魔除けのまじない
高校からの帰りだった。私の家は神社の前を通らないと帰れない。いつも通り神社の前を通ると、声をかけられた。
「おい」
「はい?」
思わず返事をしてしまい、神社への階段を見ると青で統一された着物にツノが目立つ、人ならざるものがいた。
「ほう。私が見えているのか」
私はスっと目を逸らし、歩き去ろうとした。
「あ〜〜、去るのならばこの集落を消し去っても文句は言うなよ?」
私は足を止めた。
「要件はなんですか」
私は祖母の言葉を思い出した。
「この集落に1つ、神社があるだろう。そこは、集落の要と言っても過言では無い。収穫や天気を左右する。昔は生贄も捧げられていた、鬼の居る神社だ。鬼と言うと悪い者と思うかもしれんが、この集落の鬼は失礼をしなければ優しい鬼だ。失礼をしなければ、な。そして、逆らうな。逆らったらその者は_____」
幼い頃、何度もの話をされた。今役立つとは。
「ご要件はなんでしょうか」
「ほう、娘は私の噂について知っているようだな。話が早い。お前、こっちへ来い」
私は今すぐにでも立ち去りたい気持ちを命と天秤にかけて、鬼の言う通りにした。石段を上がっていけばニコリと鬼が笑った。浮世離れした美しさだ。男性に、いや人にそんな事を思った事は今までになかったが、流石は鬼だ。
「止まれ」
「…はい」
鬼の目の前になると止められ、まあそこに座れと言うので近くの段差に座った。
「最近はこの神社の信仰が薄れてきている。若者が増えたからだろう。若者は伝承など信じないのか。別に食ってやってもいいんだが」
「最近の若い者はいいものを食べているから食の足しになりそうだ」
「私を……食べようと思って止めたのですか」
「いや?」
鬼はどこからか出したのか、とっくりで酒を煽りながら話した。
「私が止めたのはお前に沢山のモノがついているからだ」
「……モノとはその霊的な?」
「まあそうなるな。なんでそんなについているのやら。お前が霊媒体質だからか」
私の祖母は視える人だった。疑ってかかっていたけど、昔おまえには霊媒体質があるから霊に乗り移られぬよう気をつけろと言われた。祖母は本当だったのだ。
「……お前は神楽を知っているか」
「なんで祖母の名前を……」
「やはり正解か。顔が似ていた。あいつは霊視ができる者だったな。まだ生きているか?」
「いえ数年前に亡くなりました」
「そうか……残念だ、神楽とはよく話した。孫のお前だから言うが私はあいつが好きだった。連れ去ってもよかった。でもあいつは強気で我儘なやつで…だからあいつの人生を曲げる事は出来そうになかったな」
そうだったんだ……確かにおばあちゃんは我が道をゆくという感じで、誘拐したら叱るタイプだっただろう。その後は口を聞かない!とかするタイプだな。
「お前からは神楽の気配を感じる。あいつが『魔除けのまじない』でもかけたんだろうが、劣化してきているな。」
「お前、霊媒師だろう」
「……なんでそれを知っているんですか」
私自体は霊を見ることはできないが、使い魔の能力を使って見て、困っている人に取り付く霊を祓う霊媒師をしている。だから、沢山霊がついているのかもしれない。そういえば、私は自分の心配はした事がなかった。
「なんでも分かる。神楽の代わりに私が『魔除けのまじない』をかけてやろうか」
「いえ、そんな……大丈夫ですよ」
『まじない』と聞いて私は見が引けた。私は基本霊も見えない、その上なにかよく分からないまじないをかけられたら厄介だ。
「お前の心配は無用だ。ただ私の力を込めたペンダントだから取り外しできる」
鬼はすくりと立つと有無を言わせず、私の首にペンダントをかけた。逆らえばどんな目に会うか分からないから受け取るしかないのだけれど。ペンダントを手に取ると、鬼の瞳とおなじ青色で角度を変えるとキラキラと光った。
「私の祖母にあげた方がよかったんじゃないですか?」
「ふは、お前、鋭いな。本当はこれは神楽にあげたかった。だが神楽には能力があるから必要のないものだった。だが、護身用にもっていて欲しかった」
「……返しますよ。私は祖母ではないですから」
「いや、返すな。同じ血の者……私はお前に興味を持ってしまったからな」
「、は?いや、え?」
「あいつは強すぎた。あいつの娘は霊は見えぬし家業の霊媒師を無視した。お前は正直弱いから守ってやろうと思える」
「お前、名前をなんという?」
「「神」に、菜の花の「菜」で神菜です」
「ほう?名前に「神」の字を入れる仕来りは守ったのかあの娘。そこだけやるな。神菜、気に入った。暇な時遊びに来い。歓迎してやる。お前の弱さなら、連れ去ってもいいだろう?」
「よくありませんよ、家族が心配します」
この方何を言うんだ。祖母は強いから無理だけど、この私の弱さなら連れされると……
「はは、連れ去った場合、神隠しと言われ寧ろ名誉だぞ」
鬼なのに一応神なんだ、鬼神ということか。名誉と言われても、全く信仰心の無い母や父は心配だろう。というか、私はこの世界で生きていたい。
「ふむ、まだ意思がある、か。まあ遊びに来い。私に惚れる可能性だってあるからな?」
「確かにお美しいですが、なかなか私はそれだけでは釣れませんよ」
「ほう?」
鬼と人の恋バトルが始まったのであった。




