一つ目の欠片01
「あの…さ?」
とりあえず落ち着いたみたいだからと、私は思い切って彼に声を掛けてみる。
周囲に敵影はなく、目の前の覆面さんも固まった砂に埋もれて、抵抗など出来そうにない。
私は何となく彼の斜め後ろにいたんだけど、声を掛けたら、当たり前のように真っ直ぐ向き直ってくれた。
「どうしたんだ?」
視線を合わせ、軽く首を傾げてくる。
何だか、大型犬みたいだ。
「あのね…君の名前を、聞いて良いかな?」
話している途中から、彼の瞳に呆れが浮かぶ。
いや、本当に知らないんだって。
「まさか、本当に俺の事を忘れちゃった?」
凄く真面目な顔をして問い直される。
待つ事、数秒。
「冗談だと思いたかったのに~…。」
何故か額を押さえるようにして、天を仰ぐ彼。
…何か、ごめん。
そんなに酷くガッカリされると、少しだけ罪悪感を感じるよ。
「まぁ…、仕方ないか。では、改めて自己紹介。俺は御門 悠希。」
「悠希?」
おうむ返しする私に嫌な顔をせず、ニッコリ笑顔で頷いてくれた。
心なしうれしそうなのは、気のせいだろう。
「そ。悠希、15歳。」
「ふぅん、私より二つ上なんだね。あ、私の名前は…。」
次々と明かされる彼のプロフィールに答えるように、自分のプロフィールを返そうとする。
「知ってるよ、唯。稲葉 唯、13歳。」
今までにない、凄く爽やかな笑顔で告げられた。
……な、何故だか恥ずかしい。
私は熱くなった頬を両手で覆い隠しながら、とりあえず俯いてみる。
あれ?おかしいな…。男の子に名前を呼ばれる事は初めてじゃないし、冒険者として活動していたりするから、男性自体に免疫がない訳じゃない筈。
「どうしたんだ?…まさかこの5年の間に、名前が変わったとか言わないよな?いや、待てよ?結婚出来るのは16歳からで…。」
「えっ?ち、違うよっ。合ってるから…その、びっくりしただけで…。」
一人で何やら呟いている彼─悠希に、私は慌てて肯定した。
でも、動揺は拭えない。
本当に私の事を知っているらしい。つまりは、私が、彼を忘れているって事で。
「…唯?」
「あ……。」
小さな声が聞こえて、私は思考の渦から引き戻される。
慌てて声の方を振り返り、その主、雛に駆け寄る。
「大丈夫っ?」
「う…ん、あまり大丈夫じゃ、ないかしら。…御門さん、が…助けてくれたのね。」
額に汗を浮かべながら、雛が告げた。
やっぱり、雛も彼を知っている。
私は、覆面の傍に立っている彼へ視線を向けた。
…覚えていないの、私だけ?




