海の向こうなんて03
「誰だよ、アンタ。」
「あぁ、驚かせてすまない。俺はミセラン・サート。ここの冒険者の宿に長期滞在している格闘士さ。」
少しムッとした感じで悠希が誰何すると、白い歯を輝かせてツンツンヘアー改めミセランさんが答える。
「で、俺達に何か用?」
名前を告げられた事を軽くスルーしつつ、悠希は別の質問を投げ付けた。
それも、思い切り不信感丸出しである。
「はははっ、警戒するのは悪い事ではないからね。うん、ゴメンね。さっきから君達が困っているようだったからさ。」
爽やかな笑顔で悠希の視線を受け止めるミセランさん。
悪い人には見えないけど、悪い人が全てにおいて外見から分かる訳ではなく。
「こらこら、ダメですよサートさん。小さい子達には優しくしてくださいね?」
私も含めて訝しんだ視線を向けていると、見かねた受付のお姉さんが声を掛けてきてくれた。
「いやいや、俺的にはとても親切にしているつもりなんだけれどもね?」
「サートさんはそのつもりでも、初見の相手にホイホイついていくようなお馬鹿な冒険者はいませんよ。」
「あ~…、まぁね。」
受付お姉さんに正論を説かれ、僅かに苦笑いするミセランさん。
とても親しげで、お姉さんからの信頼を得ているようだ。
「本当にごめんなさいね?この人、お節介なところがたくさんあって。でも、本当に怪しい人ではないの。身元もしっかりしているし、冒険者としても腕が確かな事は私が証明するわね。」
受付のお姉さんはレイヤ・ボリストさんという事が、胸に下げたネームプレートで分かった。
「ゴメンよ、レイヤ。俺の潔白を、君だけが分かってくれればそれで嬉しいよ。愛している、レイヤ。」
「何言っているんです?私はこの子達に変なおじさんじゃないからって教えてあげただけで、サートさんの求愛行動を認めた訳ではありませんので。」
「そんなつれないところも好きだな~っ。」
顔を背けたレイヤさんに向け、やたらと過剰な反応を示すミセランさん。
うん、何だか少し鬱陶しいかも。
「行こうか。」
「そうだな。」
「あ~っ、ちょっと待って!」
私は悠希に声を掛け、彼も言わずとも伝わったのか首肯する。そして揃って背を向けた私達に、慌てたようにミセランさんが声をあげた。
「君達、海に行きたいんだろ?」
一瞬前の焦りを微塵と見せず、ミセランさんはにこやかな笑顔を浮かべて告げる。
「…何が言いたい?」
だけどそれは私達には逆効果で。思い切り悠希の警戒心がマックスになった。
例えるなら、背中の毛を逆立てた猫である。




