情報収集05 ─皐月(さつき)side─
目の前の宿を見上げ、凜が呟く。
「この宿。」
「うん、そうだよぉ?」
それに対し、ニッコリと笑顔で首肯する。
あたしも実際に見るのは初めてだけど、過去視の中で彼女達が話していた宿の名前と同じだった。
「部屋番号。」
「あちゃ~…、そこまではちょっと。でも、中で視たら分かるかも?」
端的な凜の問いに、あたしは普通に対応する。
彼女の頭の中は分からないけど、絶対にあたしより複雑だと思うよ。
「泊まる。」
「あ、うん。じゃあ、凜が手続きしてくれる?あたし、その間に視てみるからさっ。」
「分かった。」
瞬き一つの後、いつもの凜に戻っての返答である。
っていっても他の人から見たら、思考中でも通常モードでも変わらなく感じるんだろうけどね。
「はいはい、いらっしゃい。宿泊なら、ここに必要事項を記入してちょうだいね。」
宿の女将なのか、恰幅の良いおばさんが対応してくれる。
凜が記帳している間がチャンスだ。
「時間ノ魔法、過去視。」
あたしは誰にも聞こえないように、口の中で呟くように魔法を唱える。
今回の対象は宿のカウンター。
手を置いて凜の記帳を見ているふりして、あたしは過去の時を視る。
さすがに宿屋。何人もの人が来て、去っていく。
その時間を巻き戻しつつ、目的となる人物を捜す。
あ、いた。栗色と黒髪。
あたしは彼女達が来る前に遡り、宿の奥に入っていくまでを視る。
ついでに記帳する姿を確認する事で、彼女達の名前まで分かってしまった。ふふふっ、さすがあたし。
「部屋は何処でも良いかい?今なら…。」
「2階の端の部屋が良いですっ。」
宿の女将さんが部屋を告げる前に、あたしは今知り得たばかりの情報を叫ぶ。
あ~…うん、凄く驚かれちゃった。叫んじゃダメだよね、びっくりするから。
「す、すみません…。えっと…、前に友達がそこに泊まって、窓からの景色が良かったって言ってたから…。」
とりあえず、その場逃れの言い訳をしてみた。
そもそも、空いているかも分からない。
「そうかい?それなら空いているから、あんた達もその友達と同じ部屋に泊まって、感想を言ってあげると良いよ。」
「あ、ありがとうございますっ。」
快い返答をもらい、あたしは勢い良く頭を下げた。
うん、良い人で助かったよ。
そうしてあたし達は、目標と同じ部屋に宿泊出来る事になった。




