夢の中で会ったような
あれ?何かこの光景見た事あるような……というのを感じた事がある人はいるだろう。私は東京に住む高校生。今日も8時30分登校。欠伸をしながら通学のために電車にゆられていた。
電車が駅に着き、音を立てながら扉が開いた。スマホから目線を上げると1人目に着いた人がいた。その人のリュックには馬のようなぬいぐるみのキーホルダーを付けていた。
変わったぬいぐるみだな。あのぬいぐるみ、なにか見た事がある。でも、どこで見たか分からない。その人は一般的な高校生のようで、相手はスマホに夢中で私の事は視界に入れていなかった。電車の揺れと共にゆれるぬいぐるみ。違和感は残った。でも、今の流行りでどこかで見た事があるのかもしれない。
スマホをいじって友達のDMを返したり、short動画を見たり。私が降りる駅は終点。焦って降りることも無くのんびりできる、早朝の時間。私はいつの間にか周りの人が居なくなっている事に気付いていなかった。
「ねぇ君」
顔をバッと上げると、先程気になっていたぬいぐるみが先程の何倍もの大きさで目の前にいた。周りを見渡すと、満員電車はガランとしていて、終電のようだった。
「ここはどこ?」
「ここは時空の狭間。さっき僕の事ジッと見てたよね」
「ええ。夢の中かどこかで見たことがあるなと思って見ていたの。ジッと見つめるなんて失礼だったよね、ごめんなさい」
私は一種の怪奇現象かと思い、とりあえず詫びの言葉を言った。
「僕はバク。人の夢を食べる『獏』」
「バク……」
そういえばバクは夢を食べると聞いたことがある。この見た目、確かに絵で見た事もある気がしてきた。
「僕は昨日の君の夢を食べた」
「もしまた今後、嫌な夢を見たらこの言葉を唱えて。『獏食え、獏食え』ってね。毎度僕が食べられる訳じゃないからね」
「なんたって僕は忙しいんだから。……僕の存在に気付いたのは君だけ。君の事だから記憶は消さないでいいでしょ」
その言い様だと、昨日私は悪夢を見た事になる。そしてこのバクが私の夢を食べてくれた。バクは私の事を分かったように言った。
「そう……食べてくれてありがとう。分かったわあなたの言う通りにする」
バクは微笑むと次瞬きをした瞬間にはあの満員電車に戻っていた。今の時間は何だったんだろう。高校生のリュックをパッと見ると、そこにはバクのキーホルダーは無かった。
私はたまに悪い夢を見る。私の両親は不仲だった。今でも喧嘩をする両親の間に入り、やめてと泣く夢なんかを見たりする。今は、母と2人。私は今日出会ったバクに感謝した。
届くか分からないけれど、
「ありがとうね」
【備考】
『獏』……古代中国から室町時代の日本に伝わった空想の霊獣。神様が動物を創造したときに、最後に余った材料を繋いで作ったのがバクということらしい。その証拠に、見た目にも珍奇なこの生物は鼻は象に似ているが象より短く、サイに似た体型で、前足は4指なのに後ろ指はなぜか3指しかなく、生え方もまばらな短い毛に覆われている。そのうえ外側だけでなく内側も不思議な作りになっていて、胃腸は馬に似ているのに肺は牛にそっくりときている。
地上の動物をまるでパッチワークのように縫い合わせた珍獣。
参考文献 : 和樂webより




