過去視より04─皐月(さつき)side─
「空腹なのね。」
あたしのお腹の訴えに、凜が淡々と告げる。
はい、ごめんなさい。お腹は正直なんですぅ。
「えへへっ。」
あたしはペロッと舌を出し、照れ笑いを浮かべた。
「ここは少し目立つから移動する。」
凜に小さく溜め息をつかれ、背を向けられる。
でも知ってる。この場合、彼女は怒っている訳じゃないんだよね。
「ありがとっ、凜。」
あたしは尻尾を振る犬のごとく、慌てて凜の横に並んで歩く。
向かうは、ここから一番近い宿場町。
宿場町に向かいつつ、周囲を見通せる開けた荒野に腰を下ろす凜。
「この辺りなら魔物もいない。来ても見晴らしが良いから分かる。…記憶ノ魔法、シチュー、鍋ごと。」
そして地面に手を翳し、魔法を発動する。
すると目の前に、大きな一抱えもある寸胴が現れた。
おぉ~っ。
いつ見ても凄い、凜の魔法。
記憶にある物を、その場に再現出来るという便利魔法なのよねぇ。
有形の物に限るみたいで、魔法とかは具現化出来ないみたい。あと、細かい構造の物は魔力を大量に消費するんだって。
でもね、この凄いところはもう一つ。
食べられる。使える。
そうなんだよぉ。幻覚じゃなく、本物なのっ。お腹も満足な、超便利魔法なんだよっ。
「今日はシチューだねっ。」
「そう。記憶ノ魔法、テーブルと椅子、食器。」
次にいつも使うテーブルと椅子、その上に食器類が登場する。
これら全て、凜の記憶を形にしているらしい。
記憶が曖昧だとキチンとした形にならず、魔法自体も失敗してしまうって聞いた。
「記憶ノ魔法、パンとサラダ。」
続けてテーブルの上に、たくさんのロールパンと山盛り千切りサラダ。
今日は心暖まるご飯だよぉ。
あたしは自然と顔が緩んでしまう事も隠さず、笑顔で寸胴の蓋を開けた。
勿論、ホッカホカの湯気が立ち上る。
「今日も美味しそうだねぇ。」
あたしは笑顔でシチューを取り分けた。
どれだけ食べたってなくならないもんね、この量なら。
「別に、ローテーションで出してるだけから。」
急にそっぽを向く凜。
これ、デレてるんだ。
凜は普段淡々としているんだけど、たまにこうなるんだよねぇ。
俗に言う、ツンデレってやつ?
そしてこの時ばかりは、凜は凄くミスをする。
「ぅあ~、あつっ。」
椅子にテーブルに取り分けたお皿を凜がひっくり返し、お腹辺りに思い切りシチューを被ってしまった。
ほら、ね?




