があって、一度食らい付いたら食い千切るまで放さないとか。
身体を回転させてっていう文面から、ワニかドリルかって思ったんだよね。
「さすが、唯は読書家だな。俺も実際にイルグスクを見た事ねぇけど、冒険者の宿で依頼書は目にしたくらいか。でもさぁ、旨ければ問題ないんじゃね?」
ニッと歯を見せて笑う悠希。
ここまでされては、完全に毒気を抜かれてしまう。もはや、一人で苛ついている私がバカみたいだ。
そもそも、何に対して怒っていたんだろう?
「お待たせ致しました~。」
そんな疑問が自分の中に浮かんだ時、タイミングが良いのか、悠希の分の料理が運ばれてきた。
「んじゃ、私に一口ちょうだいよ。」
「え?…あ、良い…けど…。」
「早くぅ。」
何故か戸惑いをみせる悠希に、私は催促までする。その言葉に、漸く悠希が箸を手にした。
刺身定食ってだけあって、かなりの量の生の切り身がお皿に盛られている。
うん、見た目は綺麗なピンク色。
「あ~ん。」
悠希が一切れ箸に持ったのを見て、私は口を開けた。
…ちょっと、早くしてよ。
いつまで経っても口に入ってこない事が不思議で、私は閉じていた瞳を開く。
いやいや、何故目の前で切り身が止まっている。
私に向けて差し出された箸に乗った切り身。そりゃ、迷わず食らいつくでしょ。
パクッと箸ごと口にして──勿論箸を食べる訳じゃないから、すぐに出すよ?──もにゅもにゅと咀嚼する。
うん。しっかりした肉質に見えたけど、脂がのっているのか、とても柔らかでジューシー。そして甘味があって…。
「美味し~っ。」
思わず両頬を押さえて、身悶えてしまった。
ん?誰の反応もない。
不思議に思って──頬を押さえたままだったけど──二人を見た。
何?何で二人して固まってるの?




