バケモノ
美しい。なんて美しい色なんだ。
まるで別世界だ、一つとして矛盾せず全て同じ。それがモンスターであっても、パイプであっても、格子の床でも巨大な機械でも。
「ワンオール! はははっ、素晴らしい!」
これが空間、全てが一つであればいい。幾つもの集まりが一つである必要なんてないんだ。
ぼくの理想、秩序の定義。
「もう、誰もブレるな! ぼくが生きる世界に個性なんていらない! あはははっ!」
「お父さん!」
誰だ。
「お父さん! 今助けるから!」
ダレダ。
* *
目の前で燃え盛る父、わたしはそこへ駈け出した。
絡み付く管が原因なのはわかる。でもどうしてかこの管はこれほどの高温に溶けたりしない。
それにこの匂い。
「一体何……?」
少し吸い込んだだけでなんだか体中くすぐったくなるような感じがする。
わたしは咄嗟にウィンドガードの効果を入れた。
でも、この温度はまずい、お父さんの肌がもう随分黒ずんできている。
いくらお父さんが鉄骨人とはいえ、これだけの温度で焼かれ続ければ肌がダメになってしまう。
「何か、火を消せるものは……」
周りを見回すけれど、火を消せるようなものが見つからない。
「そうだ! 廊下に!」
廊下には水が漏れ出していたんだ。だったらあそこまで父さんを連れていけばなんとかなるかもしれない。でも、わたしが直接この管に触れれば、これをちぎる前に自分の手が使い物にならなくなってしまう。
何か刃物がないかと自分の体のあちこちを探している内に、一つのことを思い出した。
「こ、これ。これどうやって使うんだっけ」
腰の後ろに装備していたおじいちゃんからもらったお守りのチャクラム。何かあった時に持ってたほうが良いと思っていつも身に着けていたけど、わたしは一度も使ったことがなかった。
これがチャクラムという円形の刃物なのは知っているけれど、それはおじいちゃんがそう教えてくれたから知っているだけ。わたしはこの柄だけのものをどうすれば良いのかわからずに振り回した。
「わっ! なるほどこうやるのね!」
わたしがその柄を振り回した途端、その中から一本の長い紙切れのようなものが飛び出し、それは弧を描いて柄の反対側に収まった。透き通るほど薄い、弾くとガラスを鳴らしたような音がするなんの金属かよくわからない刃。
地面に落ちている管にそれを突き立てると、力を入れていないのにあっさりと管を切ってしまった。
「お父さん、ごめんなさい!」
どこかに繋がっていた管を切ったことで自由になった父をわたしは蹴飛ばした。
父は仰向けに倒れたのに、まだ笑っている。
「……よし、後は廊下まで連れていければ」
「ちょっとあなた……」
声のした方を振り向くと、入り口のすぐそばで血まみれになった海人がすごい目で私を見ている。
「あ、あなた誰……?」
「はぁ……。それは私の台詞よ。その鉄骨人をどこに連れて行くつもり?」
「だって、燃えてるから……。助けなきゃ」
「……あなたバカなの? 鉄骨人なんて助けてどうするつもり? それにそのゴミは私を殴ったのよ? この私を」
お父さんがあの人を血まみれに。だとすればお父さんを攻撃したのはあの人だ。
「あ、あなた悪い人なの?」
「……あなた、本当に海人? 見たことない格好しているけど」
「わ、わたしは……そう」
「もしかしてあなた、その脱走者と繋がりでも?」
「お、お父さん……」
「何をバカなことを……! たかが素材が父ですって? ありえないわ、あなた」
「だって、そうなんだもん……。お父さんは私を助けてくれた……」
「は? 鉄骨人が? ここでは鉄骨人は完璧に管理されているのよ? それなのにどうしてあなたを助けるなんて状況が……」
「もういいでしょ! わたし、お父さんを助けたいの! どいて!」
「……生意気。いくら同胞でもあなたはちょっと様子がおかしいわ。欠陥品かしら……なら、生かしておく必要もないわね」
目の前に立っている女の海人はそう言って指をパチンと鳴らした。
「な、何?」
すると、大きな音に混じってなんだか聞いたことのないような叫び声が響いた。
後ろを振り向くと、そこにはさっきまでいなかったはずの大きな気持ち悪い生き物が涎を垂らしてわたしの方に向かってくるところだった。
その大きくて異様な姿が怖くて身動きができない。
目の前まできた気持ち悪い生き物はわたしを見下ろして喉をぐるぐる鳴らしている。
「この子は欠陥品。でも、一応この子の異常もサンプリングする必要があるから、頭部を残して後は燃料にしちゃいなさい」
サンプリング。わたしをどうするつもりなの。
その瞬間、痩せた枝のような腕がわたしを掴んだ。
「やだっ! 離してっ!」
すごい力がわたしの体を握りしめる。息が苦しくて吐きそう。
すると、わたしを持ち上げた化け物が大きな口を開けて喉の奥から管が伸びてくるのが見えた。
「やだっ! 誰か! お父さん!」
わたしはもがきながら地面で未だ燃える父を呼ぶが、父は笑ってばかりでわたしに気付いている様子がない。
そして伸びてきた管が私を足から飲み込んでいく。どうにか抜けだそうと暴れてみても、管の中にあるザラザラが引っかかって上手く体を動かすことができない。ついに胸のあたりまで上がってきた管はわたしの肩から上を残して、そこで動きを止めた。
見上げる視線の先には薄くするどい前歯だけがある。
このまま口を閉じられたらわたしは首を切り落とされてしまう。
「死にたくない! やだっ、やめて!」
その時、足元から蛙の鳴き声みたいな音が聞こえ、化け物は管ごとわたしを口の外に吐き出した。
何があったのかわからないけれど、結局わたしは身動きが取れないまま。
うつ伏せに倒れたせいで周りが見えないけれど、助けを呼ぶわたしの首元に熱い息がかかるのを感じた。
「お父さん!? 戻ったの?」
「…………」
お父さんじゃない。
優しくわたしを抱き上げてくれたのは、おじいちゃんだ。
「おじいちゃん……」
目が真っ赤になっている。もうどこを向いているかもわからないけど、でもおじいちゃんはわたしを助けにきてくれたんだ。
わたしを包んでいる管をおじいちゃんが引きちぎってくれたおかげでやっと体が自由になった。
「おじいちゃん、大丈夫なの?」
「…………」
何も喋らない。だけどなんとなく頷いたような気がする。
「なんでよ! どうしてダンジョンキーパーが私を攻撃するわけ!? どうなってるの!」
海人の声がする方向が変わっている。それまで入り口のそばにいたはずの海人は、気が付けば化け物の方にいて、ドロドロの液体を滴らせながら倒れて動かなくなった化け物の中から這い出してきた。
きっと、おじいちゃんが投げたんだ。
「……ス……きろ……」
* *
(ラス、起きろ。ほれ、とっとと目ぇ覚ませよ)
「お父さん!」
「ス、スラスト?」
気がつくと、ぼくはなぜか体中焦げ臭くてしかもびしょ濡れになっている。それに、この場所はあの部屋じゃない。
何があったんだ。
「お父さん! 良かった、戻った!」
「も、戻った? スラスト、どうしてぼくはここに?」
「あの化け物のガスを吸っておかしくなってたんだよ? ずっと笑ってばっかりで……でも、おじいちゃんがわたしもお父さんも助けてくれたよ」
「そうかアイロスさんが……。アイロスさんっ!?」
そう言われて周囲を見回すと、廊下に座らせていたはずのアイロスの姿がない。
「アイロスさんはどこに? どうしてここにいないんだ?」
「隣の部屋。でも、動かなくなっちゃった……」
「ま、まさか!」
ぼくが先程までいた機関室へ入ると、そこには入り口に背を向ける形で立ちすくむ巨大なあの後ろ姿があった。だが、その色が今までとは違って異様に赤くなっている。
近付き触れてみると、それはぼくでも熱いと感じるほどの熱を持っていた。
「ア、ア……」
それまでに感じていた些細な動き、生きている証拠ともいえるその微動が背中に当てたぼくの手の平には感じられない。
「ここまできたのに……。間に合わなかったのか……」
この姿はぼくの知っている死ではない。だが、触れた手の平に感じる熱は明らかにアイロスが生きていないことを証明している。
そして、アイロスの背越しに見やるその前方には、死体。あのイモムシが腕のない下半身を残し弾けて横たわる姿がある。
「お父さん……この人……」
ぼくの隣にきたスラストが立ちすくむアイロスの足元を指差す。その先には目も口も大きく見開いた女海人の死体が変な形になって転がっている。
「こ、これをアイロスさんが?」
ぼくがそう尋ねると、スラストは何も言わずに頷いた。
「こんなところにいタ! あんたたチ! ぼーっとしてる暇じゃないわヨ!」
アイロスと共に立ち尽くすぼくたちの後方から叫び声がした。
随分慌てたように聞こえるが、そもそも悲鳴じみたその声では緊迫感はまともには伝わってこない。
「……お前か。今、アイロスさんが逝ったんだ……、少しだけそっとしておいてくれないか」
「バカっ! それどころじゃないのヨ! 水がきてんのヨ、今、すぐそこまで!」
「……水? それがどうしたっていうんだよ」
「半端じゃないノ、もうとんでもない量ヨ!」
どうやらこの小悪魔は恩人の死を悼む時間すら与えてくれないらしい。ぼくはスラストにこの場にいるよう言いつけて、小悪魔と一緒に廊下の様子を見に行った。
しかし、その状況を目の当たりにしてぼくは小悪魔が焦っている理由と、こんなところにいる場合じゃないという意味を理解した。膝下ほどまでの水位の水が蛇口を全開にしたくらいの水流で廊下を一直線に流れていく。体重が重いぼくですら体を持っていかれそうになるほどの勢いだ。
「な、なんでこんなことに!」
「わからないワ、でも、オチビが上に上がってから一気に流れてきたからきっとあいつのせいネ……!」
「ジ、ジーナさんが……!」
ダンジョンキーパーから逃げた後、アクアリウムで何かしたんだ。そして、この水量から考えると。
考えたくないことだが、パニックを起こしてあの大水槽を割ったのだとしたらありえることだ。だとすれば、ぼくたちが下りてきた地上からここまでに溜まっていた水が流れ込んでくる可能性だってある。
初めからもっと慎重に隠密行動を取っていればこんなことにはならなかった。
「セーレさんはいないし、ジーナさんも戻ってこない……」
死んでしまったアイロスのことをセーレにどう伝えたらいいんだ。しかし、アイロスをここに置いて逃げるわけにもいかない。でも、どこへ逃げれば。
鉄骨人を生き物としてすら捉えない海人が、この階層より下にはもっとたくさんいるだろう。それにマウスフェイス成体だ。あれがどこからやってきてなぜ海人があいつらを駆除しないのかがわからない。
「違う……そんなこと考えている場合じゃないっ!」
徐々に増える水かさ。それはぼくがこうして考え事をしている間にも膝を覆うほどに迫ってきている。
「なあ、お前、アイロスさんに装着することはできるのか?」
「どうかしラ。あのデカブツはもう固くなっているんでショ? だとしたら関節が動かせないわヨ」
「そうか、それじゃあぼくがアイロスさんを担ぐから、お前はもう一度スラストに装着してくれ」
それからぼくは一旦部屋へと戻り、スラストに事情を説明。スラストは少し嫌な顔をしたが、素直にそれに応じ、ぼくはアイロスの死体を担いで部屋を飛び出した。
アイロスを抱えたことでこの水流でも十分安定して道を歩ける。水圧で加速しながら、ぼくはできるだけ急いでどこへ続くのかわからない廊下の先へと歩き出す。
アームズ所持者のジーナはさておき、セーレは無事だろうか。
スラストの話だと、あそこに水が入ってきてからセーレは部屋をでたということだから、水位はまだそれほどではない時だったはず。だが、向こう側の水流や水位を考えると、結局セーレはぼくたちの進む側にいると考えたほうが良さそうだ。
そうして道を進んでいると、突然向い波が飛沫を上げた。
「行き止まりか……」
目の前には大きな壁、だが中心に継ぎ目が見えることから、壁のように見える両開きの扉なのだろう。
しかしぼくがそこに手を当てても何の反応も示さない。
「スラスト、頼む」
そしてスラストが継ぎ目をまたいで両手をそこに当てると、難なく扉は開いたのだった。
ぼくたちはすぐさま部屋に飛び込んだ。そして気付くのは、この部屋には全く水が溜まっていなかったということだ。ぼくでは開けなかったことといい、ここは他とは少し違うところなのだろうか。
冷気が充満して少し視界の悪いこの部屋、確かにぼくはこの部屋に見覚えがある。だが、それまでにはみなかったものもあった。
立ち並ぶ青い液体に満たされたガラスポッド、その中には幾人かの鉄骨人が収められている。そして彼らは皆、眠るように穏やかな顔で目を閉じたまま液体に浮いた状態で、あの女海人の言うような野蛮な管理ではなく、丁寧に保管されているように見える。
「き、奇形……。これが奴らの実験成果なのか」
ポッドに保管されている鉄骨人は、その大体が普通の形ではない。異様に手の平の大きな者や体が小さく丸々と太った者、それから背が盛り上がり犬のように変形した者など様々で一つも同じ形ではない鉄骨人たち。これがあの手記に記されていた生体実験の成れの果てか。
「なんて酷いことを……」
「……サンプリング」
「ス、スラスト何を……?」
「言ってたの、あの海人が……。わたしは他の海人とは違うからサンプリングするって」
「……だから鉄骨人もこうして保管を」
「悪趣味ネ。アタイにはそういうのが必要なのかとかわからないけど、美しい趣味かどうかはわかるワ。だからこれは悪趣味ヨ」
ここに保管されている鉄骨人たちは、ダンジョンキーパーのような海人の入れ物としてのデータというわけだ。これでなんとなく、アクアリウムの水槽に水が満たされていなかった理由がわかった気がする。
ぼくはスラストを見慣れているから、彼らを勝手に悪い奴らじゃないと思い込んでいたんだ。もっと純粋に研究をしているんだと。だが、真実は違った。彼らは、自分たちの必要性のために他生物を娯楽に使い、自らの素材に使っている。
どうしてこうなるんだ。
どうして長く生きるということが、管理とか娯楽とかいうことになってしまうんだ。
「くそっ!」
ぼくが生きていきたいと感じた世界にもあるのか。ここが神の予測域だと、それが、その答えはやはりどうしてもこうなってしまうのか。
「なんで……。なんで全部掴もうとするんだ……」
それが生の答えなのか。どうしたって鉄骨人のように生きていくことはできないのか。
どれだけ知能が高くても結局そうなってしまうなんて、まるでそれが決められた結果であるかのようにすら感じられる。
知的生物が抗うべきは死ではないはずだ。陸人も海人も、本当に抗うべきは生まれうる文明や文化の形が同じくなってしまうというこの状況に抗うべきなんだ。
「結果を変えるんだ……、起こりうる結果を変えなきゃ。今が変わっても、その先が変わらなければそんなのは変化じゃない!」
「お、お父さん?」
スラスト。ぼくの大好きな奴だ。
でも、ぼくはお前と一緒にはいられない。ぼくは、ぼくが苦しむ結末は嫌なんだ。
だから。
「スラスト、ぼくはやっぱり自分の世界に戻らなきゃいけない。本当は戻るつもりなんてなかったんだけど、でも気付いてしまったんだ。お前がお前らしく生きていける世界が、今のお前じゃなかったとしても……そこに、そこにぼくがいなくても。それでもお前はお前だ」
「何? お父さん何を言っているの?」
結果が違っても、意思は通じている。その意思が始まりに戻るだけだ。
また始めるんだ、全てを失わずに全てを変えるにはそれしかない。
「……ぼくは今のお前も大好きだってことだよ」
スラストは未だ困惑している。
ぼくはそんな娘をそっと抱き寄せた。
冷たいその肌の感覚を忘れないために。
「お父さん……。また、会える?」
「もちろん、また会えるさ。でも、その時出会うのは今のお前じゃなくて……もっと別の気持ちを持ったお前だ。だけど、お前はお前だよ」
「お父さん……」
本当は一緒にいたい。だけど、この子に悲惨な結果の中を生きさせたくはない。
あと少しだけ、あと少しだけ今のスラストを抱きしめさせてくれ。
「頑張ってね。元気でね。怪我しないでね」
「ああ……。約束するよ」
そう言ったぼくの体をスラストは突き放した。そしてぼくを見つめる彼女の目は、その綺麗なタイガーアイはまっすぐにぼくを見つめている。
「お前の未来を変えてやる。バケモノがいない新しい時代に!」
そしてぼくが右胸のダイヤルに手を掛けたその時、ぼくの頭部にとてつもなく硬い何かがぶつかった。
衝撃で体が吹っ飛ぶ。
「そうはさせないわ……。そんなエゴに巻き込まれてたまるもんですか」
「セ、セーレ……さん」
「ラス、あんた勝手よ。あんたがそうしたくても、私は違う! 私には私の人生があるんだ! それを変えるなんて許さない!」
「ぼ、ぼくが未来を変えれば……こんな狂った結果にはしません。セーレさんもまたアイロスさんと幸せに……」
「バーカ! バカボケクズ! あんたに何がわかんのよ。アイロス? そんなのもうどうだっていいわ。私が欲しいのはアイロスとの生活なんかじゃない……私が欲しいのは命よ。ここにいるマーマンと同じく私も永遠の命が欲しい。死にたくないの! 当たり前でしょ!?」
「……それじゃあ、あの時の涙は」
「……怖かったのよずっと。アイロスを見ていると、自分の未来を見ているようで。どんどん固くなっていく体、私はまだ死ぬつもりなんてないのに、それなのに体は使えなくなっていく……! 我慢ならないのよ!」
「だ、だから実験台に……」
「そうよ! 何か悪い!? 今さら死にかけているアイロスに何をしたって無駄でしょ? まだ生きられる私が生き永らえるべきでしょ?」
「そんなこと……言わないでくださいよ」
「私は怖い。アイロスの体が徐々に固くなっていくのを感じる度にその恐怖は大きくなっていくの、わかる? その重く暗い感情が。必ず訪れる結末、それは死よ。そうならないために生きてきたのに、必ず人は死ぬの……! 嫌よ! 私はそんなの嫌! だからずっと探してた。そして見つけたの、ジーナが書いた手記をね」
「…………手記」
やはり知っていたのか。それもそうだろう、何せ彼女とジーナの付き合いはぼくなんかよりもずっと長いのだから、むしろ知らなかったんだと思っていたぼくが馬鹿だ。一番初めにセーレに出会った時も、きっと彼女は永遠を手に入れる方法に近づこうとしていたんだ。だけど一人じゃ無理だった。
それでぼくを。
「人が良さそうで、何も知らないバカなガキ……、あんたは丁度いいところに現れてくれたわ。だけど使いもにはならなそうだった。だからまだ使える内にアイロスに特訓させたの、良かったじゃない。あんたは強くなりたかったんでしょ?」
「そういう意味じゃない……」
「そう? まあいいわ。あんたの他に使える奴がもう一人増えた……ヤマト。それにまさかジーナまでダンジョンにトープするなんて言い出すものだから本当に私はツイてると思った。だけど大誤算よ! あの子がまさかダンジョンキーパーに記録されてるなんてね……。でも、ここまでこれれば私のものよ。永遠を手に入れる技術を持って後は上に戻るだけ。だから、邪魔はさせない!」
再び放たれた弾丸はぼくの左肩に命中、ぼくは再び地面に転げた。
「ったく、あんたどんな体してんのよ。この弾、地面に五メートルは穴開けんのよ? 鉄骨人のフリしたバケモノね……全く」
「くっ……」
「それならこれはどう……っ!」
そうして三度構えられた銃口とぼくの間にスラストが飛び込んだ。
「ダメッ! おばあちゃん、どうしたの!? どうしてお父さんを攻撃するの!?」
「……スラスト。どきなさい。ラスはね、私を殺そうとしているの。わかるでしょ?」
「わからないよ! お父さんはわたしを大好きだって言ってたのに、おばあちゃんを殺すはずがない!」
「ああ、もう! あんたもバカね! そいつがやろうとしていることは、今のあんたをあんたじゃなくすってことなの! わかんないの!?」
「いいもん! お父さんは怖いものがいない世界に変えるって言ってる! 私はその方が良い! それに……、それにどうせ死んじゃうなら変わったっていいじゃない!」
「……こ、このバカガキ! 私は死にたくないって言ってんのよ!」
「今も死んでないじゃん! だったら今変わればおばあちゃんは死ななじゃん!」
「う……うるさい! うるさいうるさい! 黙れクソガキ! 私の邪魔をするな!」
我を失ったように激昂したセーレは、怒りに任せてその引き金を引いた。
「スラスト!」
広い室内に銃声が響き渡る。
ぼくが伸ばした腕は、すんでのところでスラストに届かなかった。
浮き上がる娘の体。それは一直線にぼくの胸に飛び込んできたのだった。




