情報収集04 ─皐月(さつき)side─
直後、隣にいた店主の奥さんのこめかみに青筋が浮いた。
「あんたっ!まだあの女と関係があるのかいっ!」
「い、いや…その…、ち、違うんだってっ。」
奥さんの問い掛けに返答が出来なかった店主は、しどろもどろになる。
そしてそのまま夫婦喧嘩が始まり、周囲に野次馬の人垣が出来たのである。
「皐月、行こう。」
「うんっ。」
ニマニマしながら見学していたら、凜に腕を引かれた。
野次馬の人混みに紛れて、あたし達はこのまま姿を眩ますって訳だねっ?
「皐月、やり過ぎ。」
商店街を離れたところまで来た頃、あたしは凜に注意された。
「え~っ。だって、しつこかったんだもん。どうせなら、あんなおっさんじゃなくってぇ、格好いい男にセールストークされたかったわ~っ。」
けど、それくらいで反省するあたしではない。
嫌いな物は嫌い、これはハッキリとしておかなければならないのだよっ。うんっ。
「そう。…ところで、冒険者の宿では何を視ていたの。」
凜はあたしの反論をよそに、いつものように淡々と問い掛けてくる。
そうだよね、うん。別にあのおっさんに同情して、あたしを注意した訳じゃない事は分かってるよ。っていうか、今それを聞くんだ?
「うん、目標がいたよっ。」
あたしの方も、これがデフォルト。
周囲の事に真剣に構ってなんていられない。
トレジャーハンターは、時には命を好奇心で削る事もあるんだから。
「目標…。」
おうむ返しする凜が立ち止まる。
こういった場合、既に思考の中に入り込んでいるのだ。
「凜。こっちに来ないと、通行人にぶつかっちゃう。」
あたしは彼女の腕を引き、道の端に移動する。
「皐月。他に情報。」
端に移動した途端、凜から真っ直ぐに視線を向けられた。
あたしは、そんなにポンポンとネタが出る子じゃないよぉ。
「まだだよぉ?あそこでは、宿に行く事までしか分からなかったもん。」
「何処の宿。」
不満を顕にしてみるが、更なる質問を投げ付けられた。
うん、まだ思考の中にいるのね。対応がいつもより、少しばかりキツイもの。
「町の入り口近くの、大きな宿だよぉ。さすがにあの場所では、それ以上の事を話してなかったんだよねぇ~って、えっ?凜っ?」
あたしが話しているそばから、凜が消える。
あ、違う。周囲を見回したあたしの視界に、彼女の背中が見えた。
消えたんじゃなくて、置いてかれたんだ、あたし。…くそぉ。
慌ててその背中を追い、隣に並ぶ。
あたしより小さいのに、あたしの事を忘れないでよねっ。
でもどうやら凜は、目標が立ち寄ったであろう宿に向かっているようだった。




