台所より愛をこめて
私はこの家の台所のお釜だ。所謂、付喪神という者だ。最近この家に嫁いできた娘、綺沙良という者がいた。その者は、料理が下手くそだった。使われる私はいつも心地が悪かった。でも、代々この家に使われてきた私。どの女を比べてもこの綺沙良が1番真っ直ぐでこの家主のためを思って下手なりにも一生懸命に作っていた。私は、彼女の成長を見守る事にした。
早朝、彼女は目を覚まし朝ご飯の支度を始める。早速だが、お釜の中のお米と水の対比おかしくないか?
こんなので、炊いたらお米がべちょべちょになってしまう。
ああ、味噌汁の味噌が多い。というか、お米を炊いてないのになぜ先に味噌汁を作る……辛くなるじゃないか。
ああ、豆腐の形がてんでばらばらだ。
「お前……本当に下手くそだ」
「へ!?」
「……え?」
「急に、!あなた誰ですか!人呼びますよ」
「……お前私が見えるのか?」
「ええ、なんなんですか」
「私はこの台所を司る付喪神だ、まさか実体を手に入れるとは…私も驚きだ」
「ところで、綺沙良、お前お釜の水が多いぞ。あと!お米も炊いていないのに味噌汁を作るな!順序ぐらい考えろ!あと味噌が多い!」
「ええ、?はい分かりましたすみません…」
「実体を得たからにはお前に料理の花嫁修業を教えてやろう」
「もう花嫁修業は家で受けてきました、ですが、料理だけは全然ダメで……」
「花嫁修業を受けてこれか…」
「あの!私、旦那様に喜んでもらいたいんです。美味しいって。なので、よろしくお願い致します!」
綺沙良という娘は、真っ直ぐだ。誰かも分からないよく分からない存在である私を信用して頼むのだからな。
「ああ、任せろ。お前の旦那に美味いと言わせてやろうじゃないか」
「ありがとうございます……!お名前はなんてお呼びしたらいいでしょう?」
「竈……かまどと呼べ」
「分かりましたかまど様。早速朝食の用意のアドバイスをよろしくお願いいたします」
綺沙良は、私の毎日のアドバイス……水が多いだの少ないだの細かい事をぐちぐち言っていくと学んでいった。また、ここの旦那の好みはここに立っていた旦那の母親の様子から分かる。そういうアドバイスをすると、綺沙良はハッとメモを沢山とる。
旦那に喜んで欲しい、そんな事前に言っていたな。今まで聞いていなかったが……
「綺沙良」
「はい!かまど様」
「お前はここの旦那が好きなのか?喜んで欲しいと言っていたが。縁談で決まったんだろう」
「旦那様ですか……嘘を言ってもかまど様にはバレそうなので、言いますね」
「私は育った故郷の近くに住む友達、香夜が好きだったんです。香夜も私の事が好きらしくて。私は香夜の元に嫁ぐために懸命に花嫁修業をして参りました。ですが私はお家のためにここに嫁ぐ事になりました。旦那様は決して嫌いではありません。でも、今のところ好きではないです、でもでも!食べ物を美味しく食べてもらいたいのは本心です」
「私の母は料理上手で食材を引き立てた料理がとても美味しくて。私も作れるようになりたいのです」
「綺沙良らしい、いい理由だな。お前なら私が口出しをしなくてもいい良い嫁になれるだろう」
綺沙良の気持ちは聞いたが、その香夜という者への気持ちはどうしたのだろうな。かまどの私が気にする事では無いが。
ある日の夜、夜中にも関わらず綺沙良がやって来た。
「こんな時間にどうした?」
「かまど様……私、今日でお別れなんです」
話を聞くと、綺沙良はあの香夜という男と密会をしていたという。それに旦那が嗅ぎつけ、婚姻破棄という事になったらしい。
私は、台所以外何も知らない。
「お前は旦那に喜んで欲しいと言っていたじゃないか。あの言葉は嘘だったのか」
「嘘ではありません、本気で、そう思っていました。ある日、諦めたはずの香夜が会いに来てその日から会うようになりそして旦那様にバレて……こんな事に」
「お前は香夜と結ばれるのか」
「破棄されましたからそうなりますね、」
「お前はそれで幸せか?」
「前話した様に元々の夢ではありましたね……私は旦那様を傷つけてしまいました。私の軽率な行動で。旦那様の面潰れです。最低で、どうしたらいいのか」
綺沙良は思いが弾け出したようで、ポロポロと泣き出してしまった。私は、綺沙良に寄り添うように話した。
「確かに綺沙良の行動は軽率だった。家主を傷付けた。でも、本当のお前の幸せを手にできるんだ。笑って幸せになれ」
「……は、い、」
綺沙良はこの家を去ったあと、時期が経つと別の女が嫁いで来た。
私はかまどの付喪神。嫁が旦那へ台所より愛をこめて作るのを見守る神。
今日も今日とてかまどに火が燃えさかる。




